02 名もなき世界
「俺の処罰⋯⋯⋯か」
「おやおや、怖がるでも驚くでもなくまさか疑問を抱くとは!
君はやっぱり面白いね!」
また満面の笑みを浮かべている。そんなに俺は面白いことを言っただろうか。
神様ではなく管理者だ、という少女。
確かに世界の矛盾は見つけたが処罰?別に言いふらしたわけでも目撃者が居たわけでもないんだ。
”処罰”というには些か事が小さすぎる気がするが────そんな事を考えていると彼女は再び話し始めた。
「世界はたくさん存在していてね、処罰が与えられるケースは珍しいわけじゃなんだ。
と言っても君の住んでいたような世界から処罰が与えられる者が現れたのは初めてなんだけどね」
彼女はひじ掛けに頬杖をついていた手を前に出すと青白い炎のようなものを出した。
その炎は揺らめきながら人のような形をもっていく。
「大抵の者は害をなそうとして≪ワールド・コード≫に抵触する。だからその時点で赦されることはなく、僕たち管理者が使者なりを使ってその命、もしくは魂を消しに行くんだ。」
「なるほど⋯⋯、では害をなそうとしていなかった場合はどうするんだ?」
「そう、そこなんだよねぇ」
彼女は溜息を吐きながらまた頬杖をつく。
「僕の定めたルールならともかく、偶然≪ワールド・コード≫に抵触するなんて───しかもこの低位世界でだ。
だから一応管理関係者たちと話し合って君に選択肢を与えることにしたのさ」
「選択肢?俺に決定権があるのか?」
「あぁ、今回が初めてだと言ったろ?だからその特典だとでも思ってくれよ」
特典って⋯⋯⋯。そんなセール中です、みたいなノリで決めて良いものなのか。
俺が呆れているのを介さず、彼女は手を突き出す。
「1つ、このまま魂を消滅させ無に還る」
「は!?それって普通に死ぬって意味じゃないよな?」
「あぁそうさ。生命の円環から外れるだけでなく、存在そのものが消えるってことだね」
これは碌な選択肢じゃなさそうだ。
忘れちゃいけない、これは”処罰”なんだ。そんな優しい話なわけないだろう。
「そんな怖い顔しなくて大丈夫だよ。これは一応抵触した者たちがゆく道さ、形式として言っただけ。
本題は2つ目の方だよ」
「2択って⋯⋯⋯決定権なんてないじゃねぇか」
「まぁまぁそう言わずにさ」
彼女はまた朗らかな顔をして俺の目の前まで歩いてきた。
「君、管理者にならないかい?」
「⋯⋯⋯⋯⋯は?」
何を言っているんだこいつは。
管理者?さっきから軽いなとは思ってはいたがもうワケが分からない。
「そんな簡単になれるものなのか?
そもそも、処罰にしてはおかしいところしかないだろう」
「今回は特別だと言っただろう?
君は仮に罪人に対する処遇としては甘すぎると思っているようだが決してそんなことはないぞ。
君には様々な種族の暮らす異世界に行ってもらう」
「異世界⋯⋯⋯だと?」
「そうさ。
君の世界にあった創作物、いわゆるファンタジーの世界。神や悪魔、魔物や亜人、人間だっている。
そんな世界の管理を君にお願いしたいのさ」
ファンタジー世界、管理者としての仕事すら知らないにも関わらず俺の知っている世界すら使えないときたか。確かにこれは処罰というにふさわしいな。
それに大きな問題はそこじゃない、神や悪魔がいるというとこだ。
「その通り!その世界には神や悪魔といった人間の上位種族が存在する。
それに彼らは実質的に世界を廻している立場と言ってもいい、つまり君の言っていた”神様”と言えるね」
「ちょっと待て。何で俺の考えていることが分かった?」
俺はこの場所に来て初めて温度を感じた気がした。
彼女は首をかしげ、
「さぁ?なんででしょう」
と、いたずらに笑った。
なるほど、確かに彼女は神様ではないのだろう。そう思うと同時に管理者という存在を本当の意味で理解したような気がした。
「それで?管理者として俺は何をすればいいんだ?」
「ふふふ、覚悟が出来たようで何よりだよ。
実は君の行く世界には管理者が存在しないんだ。だから君には世界の崩壊を食い止め、管理して欲しい。
詳しいことは記憶として君の転生体に入れておくよ」
「転生体?その世界で生活しなければならないのか?」
「もちろんさ!なんせ管理者のシステムすらないんだからね」
システムごと作れってことか、これは大変なんてものじゃない。まさか自分で新しく世界を創り直すことになるとは、荷が重すぎるがやる以外に道はない。
「じゃあ頑張ってね、新しい管理者さん。
≪世界の管理者≫キリル=オス=デミゴウスの名のもとに、彼の者、星橋衡を名もなき世界へ転生させる」
こうして俺───星橋衡の管理者としての人生が始まったのだ。
2話投稿!
今後ものんびり書いていきます!!!