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ハッピーエンドのマセガキ

 マセガキが惑星最強であるドラゴンを退治してから一ヶ月――

「お身体は、もうよろしいので?」

 海を見下ろす高台に女騎士団の姿があった。

「大事ない」

 晴れわたった緑の空。男装の金髪美人がそれをたなびかせている。


(お前は何をやっているのだ。カスオ)

 先日、彼女が長い眠りから目覚めたというのに顔もみせない。

 黙って消えてしまうとは。奴隷にくせに。

「お兄様は?」

 近くの女がたずねた。

「クナンも姿を見せぬ」

(――まあ、奴に何をいわれても、帰るつもりはないが。地球など)

 この男尊女卑の世をすくうまで。

「しかし、ご無事でなによりです。イライザ様」

「行ってみますか?」

「え?」

「捜索です。お兄様の」

 眼下には何かがある。



 ドラゴンネストの山裾の大きな港町。

 紅色の海に船まで停泊している。

(はじめて見たが。大戦後に)

「これは……」

 街には食物が多い。見たことのない品まで。

 イライザ以下の数名は目を丸くした。昼なのに人も多い。

「一つ、欲しいのだが」

 彼女は青いフルーツを指差した。

「まいど。でも、貝殻は……」

「え?」

 隣の客がやり取りをしている。硬貨で。

「まるで戦前……」

 この星もかつては秩序だった社会を形成していた。

 それがドラゴンによって滅ぼされたのだ。敵も味方も。

「女が喋ってますよ。男と」

 対等に雑談をしている。戦後は力ずくで抑えられていたのに。

「法治国家だそうです」

「ホウチコッカ?」

「『男女平等』『性犯罪は有罪』らしいです。この街」

「なに!!?」



「国王に会わせろって、それは無理です」

「挨拶だけでも」

 つっぱねられた。門番に。

「帰れ帰れ!」

 取り付く島がない。

「ワタシは『竜の騎士団』団長、イライザ・ブラッドだ」

「え?」

「あの『竜の騎士』?」

「本物か?」



 荘厳な白と灰色の王宮。

 あちこちに金色のモニュメントが施されている。

「おい、アイツらだって」

「珍しいよな、王様が許可するなんて」

 宮中の男らが、女騎士団に目をむける。

 舐めるような視線。

(下衆共め)

 彼女らは無視して歩みをすすめる。


「おもてを上げられよ」

 玉座の間で片膝をつき、こうべを垂れているイライザ達。

 それに役人から声が掛かった。

(――どんな人物なんだ。この国を築いたのは)

「!!?」

 窓のそとに宇宙船が見えた。円盤の。

「え?」

「ほう。戻ったのか? 意識が?」

 赤い玉座には見覚えのある顔。

「元気そうだ」

 そこには立派なみなりをした『ToLoveろ』のデビノレーク王みたいなカスオがいた。

「な、なぜ……おまえが……? クナンは?」

 となりに天使と緑髪の少女をはべらせ。

「みんなに持ち上げられちゃって」

「……。やっぱり……倒したのか……。ドラゴンを」

 クソガキは頭をかいた。

(なんという奴……)

「国の名はドラ○ラム」

(まさか、一国の王になるとは――)


「ミーア? その格好は?」

 イライザは抱き枕をひしと抱える天使にいった。

 両手に花というか使用人が二人。小豆色のメイド服を着ている。

「世話をしろって……お兄ちゃんが……」

「何でも言うことを聞くのか? カスオの? 人が良すぎるぞ」

「お仕事だし、それに……」

「それに?」

「……前は悪かったんです。わたし」

「え? 悪かった?」

 カスオも驚いた。

「いい人になろうって、決めたんです。報いを受けて」

「だからって……」

「だから、成り手がいなかったカスオ君のサポートに」

「え!!?」

「大丈夫です。相手がだれでも天使は嫌がりますから。サポート」

「……。そ、そう……」

「でも、お兄ちゃんは眠ったら助けてくれるし、いつも構ってくれるし、何だかんだで紳士的だし……」

「はあ?」

 イライザは顎が外れそうになった。

 紳士的とは。

「おいおい!」

 なぜかミーアが頬を染めている。枕で顔をかくした。

(カスオは胸とお尻にしか興味がなさそうだが。それで結果的に紳士に?)

 天使は幼児体形。

「ちがうんです! 慣れないことを言っちゃって……」

「いい、心がけだ」

 カスオは満面の笑みで肩をだいた。

「むぎゅぅ……」

 その様子を見て、緑髪の少女がふくれた。

「ニアもいい子だぞ」

 彼女も抱き寄せられ笑顔をみせた。

 赤竜のモフモフぬいぐるみをかかえて。

「けっ」

 何をやっているのか。



 あきれるイライザは、一人、応接室へよばれた。

 ひときわ豪奢なもてなしの席。

 促されたテーブルには、戦後、見かけないフルーツや酒類がふんだんに供されていた。

「気に入った?」

 カスオが入ってきた。

「ところで法はどうした? 『男女平等』に!?」

 にわかには信じがたい。このクソガキが。

「どういう……つもりだ……」

「これを見て」

 渡された法典を覗き込む。

 確かに『男女平等』が明記されていた。『性犯罪は禁固一年』とも。

「どうしたのだ。お前が……」

 刑は軽いが、無いよりはマシである。

(この変態がどういう風の吹き回し……)

「ドラゴンネストを壊滅させたら、財宝の他に未知の鉱石も一杯出てきて。そのうえ税金もあるし――」

「ド、ドラゴンネストを!? 壊滅……させたのか!? 一人で!?」

「ミーアに手伝ってもらって。ボスは」

 さらに続けた。

「周辺のドラゴンを駆逐したら、人々が昼行性になって」

(嘘だろ。あの竜の巣には百体近くのドラゴンがいたはず。

 異常者か。魔王か。何という奴だ)

 漂うオーラに、思わず身震いをする。

「予備軍が、性犯罪はもうよいと? 女を二人も得たから?」

「団長のためだよ」

「!? なっ、何が?」

「法治にしたの」

「法治にしたの……ワタシのため?」

 少年は頷いた。

「……。いや、何を言っている……」

 女は震えた。邪険にしたのにどういうつもりだ。

 得体がしれない。

「この国に移住してくればいい。集落の全員で」

 カスオは続ける。

「金で雇った猛者達で衛兵も組織した」

 『テイマーズ』の残党も雇用したようだ。治安も回復するだろう。

「それに――」

「それに?」

「最強の僕もおる。誰も攻めてはこられんぞ?」

 どうしたのだ。この男は。

「安心であろう?」

 以前とは何かがちがう。

 何故か頼もしく――

「后にならんか? ワシの」

「!!? え!?」

「王后だぞ?」

「な、何をいっているのだ……。后?」

 年が十才以上もはなれていそうだが。

「お、お主はまだ子供ではないかッ! なまいきだぞ!」

「じゃあ、また集落に帰る?」

「……。置いてやってくれ……。女達は」

「あれれ? ここまでしてやったのに?」

「……。だって……」

(ガキじゃないか)



 不意に音がした。ガシャンと何かが閉まるような。

「!?」

 マセガキが隣に腰をおろした。

「こっちへ来い」

「あぁ!?」

 イライザは距離をとった。下劣な手をはらい。

「どうなってもいいのか?」

「なにがッ」

「兄が」

「!!?」

「少し前から行方知れずであろう?」

 宇宙船は中庭にあるが。

 なぜ、ここにいるのか。クナンが。

「捕らえてある。地下の牢獄に」

「なっ、なんで!?」

「かの異星人が、不審な動きをしていたのでな。処刑かな?」

「そんな! 卑怯だぞ――」

「選べ」

「え?」

「兄を殺されてそのうえ邪険にされるか、

 あるいは后となり地位を得てより良い国にしてゆくか」

「お、おのれ……っ!!」

 イライザは所持する盾に手を入れる。

「理想の国が作れるチャンスだぞ?」

「うっ……」

 マセガキが顔をよせてくる。

「今ごろ、お前の兄は……」

「な、なんだ!?」

「ガチムチに……」

「!!?」

「早くいたせ」

「わ……わっ……。お主がワタシに王位をゆずれば……」

 カスオに腕をつかまれた。

 そして――衝撃の――言葉を吐かれる。

「揉ませろ。おっぱいを」

「!!?」

 少年が迫ってくる。

「貴様! なにを言って――ワタシは今までそんなこと……」

「乙女か?」

 このクソガキめ。何ということだ。

「ワタシに勝てる男など、居なかった!」

「ワシが勝つ」

「あぁああーーっ!」

「お前は選ぶしかない! 二択の、後者を!!」

「しかしっ!!」

「つべこべ申すな! これまでじゃ!!!」

「――ほっ、法律を破るのか!? 自分で制定した法をッ!!!」

「なに?」

「すぐには決められぬ! それにも関わらず無理やり手篭めに致すというのか……!!」

 法治国家ではないか。性犯罪は禁固一年。

 それに「団長のために」と。

「それは適用されるものだぞ?」

「え?」

「民草に」

(なに――?)

「ほら。『国民に適用される』と明記」

「お前は……?」

「国王じゃ」

(と、いうことは……)

「ちょっ! あぁっ! ふざけるな!!!」

 もう変身した。LLに。

「貴様のような女の敵! せめて一矢報いて――」

「あららら? スカートが」

「!!?」

 スカートが、短くなっている。ものすごく。

(ど、どういうこと?)


「とにかく王は、上の存在じゃ。法よりも」

「卑怯もの!!」

 何という奴だ。

 一見、甘い言葉で女をおびき寄せておいて、自分だけ好き勝手しようというのか!

「兄がどうなっても知らぬぞ? 急がねば」

「あぁぁーーッ!! 決められぬッ!!!」

「今すぐ決めよッ!!!」

 スカートがどんどん短くなってゆく。

 何だ、これは。

「それ『バイオアーマー』らしいぞ。クナンが言うには」

「バイオアーマー?」

「性的興奮に応じて変化していく」

「はあッ!? 性!?」

「エルレイヤーは『性エナジー』で強くなるとか。だから、どんどんエッチになった方がいいそうで」

「ふ、ふざけるなッ!! ワタシがお前などに!!!」

「短くなってるじゃん」

 もうパンツよりも上。手で抑えている。

 胸もおかしなことに。

「ちょっと! 兄上! 兄上はどこだ! 文句を言って」

「逃がさないよ」

「貴様……、マセガキ。ワタシは強くなっているのだろう」

「ちょっ、ぼぼぼぼ僕は、ドラゴン百体をっ!!!」

「……」

「す、少し強くなった程度で、勝てると思ったらこまるな!」

「あぁっ!!!」

 マセガキが、短くなったスカートから手を離させようとする。

「この変態!!! エロガキ!!! お前はおかしいッ!!!」

「もう逃げられないよ。ウブのお姉さん」

「!!!」

 両手をとられた。

「ちょっ!」

「兄を守る気がないと? 可哀想に!!」

「うっ……!」

「理想の国よりおのみさおを大事だと? 愚か者め!!」

「あ、うっ……!」

 イライザはマセガキに迫られて、顔が、熱い。

「まってくれ……」

「兄がガチムチに、可哀想に!!!」

「あうぅ……」



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