ひとくち異世界
私の目の前に護りたい存在がいた。
お姉ちゃん!助けて!
私はその声に応える事が出来なかった。
私が護りたいと思う...いや、思うじゃない、護りたい...いっちばん大切な存在なのに。
私が絶望の未来を脳裏に浮かべかけた時、私の代わりに私の大切な存在を守ってくれた存在が現れてくれた。
大丈夫か?じゃなくて、大丈夫だ!って。
嗚呼、何という興奮...私らしくないけれど、その人の名を私は叫んだ。嬉しくて、嬉しくて、ありがとうって言いたかった。
だけど、言わなかった。
助かって良かった。私も、あの子も。
彼らの動向を完璧に理解している様だ...何故?何故だ?何故お主はそこまで…
答えは明白、単に愛だ。
他人を思う気持ちが人を動かす。
人が動けばその人が好きな人も動く。その連鎖、その絆が微々たる物事を肥大化させてゆく。
それだけ。
意外と単純なのだ、深刻に考えるのは当事者のみ。
我はお主が恐ろしい、恐ろしく思う。
俺も俺が恐ろしいよ。
また一つ、自分は彼女を守る男を見せた。
また一つ、自分は彼女の脳に自分を擦り付ける事が出来た。
そう思っていたのは自分だけだった。
どれだけ強ければ良い?最強になれば良いのか?
駄目だ、駄目だった。
もう帰ろう。何処にも無い、自分を受け入れてくれる場所など、ある筈が無い。
そう思い立ち上がった時、あの時助けた子供に言われた感謝の言葉が脳裏に浮かんだ。
そうだ、保育士にでもなろう。
俺は帰る、帰って保育士になろう...そう思った。
そして勇者は子宮になった。