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第一話 始まりの朝

王国歴1356年スクラスト王国 謁見の間、今日ここに大いなる一歩が踏み出されようとしていた。

「陛下、魔術師グレイとその弟子、勇者ドナーここに参上致しました。」

「うむ」

かつての豪華絢爛なこの謁見の間は今は見る影もなく、だだっ広い部屋にはただ玉座に座る王と近衛の老兵が一人だけとこの国の疲弊度が見えるまでになっていた。各地へ派遣していた警備兵たちも既に砦は陥落し、残り数百人の負傷兵達がここ王都に全て集まっていた。そしてそうでもしなければこの国は既に滅びていただろう。

「陛下、ドナーももう17となりました。この国も既に壊滅寸前。ドナーには既に私の魔術の全てもこの国全ての兵士も敵いません。ドナーはこの歳にして既に勇者としての力を十分にその身に宿しております。」

グレイと名乗る魔術師は王にそう進言すると王は深く頷きひとつの箱を一人の青年に持ってこさせた。青年は右手を胸に当て第三王子のヴィント=ゾーン=スクラストです、とドナーに名乗った。王は玉座から腰を上げるとヴィントの隣へと行きその箱をドナーに手渡した。

「ドナーよ、お前は今から勇者としてその身をこの国の剣として貰う。その為の名と剣だ。」

ドナーが箱を開けるとまるで先程研がれたばかりかのような綺麗な剣身をした剣が静かに佇んでいた。吸い寄せられるようにその手でさすると剣はこの時を待っていたかのようにキラリと光って見えた。

「その剣は千年以上もの間、我が国の地下初代国王の墓に置かれていたものだ。建国以来誰も触っておらぬ。」

ドナーは一目王の顔を見て右手を胸に当てて深く頭を下げた。

「勇者よ、面を上げよ。この時からお前は名をトイフェル=D=ファルシュとし、その宝剣を以て悪逆を討ちてこの地を再び平和へと導くのだ。」

顔を上げて覚悟を胸に、勇者トイフェルが誕生した瞬間であった。

「それでは陛下。」

「うむ。トイフェルよ、この旅にあたっては過酷な旅となろう。一人では簡単に身も焦げるような旅だ。そこで我息子、ヴィントを連れて行ってもらいたい。」

トイフェルは驚いた様子でばっとヴィント王子の方を見た。ヴィント王子は第三王子とはいえ王族だ、そんな人を命を懸けた旅に出すとは一体どんな考えなのだろうかとそう思った。城を出て荒れた城下町に出た時、ヴィント王子は再び向かい合ってこちらに話しかけてきた。

「改めてはじめまして勇者トイフェル。私はヴィント=S=スクラスト、気軽にヴィントと呼んでくれ。」

改めての紹介をされてトイフェルは胸に手を当て頭を下げようとした時、ヴィントは慌ててその身を止めた。

「あぁ待ってくれ、そんなつもりは無い。僕は君と対等でありたいんだ。第三王子としてでは無く、勇者の仲間として。」

トイフェルはまた驚いた様子でヴィントの方を見た。幼い頃、育ての親グレイに嫌という程聞かされたからだ。王族はどこまで行っても王族、どれだけその身を役立てようと最後まで私達は王族の下僕であり剣であり盾でしかないと。だが、いまのヴィントからそれは感じられない。幼い頃から色々な人間を見てきたがヴィントは心の底からその言葉を言っていると思ったからだ。

「ヴィント、貴方は何故この旅に来たのですか。命を懸けた戦いです、王のご命令ですか。」

そう聞くとヴィントはふっと笑って違うよと答えた。トイフェルが困惑した顔で頭を傾げるとヴィントはまた笑ってこう言った。

「僕は僕の意思で今ここに立っている。幼い頃から君を見ていた、君とまだ見ぬ地を命を懸けて旅をしたいんだ。言っただろう?僕は君と対等になりたいんだ。」

そんなことを満面の笑みで答えるものだから思わずトイフェルは声を出して笑ってしまった。するとヴィントも同じように声を出して笑いだした。敬語ももういらないよというヴィントの言葉を承諾し、トイフェルは固い握手をヴィントと交した。

「君の事はテフィと呼ぶことにするよ、その方が呼びやすいからね。」

二人はにっと笑いあうと剣を手に取り街を後にした。これから始まる長く壮絶な旅を覚悟し、共にまたこの地へ帰ってくる為に。

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