第9話 神と器
「5日……!?そんな短い期間で強くなれる訳が……」
ヴィントは驚愕した。当たり前だ、人はそんなに急には強くなれない。何年、何十年と努力することでようやく教えられた力を体に馴染ませ強くなるものだ。それはトイフェルも思った。だがトイフェルにはもっと引っかかることがあった。何故私の名前しか呼ばなかったのか。
「お前たちの疑問もわかる。だがな、お前は特別なんだトイフェル。」
フォルトはトイフェルの前に寄るとトンと胸に拳を当てた。そしてしばらく瞳を閉じて何かを感じるように黙ってしまった。トイフェルとヴィントは顔を見合わせて首を傾げた。少しの間があいてフォルトは目を開けるとなにか呪文のようなものをブツブツと唱えた。途端、トイフェルの身体は六つの色に光りだした。
「お前の中には六つの魂が宿っている。お前は禁じられたホムンクルスなんだトイフェル。」
その言葉に二人は目を見開いて黙った。ホムンクルス、その名前は聞いたことがある。人が作り出す新たなる人の形、人造人間は倫理的な観念から今から何百年も前に禁じられたものだ。
「そんなことありえるわけがない……!父上が、王が知らないわけが無いだろう!?止めるはずだ!」
ヴィントの怯えるような怒号にフォルトはものともせず続けた。
「王はグルだよ。知らぬはずがない、だがトイフェルはホムンクルスである事実は変わらない。それにそうでは無い根拠があるか?どう否定する気だ。」
トイフェルは言い返せなかった。父と母の話などあの人は教えてくれなかった、故にフォルトが言うもの以外何も判断材料などない。
「そうでは無い理由がなくてもそうである理由も無いはずだ……。」
ヴィントが自信なさげな声で反論するがフォルトは容赦なく首を横に振った。ぽうっと指に光を灯らせまた呪文を唱えるてヴィントの胸にその指を当てた。するとヴィントの身体は暖かいものに包まれて薄緑に光りだした。なぜだが分からないがそれが魂の波紋であることが手に取るように分かった。
「トイフェル、お前にはわかるはずだその六色の、六つの光が何なのか。嘘じゃないとこの身に誓おう。」
トイフェルはまたぽろぽろと涙を流して膝を着いた。私は人じゃなかったのか、なぜそんなことを、私は作られた存在だったのか、そんな思いがトイフェルの中に渦巻いた。
「お前はホムンクルスだ、人間ではない。だがホムンクルスだからこそお前は強くなれる。お前は愛する者を守れるんだ。」
フォルトはトイフェルにそう言うと次はヴィントへと向き直った。
「もう分かってると思うが戦力外通告だヴィント。だがお前にもこれからやるべき仕事がある。」
ヴィントは下唇を噛み締めて両手を握りしめコクリと頷いた。フォルトも同様に頷くと両手をヴィントの胸に当てた。
「お前にはこれから神に会ってもらう、お前を守る神へと。俺は行き方を教えてやる、だからお前はその道をただ前に走れ。復唱しろ。」
ヴィントはすうっと大きな息を吸い込む。チラリとトイフェルの方を向いて頼みますとだけフォルトに言うとフォルトはコクりとうなづいた。
「我、我を守りし神の道へと至る。」
「我、我を守りし神の道へと至る。」
「夢幻の門は開かれた、いざ我が身よ神の使徒とならん。」
「夢幻の門は開かれた、いざ我が身よ神の使徒とならん。」
「名を言え。」
「我が名はヴィント=ゾーン=スクラスト、王の子にして勇者と共に歩むものなり。」
ヴィントの体の光は呪文を唱えるにつれ強く光りだし、次第にその光は当たりを優しく包みこんだ。フッとその光が消えた時、ヴィントの体は力なく倒れ込んだ。それをフォルトがしっかりと受け止めそこに寝かせた。
「ヴィントは一体どこに……。」
フォルトはくるっと向き直ると天国だと答えた。




