第十二話~翼と服~
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「お兄さん、起きてください。お兄さん。」
体を揺すられ、起き上がるとそこには風呂に入り終わったのだろうか灯が俺の顔を覗き込んでいた。
「ああ、すまん、眠っていたみたいだ。」
「いえ気持ちよさそうに眠っていたのでそのままにしておこうと思ったのですけどちょっとお願いしたいことがあって…」
そうして灯をよく見ると翼と手が隠してはいるが明らかに上を着ていなかった。
「灯!?どうして上を着ていないんだ!?」
「ち、ちがうんです!着ようとしたんですけどこの手だとどうしても着づらくて…
無理に着ようとすると爪が引っ掛かって服を傷つけちゃうんです。」
脱ぐときはそれほど問題にはならなっかったみたいだが着るときに不便になるのか、灯の手でも着やすい服も作らないとな。
「じゃあなるべく見ないようにするから後ろを向いてもらって手を上げてもらってもいいか?」
「わ、わかりました。」
灯が恥ずかしそうに後ろを向き背中を見せながら手を上にあげ始めた。
なるべく素早く灯が恥ずかしがる時間が少なくなるように無心で服を着せていくがこれは大変だな。翼を服に空いた穴から通すのが一人ではかなり難しい。翼は力を入れていない状態では柔らかくなっているので動かしやすいのだかある程度の大きさはあるので五本指でも一人では難しいだろうな…
しかし、こんな小さな子があんな凶暴な魔物たちと戦っていたと思うだけで目頭が熱くなる。
「あ、あの!さすがにずっとこの体勢は恥ずかしいと言いますか…」
そう言われて、灯の着替えを手伝っていることを思い出した。
「す、すまん!ちょっとぼーっとしてた。」
俺は残りの翼を服に通し、誤魔化すように風呂に入りに行った。
1日ぶりの風呂だがやはり今日の森林探索の疲れも癒してくれるな、この星空の下でドラム缶風呂というのも趣があっていいな。
そうしてゆったりしていると今日の戦闘のことが思い返してくる。
灯がいるおかげで戦闘も楽に勝てたが最後の戦闘はかなり危なかった。俺がやられれば灯にも危険が及ぶ、灯を守り抜くためにも強くならないとな。
風呂で疲れを癒した後、灯の魔法で服を洗ってもらい乾かした後、俺たちは今後に向けて話し合うことにした。
「今後は周辺探索と並行して食料確保に素材収集、レベル上げを行っていこう。今日みたいに突然魔物と遭遇してくる可能性だって低くないだろうしスキルレベルが上がれば魔物との戦闘もやりやすくなる。」
「そうですね。もう少し多くの魔物に攻撃できる手段があれば戦闘も楽になるんですが…」
「俺も灯を守りながら敵に攻撃できるようにならなきゃな、【狼化】は強力な反面MPの消費も考えなければいけないし、剣を持って戦うのが難しいから近接戦がメインになってしまうしな…」
MP強化系のスキルの獲得もしておきたいところだ。今日の戦闘で分かったが魔法は遠距離の戦闘も補助してくれるし俺も1つくらいは魔法を取得しておきたいな…
「ひとまずは定期的に休みを取りつつ拠点の充実を目標にやっていこう。」
俺たちはまた明日に備え、眠りにつくことにした。目を閉じ就寝に就こうとする俺に、灯が声を掛けてきた。
「あの。」
「どうしたんだ?」
「お兄さんの側にいってもいいでしょうか…?一人では上手く眠れなくて…」
「俺の方は大丈夫だが、灯の方こそ大丈夫なのか?男の側で寝るなんて。」
「い、いえ!お兄さんの側だと私もぐっすり眠れますし、それにお兄さんなら全然大丈夫です!」
「灯がいいなら問題ないんだが…」
「それじゃあ失礼します…。」
灯は俺のすぐ隣に寄ってくると、こちらを向き俺の胸に収まるように体を預けてきた。
「ふふ、やっぱりお兄さんの胸の中は安心して眠れそうです。」
灯は頭を俺の胸に擦り付けて満足したのかそのまま眠ってしまった。
流石に女の子が自分の胸の中で寝るなんて状況を経験したことがないせいで緊張してきた。少しでも気を紛らわせようと集中していると灯の体温の暖かさもあってかすぐに眠たくなってきた。
明日からも強くなりこの生活をよりよいものにするために頑張っていこう。
俺は心意気を確かなものとし本日も眠りについた。
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