小人さんの通せん坊
どうするんだ??
足跡の方角はこれから目指す街の方向に向かっている。
足の向きで街に進んでいると言うことはわかった。
村長の娘の護衛の二人は「ツン」とした態度で 何かを言っている。
どうやら村長の娘を村に帰らせたいみたいな事を言っているようだ。
まあ 小人を追いかけて進むなんてリスクでしかないし、
それに襲われてしまった街に村長の娘を連れて行くわけには行かないだろう。
結局、いったん廃墟の村に戻って村長の娘メンバーと先に進むメンバーに再編をしてから、
足跡のある元の場所に戻ってきた。
ここからは 斥候の人たちが先に進んで俺たち非戦闘員は荷物のいっぱい入ったリュックを
背負って徒歩で付いていく形になる。
斥候の人たちは俺たちを気にせずに どんどん進んでいった。
もしも 小人を発見したら規模を確認して引き返すかどうかを決めるのだろう。
そして 斥候の人たちは街が襲われているかどうかも確認しなくちゃいけないなんて
損な役回りだ。
俺たちは 街が無事だった場合に物資が交換できるように物資を守りながら
後からついていかなければいけない。
ちなみに ヤギさんも村長の娘たちと一緒に廃墟の村に置いてきた。
でも 廃墟の村にいる理由はないので、もう村へ帰っているかもしれない。
俺たちは 小人に踏み固められた足跡を進んでいく
まっすぐ 街を目指している足跡にはところどころ水が溜まっていた。
最近、雨が降ったのだろうか。
「Ты не вернешься?」
斥候の人たちはどこまで進んだんだろう?
一向に出会いないので 不安の声が漏れ始めている。
でも 俺も不安になってきた。
遅すぎるし、街まではまだ 距離もある。
あの人たちなら小人に気付かれることはないと思うけど 何かあったのか?
それにしても 今歩いている場所は涸れた川のようだ。
この足跡のすべてが 小人でこん棒を持っていて、
頭蓋骨を一撃で砕けるくらいの力がある。
俺たちは そんな奴らのところへ向かっているのか、
きっと みんな気が重いだろうな。
しばらく進んでいると小人の足跡が二方向に分かれていた。
規模が大きすぎるから 何かのきっかけでばらけたのかもしれない。
そんな 足跡がその先も何度かあった。
「オグマ!!」
振り返ると遠くから村長の娘が走ってきた。
息を切らせて「はぁはぁ」と忘れ物を届けに来てくれた奥さんのような笑顔だ。
「あなた~ 忘れ物よ」とは言わなかったが俺の前まで走ってきて、
そのまま俺たちと歩き始めた。
護衛の二人はどうしたのだろう?
このメンバーで小人に襲われたら戦えるのは俺しかいないし、
例えば斥候の人たちが走って来て「逃げろ!」なんて言われる事態になったら
村長の娘は移動の足かせになるだろう。
「引き返そう!!」
親指を立てて後ろの方向を何度か指示した。
言葉は通じなくてもこれで十分だ。
しかし みんなは首を横に振った。
ジェスチャーで「オレたちは先に行くから お前ら二人は戻れ」と促してきた。
この人たちは、死んでも行かなきゃいけない、みたいな顔をしている。
薬がなくて困っていると言うこともあるけど
きっと 一人一人は村を守りたいとか 大きな理由じゃなくて、
個人的な理由に縛られているんだ。
なんとか 街まで行けないだろうか?
「ガサガサ!!」
茂みが揺れた。
そして 斥候の人が出てきてジェスチャーをする。
「逃げろ!!」と・・。
次に大きな二足歩行のウサギに、馬のようにまたがった斥候の人が現れた。
腕にはボロボロな服を着た子供を抱えている。
村長の娘の顔を見て「あちゃ~」って顔をしていた。
積んだ!って思っているのだろう。
でも小人がいるのにこの人たちは俺たちの近くを通ったのだろうか?
イヤ この人たちは元プロって感じだし、逃げる途中に俺たちがいたのかもしれない。
それから次々と斥候の人たちが現れては 村長の娘の顔を見て「あちゃ~」
って顔をしていた。
そして 小人が一匹現れた。
斥候の弓が放たれて小人が燃え上がった!!
それでも 小人は動いている。
これって 燃えた小人が襲い掛かってきたら、ヤバいんじゃないか?
しかし 矢の放たれた場所は 小人の細い脚だった。
次々と 準備を整えた斥候たちは矢を放っていった。
途中からは小人の体も燃え始め、より一層大きな炎と共に、
風のような不気味な小人の声が 周辺に鳴り響いて小人は灰になった。
倒したのか。でも 最後の断末魔は周囲の小人を呼んでしまっただろう。
逃げなきゃいけない。
あのトカゲはどうだ?
馬なら二人乗れるかもしれないけど、ウサギは完全に一人乗りようで
村長の娘が子供を連れて自分で運転できるならいいのだけど無理そうだ。
斥候の二人が武器を整えて元来た道を戻ろうとした。
「俺が時間を稼ぎます」
俺が 斥候の代わりに小人を引き付ける役をやるとジェスチャーした。
斥候たちは 俺を感心するような顔で見ていたが
しかし俺の腕を 指さした。
ミサンガを指さして 俺に何かを聞いてくる。
おそらく「本当に いいのか?」と聞いてきたのだろう。
彼らは知らないが 俺には世界樹の実があるので全く問題ない。
それでも行くと伝えると 廃墟の村で落ち合おうと約束して
斥候からは 自分の使っていた弓と火種の入ったツボを渡された。
とても感動したようで「俺のを使ってくれ」ということらしい。
俺は駆けだし、小人の群れを見つけるとある程度、小人を陽動した。
数匹のグループだったけど 陽動しているとそんなグループと複数であった。
複数いるなんて、このまま進んでいたら まずかったかもしれない。
そして 適当なところで世界樹の実を食べて認識されない状態になってから廃墟の村に帰還した。
帰還するとまず 村長の娘が走り寄って来て抱き着いてきた。
でも 顔を見ると目が腫れぼったくなっていて泣いていたようだった。
俺は 借りていて弓と火種のツボを斥候に返すと
握手を求められたので固い握手を交わした。
廃墟の村には 護衛の二人もいて、作戦会議が開かれていたようだった。
みんな暗い顔をしている。
そして 現状を俺にも聞いてほしいようだ。
丁寧に棒を使って地図を使って今の状況を説明してっくれた。
地図に乗せられた小石の山が小人の群れ。
さらに 斥候はその小石の山を動かしていくが
小人の群れがどんどん分散していく。
これなら街は大丈夫かもしれない。
でも どうして?小人は散らばっている?と思ったら
すると 斥候はトカゲを指さした。
小人の群れが街を目指して進んできたので、街の人たちは何とかしようとした。
もしかしたら 最初は火なんかを使ってどうにかしようと考えたのかもしれない。
でも 雨の跡があったようなので、時間的にそれが実行できなくなった。
そこで 奴隷のような身分の人をトカゲに縛り付けて、大量に放つことで
小人を散らすという作戦をとったようだ。
・・・。
それって ・・つまり。
そうだ。つまり 村と街との間の行路には小人がうじゃうじゃいて
しばらくの間、通行禁止になったということだ。
「Боже мой. Нет! !!」
これじゃ 街へはいけない。
「チックショー!!」みたいに叫ぶ者もいた。
泣き出すものもいた。
医者のいない村で、薬が手に入らなくなった。
そして 村長の娘は再び泣き始めた。
でも 「俺が行くぞ!」という勇者は現れない。
そんな時に あのウサギに 手綱が付けられているのが見えた。
俺とウサギなら街まで行けるかもしれない。