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反撃とマセガキ

 美女のお尻を追おうとしたが『居眠り天使』がいたのを思いだした。

「んお? どしたの? お兄ちゃん?」

「……。逃した魚は大きい……」

「?」

 少し、子供らしからぬことをして失敗したのかもしれない。求婚とか視姦とか。

 もっと子供っぽく。「武器」はモンスタキラーだけではない。

「どしたの? 真剣に……」

 子供になったら性欲が10分の1になる。それに伴い冷静になった頭が適切な判断をくだし問題解決へとみちびく。

 可愛くいこう――



 ドラゴラシルは夕闇に染まった。

 砂の大地に火がともる。あちこちに。

「?」

 夜行性の人間が頭上に布をはり、品々を並べだした。

「それ、ください。二つ」

 カスオは子供らしく目をほそめた。

 怪しげな品と共に、いろんな色の実がたくさん。

「さっさと持ってけよ!」

「あ、ありがとう……ございます……」

 店主に怒られながら果物を二つ持ってきた。

 だが、持ってきたのはカスオではない。

「ん?」

 みすぼらしい少女が手にしている。

 緑髪が印象的。

「どうぞ……」

 店主はデカくて褐色の肌。かついでいる剣がふるえた。

 ――女騎士に貝殻をもらって買物にきたのだが。

「ったく。とれぇな! おめぇはよぉ!!」

「ごめんなさい……」

 嫌な場面を見せられた。

 カスオがバイトをしていたときのよう。鬼上司とうつむく少女。

「あとで奥に来いッ!」

 デカいオッサンは上半身にボロボロのローブ。左手に魔法の杖。

 大人の世界。パワハラ。


「あの山って何?」

 少女から話題をそらす。

 はるか彼方に飛竜の舞う大山がみえた。灰色の。

「ありゃ『ドラゴンネスト』だ」

「ネスト?」

「赤竜の巣。誰も近寄らねぇぜ。ヤベェからな」

 色黒のオッサンは溜息をついた。クソジジイ。

「迷惑してんだけどよぉ」

「何で?」

「そりゃ、おめぇ。集落を焼くわ子供をさらうわで、ロクなことしねぇしよ。財宝も奪うし」

 不敵な表情をうかべた。

「おめぇも! とって食われるぞッ!!!」

「ひぃッ!?」

「ガハハハハッ!」

「……」

 ちくしょう、子供を馬鹿にしやがって。

(武器がマンキラーであれば……)

 この店はフルーツ以外にも怪しげな品々が置かれている。恐らく魔法の。店主は剣をかついでおり、『魔法剣士』っぽい。

「ありがとよー! クソガキー!」

 ――杖が効きそうにない。オーラが凄い。紫の。

 憎っくきジジイの前を去る。すがるような少女をのこし。


「女の子には優しくしてあげて」

「!?」

 ミーアが言い放った。オッサンに。

 カスオの手からフルーツがぽろり。

「はなしなさい。その汚い手を」

「はぁ?」

 彼らは顔をちかづけた。

 案外たくましい。この女。

「女は奴隷なんだけど。この星では」

「えぇ!?」

 天使は顔をしかめた。

「お前ら異星人だろ?」

(女が奴隷? 暴力の世界だから?)

 都合はいいが、お店の少女を見せられると複雑。

「そうだとしても! 駄目よ!!」

「ドラゴンには気をつけな。マジでヤバいからな」

 ミーアなどには目もくれず、少女の背中をおしてテントの内へ。

「ちょっとー!」

「魔法以外に手はあるか?」

 カスオの問いに黙りこんだ。

「よく立ち向かえたな、それで」

「……」

 店内からはすすり泣く声。

 だが、テント全体に魔法結界。無理だ。

(すぐに帰ってきてやるからな。力をつけ――)



 赤い海のみえる崖のうえ。鬱蒼とした森がひろがる。

 その先の地面に木の棒がささっている。

「うっ……」

 いくつかの人影。嗚咽がもれる。

 女騎士も肩をふるわせた。

「だめでしたね……」

「ミリー……。お腹に……子供も……」

 連れ帰った被害者は、打ち所が悪かったのか急逝した。

「国が崩壊したら……これだ……」

 人でなしどもは法がなくなったら暴れだした。ネットニュースでも毎日性犯罪が報じられていたほどだ。そうなる。

「でもマズくない? 異星人だよ? 彼女」

 ノーマルスーツは異世界人だったか。

「会わせる顔がない。アイツに……」

 イライザがうな垂れた。

「彼女が、届けてくれていたんだ。食料を――」

 女騎士団のあいだに沈黙がながれた。

「大変だー!」


 森林に火の手があがった。黒煙がのぼっている。

「これは……」

 近くの集落に焼けこげた家々。

 田畑はあらされ、家具や調度品も消えていた。

「うっう……」

 森の中から子供が出てきた。

「身投げしました。この子の親……」

「……」

 死者や行方不明者が相当いるようだ。

 集落にいくつかのテントが立った。『竜の騎士団』が与え、その一つで協議が開かれる。

「もうゆるさん!」

「クズ共め!」

 その後、イライザはテントで服をぬいだ。

 暴力の支配するこの星は毎日が文字通りの戦い。

 人が集まっても、無法者らがすぐに手をだし霧散して団結できない。

「くっ……」

 イライザは濡れタオルを手に、汗を拭いた。

(母さん、ワタシに力を……)

 ――不意に物音がした。

「誰だッ!!!」

 片腕で胸をかくして剣をとる。

 テントの入口。覗き込む少年。

「てへへ」

「……。出ていけ。いきなり求婚してきた奴」

 その目が変わった。

「きゃぁあっ!!!」

「ワンッッッ!!」

 右手の剣柄で殴った。ガキの頭を。

「はあ、はあっ、はあっ」

「お兄ちゃん!」

 保護者らしき天使も飛んできた。太い棒にまたがり。

「無礼者ッッッ!!!」

「ひっ!」



「無罪……のはず……。性犯罪は……」

 カスオは、ボコられた。

「勘違いするなよエロガキ」

 胸倉をつかまれ持ち上げられる。相手の背丈は二倍ほど。

「『力こそが法』なのだ」

 下卑た笑みを浮かべる女。

「む、ね、ん……」

「お兄ちゃん!」

 セクシーなお姉さんの前で力尽き、投げ捨てられた。

 襲われている村へゆけば、再会できるとふんだのだが。

「調子に乗るなよ! 馬鹿ガキがッ!!」

 あかん。何かを変えねば、冷静な頭脳で。

 犬は駄目だ――



 翌日。女らは仲間を引きつれ山へはいった。

「おねーさーん。なんなんですかー!」

 盾や兜を荷車で引かされる。女騎士20人分の。

 腰には縄。離れられない。

「……」

 荷車には女物の衣服やパンツも見えているが、喜ぶ余裕はない。

 枕に乗った天使が不安げな顔でついてくる。

「貴様は奴隷だ。ド、レ、イ」

 自分の腰に手をあて薄目で顔をよせてくる鬼。

「助けてあげたのに……」

「お前じゃない。その子だ」

 ニヤニヤと笑みを浮かべる女。

 そして天使に貝殻をなげた。

「?」

「買い受ける。このクソガキを」

「そ、そんな……」

 カスオは胸倉をつかまれた。

「ビシバシしごいてやるからなッ! 腐った性根をッ!!」

「ひ、酷いことしたら承知しないからね」

 おぉ、ミーアが天使に見えた。


「ところで、何処に行くんだ?」

「黙れ、奴隷」

 ぴしゃりと叱られる。鬼に。

 木々の生いしげる鬱蒼とした森のなか。暗澹たる森のなか。

「『何処に行くんですか』だ!」

「いだだだだ」

 ちから一杯、頬をつねってくる。

「分かったか? 済みませんは?」

「わわわわかった! す、す……」

「早くいえ」

「すみま……せん……」

 屈辱に震える。女などに解らされ。

 相手は背中をどついてきた。破顔して。



「!!?」

 不意に、風をきって何かが飛んできた。

「ん?」

 女が一人、合図をしている。

 目をこらすと何かがみえた。暗い森のさきに幾つもの山小屋。

「お前達……」

 イライザが仲間に目配せする。

「なん……ですか?」

 カスオは恐る恐るたずねる。

「いいか。手はず通りに……」

 女らは頷きあった。無視をして。

 死ね。クソビッチ。

「かかれぇええーーッ!!!」

「ワァアアアーー!!!」

「ウォオオオオーー!!!」

「え? え? えぇ?」

 森の中から女騎士団が踊りでた。

「!!?」

「お、お前ら! 竜の騎士――グワッッッ!!」

「いっけぇえええーー!!!」

 山小屋の外で、いかついヲタクら四五人が飛び起きた。

 卒然の襲撃に驚き戸惑っている。


「ワタシがリーダーだッ!! 母の恨み! 思い知れッ!!!」


(こ、これは……)

 男らの腕には入墨がある。ワームの。

「団長!! 後ろッ!!!」

「はぁあああーーッ!!!」

 剣を抜きはなって敵を斬りさいた。

「グヘェッ!!」

「流石です」

 彼女は血を振りはらい、周囲を見回した。



「はあっ、ハあっ、はあっ!」

 不意を突かれた『テイマーズ』の居残り組は、散り散りになって森のなかへ入った。

「時間ヲ稼げ! 貴様らは!!」

「承知した! モガーン様!!」

 小さな年寄りが地面に何かを書いている。

 ローブのしたに青白い肌、長い鼻。骨と皮の腕。

「ゾムルはどうシた?」

「まだ祝宴に。その後ドラゴンネストへ」

 地面が輝きだした。

「おノれ、女共め……。見てオれよ……」


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