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第二話 半獣半人

城を出てから丸二日、そろそろ貰ったレーションも底をつきかけてきた。近くにはろくな川も通っておらず斬った魔物共の血も洗い流せず二人の見た目は完全に悪魔の類いと言っても過言ではなかった。

「テフィ、お腹が空いたね……レーションでも食べようか」

「レーションももう残り少ない……無駄に食べるのは避けたいんだ、我慢してくれ。」

ヴィントは王族だ、いくら肝が座ってようと本当の飢餓なんてものは経験もない上に耐えれるわけが無い。だがレーションは残り一人一食分なのに対してまだまともな街のひとつも見た試しがない。魔物の肉なんてものは食べたくないしおそらくヴィントも全力で拒否するだろう。そんなことをグルグルと考え続けながら歩き続けていると遠くから微かな声が聞こえた気がした。

「ヴィント、今のは。」

「走ろう、そう遠くない!」

二人は先程までの空腹を忘れて全力で、声を頼りに駆けつけると魔物に襲われている馬車を見つけた。

「僕は右を!」

ヴィントはそう言うとまるで川のように流麗な動きでさらさらと魔物を切りつけた。トイフェルも負けじと豪快な動きでバッサバッサと敵を両断する。そうしてものの数分で魔物は掃討出来たが来るのは少々遅かったようで馬車はボロボロで子供一人を残して親と思しき二人の男女は既に事切れていた。馬も魔物に食い荒らされていて、こうなってはもう馬車とは呼べないだろう。

「君、大丈夫かい?」

赤い血にまみれた少年は声を失っていた。無理もない、目の前で両親は惨殺され馬も食われ次は僕だと思ったのだろう、少年は口が開いていることも忘れてただ震えている。トイフェルが手を差し伸べようとするとすっとヴィントは手で遮り制止した。

「待ってテフィ、この子半獣だ。」

半獣族、または獣人族ともいう種族、それは魔族でも人族でもない特殊な種族でありその魔物よりも上質な毛や皮ははるか昔に人族の間で流行り様々な獣人が狩られた。そのことから獣人族は人族を恐れ、また嫌っている。歴史書や創作物などでは人族に助けられたと言う理由で自死する者まで居るのだ、その時は当然毛や皮を取られないため自らの魔法で燃えるらしい。ヴィントはおもむろにすこしばかりの回復薬が入ったバッグを開けてから下ろしてそのまま歩き始めた。

「なぁテフィ、あの回復薬値段の割には粗悪品だったし重たいしここで捨てていこう。」

ヴィントは優しい、食料も回復薬も残り少なくとも我が友は許してくれることをわかっていてこういうことをする。トイフェルはそれに対しそうだねと笑って返してその場を後にした。

それから一刻ほどの間歩いていると二人は背後から来る強い気配を感じた。二人がバッと振り返るとそこには短剣を携えた獣人族の男が立っていた。

「弟を……助けたらしいな。」

男はそう言うと腰に差した短剣をガッと掴みそして、なんと鞘ごと地面に落とした。そしてそのまま深々と頭を下げだしたでは無いか。

「弟だけでも助けてくれて感謝する。」

そう言うと男はくるりと後ろを向き来た道を帰り出そうとした。トイフェルは慌てて待ってと引き止めた。

「あの、えっと……人族が嫌いでは無いのですか?」

それを思ったのはトイフェルだけでは無かった。嫌っている一族に対してわざわざ武器まで捨てて頭を下げに来ることなど普通はありえないだろう、ただただ疑問だったのだ。男はくるりと振り返りじっと二人の目を見つめた。

「確かに俺たちは人族のことが大嫌いだ。だけどな、そんなことよりも弟が無事だったということが、弟を助けてくれたことの恩の方が俺たちにとっては大切なんだ。」

そう言うと男はニッと笑った。それに釣られて二人はふっと笑いが込み上げてきた。そして三人でひとしきり笑ったあと、男は柔らかな笑みを浮かべて手をズボンのポケットにしまった。

「申し遅れたな、俺の名前はベルベットだ。お兄さん達、名前は?」

そう聞かれるとヴィントはスッと前に出て僕はヴィントだと名乗った後にそして、と続けた。

「あ、私はトイフェ……」

その瞬間トイフェルの声を遮るようにぐぅっと大きな音が鳴った。みんながぽかんとした中、トイフェルの顔だけが少しずつ赤くなっていった。

「もしかしていまのはテフィ?」

そうヴィントが聞くとトイフェルは恥ずかしそうコクリと頷いた。

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