第十一話~死の危機と安息~
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こちらへと接近してくる何かに備え、剣を構え待ち受けているとやってきたのは熊のように大きな猪だった、牙は伸び鼻息を荒くして今にも襲い掛かってきそうだ。
猪は俺を見つけると獲物を見つけたかのように鳴き声を上げこちらへ向かってきた。
「灯!」「は、はい!」
灯が『ファイアアロー』を使うと矢は勢いよく猪の方へ向かい突き刺さると一瞬だが怯ませることができた。そのうちに俺は猪の横にずれると『スラッシュ』で猪の脇腹に斬りかかった。
しかし、猪にはそこまでの深手にはならず体勢を立て直した猪は灯が止まっている気に向かって突進を開始した。
「灯!別の木へ逃げるんだ!」
「わかりました!」
灯は【飛行】によって近くの木へと避難すると、猪は止まることなく木をへし折った。
あれに当たったらひとたまりもないな、攻撃は直線的だし回避優先でいこう。
「灯は引き続き魔法で援護してくれ!」
「はい!」
俺たちは気を引き締め、猪との戦闘を続行する。
灯の魔法が再び直撃し、猪が怯んだところに『スラッシュ』を叩き込んだ。
このままいけば問題なく倒せそうだとそう思っていた時だった。猪はダメージを負いすぎたからだろうか。大きな鳴き声を上げ突進のスピードを上げた。
急な速度の上昇に対応しきれず俺は猪の牙に体を掠めてしまった。そのまま俺は吹き飛ばされ木に衝突した。
(掠めただけでこの威力か…もろに食らってたら死んでたかもしれないな…)
「お兄さん!」
灯は【回復魔法】を使用するためにこちらへと近づこうするが猪が灯の方へ突進してくるせいでこちらへはこれそうにない。
「俺はまだ大丈夫だ!灯は猪の突進から逃げて魔法を当てることに集中してくれ!」
「わ、わかりました!」
灯が木々を飛び回りながら猪の意識を割いているうちに俺は【狼化】を使用した。残りMPも【探知】を使ってる分、あまり長い時間は使えない。一気にケリを付けなければ。
灯が停まっている木にぶつかった猪の背後を取り、跳躍により猪の頭上を捉えた俺は『ためる』を使用し猪の頭目掛けて足を振り下ろした。
猪は地面に顔を付け動けなくなっているところに灯が『ファイアアロー』を打ち込むと唸り声をあげ、猪は動かなくなった。
「倒したんでしょうか…?」
「そうみたいだな…」
「よかったぁ、それよりも早くお兄さんの回復をしなきゃ!」
灯は木から飛び降りると俺に『ヒール』を使ってくれた。猪から受けた傷もすぐに塞がり問題なく動けるようになった。
「ありがとう、灯が居なかったら死んでたかもな。」
「もう!お兄さんが死んじゃうかと思ってすごい心配したんですからね!」
「ごめんよ、でも二人とも倒れずに勝てたからいいじゃないか。」
「もう、死ななければいいってわけじゃないんですけどね…」
「あはは、それよりも早くこいつを拠点のダンジョンコアまで転送しよう。今日はさすがにお互いMPも少なくなってきているし拠点で休んだ方がいいよ。」
「そうですね、レベルも上がっていますし、今日はこれ以上は動けません。」
そうして俺たちは猪の死体から軽く血抜きを行い、灯の【ダンジョン輸送】でゴブリンから出た魔石なんかと一緒に拠点に転送した。
「帰りは【狼化】してMPが尽きるまでは俺が灯を背に乗せて運んでいくよ。しっかりつかまっててね。」
俺は【狼化】を行い灯に剣を持ってもらい、木の目印を頼りにダンジョンコアのある湖へと帰還した。
帰還した俺たちは森林探索で手に入れたものの整理を行った、石や木材などの材料や異世界ならではの植物たち、食料など今回の探索だけでもなかなかの量が手に入った。
「でもコボルトやこの猪はどうしましょうね?」
レベルも4に上がりSPも入手できたしスキルを獲得するのもありだな…
スキルを眺めながらいいのがないかと探しているとちょうどいいのが見つかった。
「【解体】のスキルがあるしこれを取ろうかなと思う、レベルアップである程度余裕もできたしな。」
そうして俺は【解体】を取得しlv.2まであげた。そしてコボルトと猪(灯の【鑑定】で見たところファング・ボアというらしい。)を【解体】分解すると牙や皮、肉などの素材に分解することができた。
「これは便利だな。時間がかかる作業が一瞬で終わるとは。」
「スキルってやっぱ便利ですね~。」
「こんな便利なのが地球にもあったらな。」
そうして本日の収穫を整理し終えた俺たちは食事へと移ることにした。
「コボルトの肉は固くてあんまりおいしくはないですね、猪の方はまだ獣臭さがありますが食べられそうです。」
「調味料なんてのも全然ないからな、調味料1つにDP召喚を使うのも今はできないからな…」
余裕ができたら調味料なんかも召喚して食生活をよくできたらいいんだけどな。しばらくは我慢するしかないだろうし。
「しばらくは焼いた肉とベリーが主食になっていくだろうな。」
「うぅ~地球にいたころの食事が恋しいです…」
地球のおいしい食事を思い出しながらも俺たちはこの世界で初めて手に入れた食事を嚙み締めた。
食事を終わらせた俺たちは今日使わなかったDPをどうするかについて話し合うことにした。
「1P使わなかったですけどどうしましょうかね?温存しましょうか?」
「ああ、だけど今のところは温存するよりも使わないし特に使いたいものもなければ召喚したいものがあるんだが。」
「今のところ何も思いつかないのでいいですけど何に使うんですか?」
「まぁそれはできてからのお楽しみってことで少しテントの中で休憩でもして待っててくれ。」
そう言って気になっている灯をテントに行ってもらい俺はDP召喚を使い目的のものを出すと、【道具作製】を使い必要なものを作り準備が終わると灯を呼び出した。
「あっこれってもしかしてドラム缶風呂ですか?」
そこにはDP召喚によって呼び出された。ドラム缶と石を土台に高さを上げ温めるための焚火が設置されている。
「さすがに体を洗えないのは衛星面も気になるし、石鹸なんてのはないが少しはリフレッシュできるだろうと思ってな。」
体を拭くためのタオルは猪の毛皮を使って【道具作製】でボタン1つでできたが虫とかも怖いし軽く焚火であぶったから熱でやられる虫なんかは大丈夫だとは思うがこの世界だし地球にはいない害虫なんてのもあるだろうし少し怖いな。
「後は水を入れて温めるんだがそこは魔法に頼ろうかなと。」
「でしたらSPも余っていますし私魔法スキル取っちゃいますね~。【初級水魔法】とあっこれもよさそう!」
「何のスキルを取ったんだ?」
「【家事魔法】っていうので掃除、洗濯なんかの家事が魔法でできちゃうみたいです!」
それならこの汚れた服もキレイにできそうだな。
「じゃあ風呂に水が溜まって温度調整ができたら灯から入ってくれ俺はテントに入って休憩しているから終わったら声をかけてくれ。あと、そこの木の蓋をドラム缶の底に押し込まないと危ないから注意してくれ。」
「じゃあお言葉に甘えて先にいただきますね。」
お湯が溜まったのを確認した後、俺はテントの中に入り灯の方を見ないようにして待っていた。
見ないようにはしているがどうしても音は聞こえてしまうな…もし魔物が来た時のためにそれほど遠くへ作れないのもありどうしても水に入った音などが聞こえてしまう。
9歳も離れた女の子に欲情なんてことはないが向こうは思春期真っ盛りだろうしな、おっさんに入浴中の音を聞かれるのも嫌な年頃だろう。
なるべく聞かないように目を閉じ、テントで寝転がっていると段々と瞼が重くなってきた。
思った以上に今日の戦闘で傷を負ったことが響いているみたいだ、魔法で回復したとは言え精神的な疲れまでは癒せたわけじゃないからな。
そして俺はうとうととしていき、眠りについた。
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