ドラゴン強すぎワロタのマセガキ
女騎士は目を丸くした。カピバラに追われる男をみて。
「カスオ……」
「ひぃいいいーー!!!」
いつの間にか、また空はグレーの雲におおわれている。
日の光がさえぎられた。
「おい、モンスタキラーじゃねぇのかよ」
「おっかしーなー」
「君は、良い子だけど、そろそろ僕もね!」
「むぎゅぅ……」
神の使いに「能力」をもらったが、それは通用しなかった。
真っ白い部屋で少女につめる。パンツを被り。
「むぎゅぅ、じゃない!」
「おい。何をやっている」
ドアが開いて金髪女が入ってきた。
「ヒイッッ!!!」
カスオは思わず飛び上がった。
「ひいっ、じゃないよ!」
顔の布に不審な目をむけられる。
すぐにパンツを脱いで隠した。頭から。
「これは……ですね……」
SFチックな宇宙船の内部。
窓のそとは雨。ざざ降りの雨。
「た、たた助けられて……。乗ってもいいって……」
「本当に弱いヤツだな。奴隷」
イライザは布切れを取り上げた。
「あーーッ!!!」
お尻をたたかれる。
「女に手をだすな! お前如きがッ!!!」
「痛いんですけど! いたいんですけどぉッ!!!」
誹謗中傷され暴行される。差別だ。イケメンにはメスの顔をみせるくせに。
「あれ? おねーさんも、確か……変なことされ……」
「――!!? 見てたのかッ! このマセガキめッ!!」
「森の中から惨状を――ぐわっ!!!」
女騎士は胸倉を掴んできた。そして前後に揺さぶられる。
「むぎゅぅ……」
「てめぇッ!」
「い、いたい……れす……」
頬をパンパンと叩いてくる。鬼の形相で。
「仲間を庇ったのだッ! 貶されるいわれはないッ!!」
顔の近くで怒鳴られた。大声で。
「分かったかッ!!!」
「わ、わかった……」
ずいぶんワイルドなお姉さんだ。ヒロインではない。
「『分かりました』だッ!! 何度も言わせるなッッッ!!!」
「……。わかり……ました……」
(弱いのは天使が悪いんだ。無能の天使が)
まったく使えないモンスタキラー。何なの。
ミーアを睨んだ。
「ひぅっ」
「女に注意するなッ!!! 貴様ごときがッ!!!」
「!!?」
「いいかッ!!! 次から許さんぞッッッ!!!」」
「……。ふぁい……」
なんと、イライザがミーアを庇いだした。
「ありがとう……。でも……」
「女でしょ、ナメられちゃ駄目よ! 男なんかに!」
(フェミニストか)
言動があやしい。
窓の下に目をむけると少し小雨になっていた。
「……」
カピバラ君も見上げていた。
宇宙船にはイライザの他にも女騎士がいるはず。
それら三人と共に、男が入ってきた。
「力を貸してくれ。クナン」
黒髪の男前に言った。カスオを投げ捨てた女が。
「ミリーが死んだ。お前らに協力し」
「……。それは……すまない……」
フェミニストは怒られた。
「この星は、我々の敵ではない」
「敵ではない?」
女は首をかしげた。男は続ける。
「攻撃命令が出ていない。支援もできん」
「この人でなしッ! 女性が苦しんでるんだぞ!!」
二人はどういう関係なのか。
父さんは許さん。
「……。動くことなど出来ん。許可もないのに」
「じゃあ裏で工作してよ――。!? な、なんだ」
金髪にせまった。クナンが。
「て、てめぇ……」
「分かった。せめて、これを」
男は、イライザに何かをわたした。
「ん?」
円形の盾。
「自分の身も守るんだ。リリー」
「リリーではない。ワタシは帰らない」
「本当は、こんなこと……」
そのとき、爆炎があがった。はるか遠くの森に。
「うわーー!!」
「きゃぁああーー!!!」
空は曇天で怪しい黒影が舞っている。
「男共だーー!!!」
ヒャッハーらは再び襲撃しだした。
イケメンなどはいない。暴力に駆逐され。
「攻撃しまくれぇええーー!!!」
「来るぞぉ! 奴らが!! 『竜の騎士団』が!!!」
「今日こそ叩き潰すのだぁッ!!!」
「グァアアアーー!!!」
ひときわ大きな地鳴りがとどろいた。
巨大な足が民家を踏みつぶす。
「わぁあああーー!!!」
逃げまどう女達。その後ろから真っ赤なドラゴンがあらわれた。
それは丸い顔で鼻先はない。細い首からシッポまで背びれが続く。
「ひょっひょっひょっひょっひょっひょっひょっひょ」
使役するモガーン様が笑った。ボロボロになった服で。
「やれヤれぇええい!!! 出来るダけ派手に!!! 皆殺しだぁあアあーー!!!」
「みなごろしぃいいいーーッ!!!」
「!」
だが――男達を斬り裂いて――ドラゴンのまえに立つ者が一人。
「!?」
その剣を捨て、背負った盾をとりだした。
「なんだ!?」
太陽を思わせる意匠の入った円形の盾。
それに手を差し込んだ。
とたんに紫雷が発生し、燦然たる光が溢れだす。
回転しながら輝く何かが現れた。長い刀状ビームブレードを抜きはなって動きを止める。
盾で身をまもり、ビームブレードを斜めにたらした。
「宇宙の悪はゆるさない!
愛の戦士・エルレイヤー!!」
「なに!?」
「変身した!?」
白と青を基調とし金で縁取られた鎧をまとう変身ヒロインが現れた。
灰色の空から光がさしこむ。
「……」
角ばった鎧とは対照的な、肉感的な太ももがミニスカ黒ニーソに挟まれて光っていた。
「うぉおっ!!」
それが、ドラゴンの前腕をかわしてジャンプした。
男らがその悩ましい太ももを見上げ、釘付けになった。
「はあっ! くらえッ! LLブレーードッッッ!!!」
上空からドラゴンの身体に一閃。
ビームブレードが、その一撃で胴体を断ち斬った。
「グギャァアアーー!!!」
「うぉおおおーー!!!」
女からは勿論、男からも歓声があがった。
「はあっ、はあっ」
彼女は――寝かせた瓢箪のような――白ラバーの胸が出ており、跳ねるたびにボヨンと揺れた。
その赤い瞳とブロンドの髪は、いつも以上に鮮烈。
LLブレードの鍔部分にも、赤くかがやく宝石があった。
「な、なんですか……? あれ」
上空の円盤のなかで、少女が男にたずねた。
エアモニターで地上の様子をみている六人。
「最終兵器だよ」
カスオは天使のひざまくらで寝息をたてる。お子様もお疲れ。
「――ドラゴンは強いけどLLはそれを凌駕する」
「えぇ?」
サブモニターに各モンスターの強さが表示されている。
・天使(三人力) ・イライザ(十人力) ・ビッグカピバラ(百人力) ・タイタンウィザード(千人力) ・レッドドラゴン(五千人力)
「天使って? この子?」
「え? 五千人力を倒すんですか? 団長が?」
「本当は、剣を向けるとマズイんだけど……。この星の人達に」
クナンは眼下の女の跳躍を、困惑の顔でみていた。
「えーーい!! ドラゴニックバーストッッッ!!!」
もう一体の黒いドラゴンが真っ二つにされた。
ミニスカートをひるがえし、高いヒールが着地する。
「な、なんだ、この女……」
「相手は……ブラックドラゴンだぞ……最強の……」
かつて、ドラゴンへまともに対抗できる人間などいなかった。
戦争の切り札として持ち込まれ、それが世界を焼き尽くした。
「おノれ……。ナんだ。このアマ……」
モガーンらはやっとのことで手懐けていた。それを正面から叩き殺すとは、異常な事態。かつてない悪夢。
「はあっ、はあっ、はあっ」
さすがのイライザも、玉の汗をかき肩で息をしている。
鎧は傷だらけだが、それは徐々にふさがってゆく。
(すごい、このアーマー。――うあッ!!!)
不意に炎につつまれた。
地響きとともにレッドドラゴン五体が現出した。
「じょ、冗談でしょ……」
いくらドラゴンを凌駕するといっても、数が多い。
「バケモノ女め!!! やれやれーー!!!」
「まだまだいるぞ!! この星にドラゴンはッッッ!!!」
手懐ける術をもつ彼らは更にぶつけてくる。
「死ねイ! 女ぁアああっ!!!」
「――ドラゴンを倒して集落をすくい、財宝もとり戻す!」
イライザは気合をいれた。
「ほザけぇ、小娘がぁっ!!! ひょひょひょ!!!」
「やぁああーーッ!!!」
飛びかかった。モーガンの竜に。
が、避けられた。
「ぐぁっ!!!」
前腕に弾かれる。
「どぉシたのかなぁ、お嬢サん? ひょひょひょ」
様子がおかしい。
(まずい……)
「んン? ぷるぷるシておるな。綺麗ナ太ももやオ胸が」
(これまでか……。引くべき)
「きゃあっ!!!」
飛翔したところを、何かで殴られた。
地面に激突。尻尾のようだ。
「うわぁあああーー!!!」
「……」
注視していた女らが逃げだした。敵わないとふんだのか。
「カッカッカ! 戦争に出ていたのは男だけ!」
「!?」
「女はモンスターを扱えぬようだな!! 誰も!!!」
男達に嘲られた。
「負けない。それでも。ワタシが負けたら……集落が……」
あたりが暗くなった。
「ぐぬっ!!!」
上からドラゴン。
それを受け止めた。片膝をつき。
「ガハァッ!!!」
だが、長くはもたない。全身がバラバラになる。
地べたをなめ、身体は動かない。
「あぁああっ!!」
鎧がなければ即死だった。が、もう……。
「きゃぁあああーー!!!」
(に、逃げてくれ……みん……な……)
これまでか。何もかも。
最後はあっけなくやってきた。
(すま……ない……。母さん……。クズ共を……倒すって……)
イライザは力尽き、その目は静かにとじられた。
「はーっはっはっは!」
逃げまどう村人を襲撃するドラゴン。
「こいつは高く売れるぜぇ!!!」
女をさらって飛び立つヲタク達。
「いい時代が、きやがったぜぇッ!!!」
「ギャアアアアーー!!!」
(!?)
朦朧とする意識のなか、何かが声を上げたように感じた。
(な……に……?)
あたりが暗い霧におおわれている。
その、ぼやけた視界を何かが跳びまわった。
(黒い……? 黒い……何?)
「グァアアアアーー!!!」
叫びを上げるドラゴンが、火炎を放出した。
右手の一振りで相殺する。
「!!?」
朱色に染まった。グレーの空が。
「なニぃいいっ!!?」
ジャンプして手を振りまわす。
「ガァアアアーー!!!」
体が軽い。
黒爪が空間を走り、そのオーラが竜をも斬りさく。
「ギャァアアアーーーッ!!!」
数体がバラバラになって落下する。
賊の頭上に降り注ぐ。
「ど、どういう……ことだ……」
バケモノ女を倒したドラゴン。それを圧倒している子供。
あたりには紫の霧がたれこめる。いや、巨大なオーラか。
「なン……だ、こレは……」
「トドメだ。お前」
「ナに!?」
「デモンズパニッシュメン」
「焼き払ぇエええーーいッ!!! このクソガキをぉオおおーーッ!!!」
子供は回転しながら突っ込んだ。炎の中。
「もらっターーッ!!! 踏み潰せぇエええーー!!!」
潰された。
「グゲェエエエーー!!?」
だが、鮮血が空へ噴出した。
「ば、馬鹿なっ!? 一撃!? イちげキぃいいーーッ!!?」
胴体にぽっかりと穴があいている。下から上へ空洞が。
「モガーン様ッ!!?」
竜の背から転げ落ちた老人。
そばに降り立つ人影。
「よくも……我らが団長を……」
女騎士が三人。浮遊する人影も。
「ひぃいイいーー!!?」
ドラゴンが倒れ、その意外な事実を受け入れられないのか『テイマーズ』は顔を見合わせた。
「もう駄目だッ! わけがわからぬ!!」
「引けひけぇえええーー!!!」
「たのん……だぞ……、ゾムル首領……」
無法者の中核であった老人の手が力なくたれた。
「お兄ちゃん!」
「?」
ミーアが飛んできた。
「この武器……、何だよ?」
モンスターや人間にはボコボコにやられたのに、ドラゴンには通用した。黒い爪。
「ドラゴンキラーかよ?」
「レッドドラゴンキラーです」
「え?」
「レッドドラゴンです。今、聞きました」
「えぇ……!?」
モンスターの中の、ドラゴンの中の、レッドドラゴン専用。
「うぉおおおーー!!!」
「やっっったぁああーー!!!」
汎用性がなすぎだろう。
オーラが引っ込み風景が元にもどった。人々が騒いでいる。
「す、すげぇ。デモンズ? パニッシュ?」
適当につけた技名で、顔が、熱い。
でも本当に魔物にでもなった気分だ。圧倒的つよさ。長い爪。
「かわぃいいいーー!!!」
「え?」
抱きしめられた。オバサンに。
「ちょっ」
おねーさんがいいんですけど。
「おねーさーん!!!」
オジサンに抱きしめられた。
「何でだよぉおおーー!!!」