三 「記念日」
自宅に戻り、部屋にこもる。地上波のテレビは殺人的につまらなく、彼はロクな趣味を持たない。スマホもあまり使わず、いつも画面は「かんたん設定」にしている。暇だ。暇田金朗。俺の名前通りだ。金朗はふと思いつき、買ってきたビニール袋を開け、中からマーカーをとりだした。じっと眺めてみると、それはプラモデルを塗装するものだということが分かった。視線がそのマーカーの上に留まり、ひょっとしたら俺はこれに。興味を持ってるんじゃないかと考える。まさか。でも初めてもいいかもしれない。プラモの一体ぐらい時間はつぶせるだろう。いや、多分俺はやるだろう。これはなかなかいい趣味になるかな、と金朗は考えた。今度作るか。金朗の心はそれで決まった。俺も軽いなあ……。
さて、翌朝は大雪に見舞われた。例年にない吹雪だった。
「いや。……行くぞ」
決意した言葉の割には金朗の動作は遅く、布団を頭からおっ被っている。枕元に置いてあるリモコンを操作し、少し気温を上げると、ようやくカタツムリのように布団から這い出てきた。
が、その姿は以外にも薄着だった。さむいさむいと言っている奴に限って、夜は薄着で床に就くものなのだ。
のろのろと着替える。着替え場所は暖房の真下。それでは気合が入らないと思い、急に金朗は暖房のスイッチを切って窓を開け外から冷気を取り入れた。寒気が室内に流れ込み、金朗の肌を泡立たせる。「ぅゔ、さぶっ!」と、金朗。しかし、がくがくと震えながらも窓は閉めない。
身体が七分くらい冷え切ったところで、金路は風呂場に行き、熱い朝のシャワーを浴びた。
金朗はそれから気が変わり、ブーメランを買いに衣笠に向かった。仕事は休みだった。なぜかもう一度ブーメランを飛ばして見たくなったのだ。例えば、二月の十一日――建国記念日などにブーメランを空に放ったらさぞ素敵だろうと思う。これはなかなかいい思い付きのように金朗には思えた。そう、記念日には誰しも空に何かを打ち上げるべきなのだ。ブーメラン、紙飛行機、ペットボトルロケット、等々。俺はブーメランで行く! しかしどうしてブーメランを買うのがあの店なくてはならないのかは、金朗にも分からない。近所の量販店や100円ショップでも別によかったのだ。建国記念日は明日だった。