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2.おろかな国は物語に沈む

 昔、小さな国に一人の王子がおりました。

 彼はある日森の奥で美しい娘と出会いました。

 迷い込んだ王子の怪我を娘は魔法で治し、手厚くもてなしました。


 娘の美しさと優しさに感動した王子は彼女を自分の国へ連れて行きました。

 彼女はその魔法で傷ついた人々を癒し日照りが続けば雨を降らせ、聖女だと言われました。

 そして不思議なことに娘が来てからこの国の人間は森に入っても魔物や獣に襲われなくなりました。


 それから暫くして、王子は隣国の姫と新しい恋に落ちました。

 両国の王と王妃もそれを歓迎しました。

 森から連れてこられた娘は王子の心変わりを責めませんでした。ただ森に帰りたいと願いました。


 しかし隣の国の姫は森の娘の正体は悪い魔女だと王子に伝えました。

 だからこそあれだけの力があるのに人目を隠れて森に住み、不思議な術を沢山使えるのだと。

 このまま森に帰せば王子を恨んで殺す計画を立てるだろうと。王子は愛した姫の言葉を信じました。

 そして王や王妃と相談して娘を処刑することにしました。


 娘に恩がある民衆に逆恨みされないように恐ろしい魔女であるという嘘を国中に広めてから殺しました。

 広場で今まで助けてきた人たちから石を投げられ酷い言葉を叫ばれながら娘は槍で貫かれました。

 一本だけではありません。何本も何本も。時間をかけて苦しめる為に心臓は一番最後でした。

 見物していた姫は扇で隠した口元でにやにやとしていました。王子は少しだけ青い顔をしていました。

 けれど娘を助ける為に立ち上がることも声を上げることもありませんでした。


 やがてぐったりとした娘の真っ白な体から血が全部地面に流れた時、本当に恐ろしいことがおきました。

 国の外から何百、いや何千の魔物が一気に雪崩れ込んできたのです。

 広場にいた民は全員細切れにされました。


 王と王妃は翼竜にくわえられ、とても高い所から落とされて真っ赤に潰れました。

 逃げようとした姫は泣きながら魔獣に手足を食われました。


 真っ赤になった広場の真ん中に真っ白な娘が磔にされていました。


 とても大きな黒い狼がやってきて、その口で娘に突き刺さった槍を全部抜いてしまいました。

 心臓に突き刺さった槍が抜かれると娘はふうと息を吐いて生き返りました。 


 地面に降りた娘に王子は縋りつき、赦しを乞います。けれど娘は悲し気に首を振るだけでした。

 人を愛し人に裏切られた魔女は最後に王子にくちづけをして言いました。


「可哀想な貴男、魔王の娘が人間如きに殺せるわけがないのに」


 黒い狼に跨ると娘は国から消えてしまいました。

 その後王子は、魔王の娘を国に引き入れた罪で生き残った民に首を刎ねられました。


 隣国の姫の亡骸は不思議と見つかりませんでした。

 ただ国を滅ぼした悪女として名は残り続けるでしょう。


 生き残った少しの民は呪われた土地を捨て、そして国には誰もいなくなりました。


 けれどその国があった場所に旅人が迷い込むと、今でも首のない男の幻影が見えるそうです。

 彼の首を見つけてあげれば救われるかもしれませんが、きっと誰もそのようなことはしないでしょう。



おしまい

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王とかいる世界観で首の無い幻影とか言われると王子はデュラハンになって(実力はなし)首を探し求めながら能力と人望がない故に1人孤独に狭い範囲でずっと探し続けてそうでいいざまぁですw 魔王…
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