第8話 薄暗闇の中で
薄暗闇の中でトイフェルは目覚めた。生きている、そう感じたのはきっと殴られた頭が未だにジンと痛むからだろう。ここは洞穴だろうか、そういえばヴィントの姿がない。そう気づいたトイフェルは光が辛うじて差す方へと走った。洞窟の少し開けた場所に出るとそこには焚き火の前で座るヴィントが居た。トイフェルはこれまでに感じたことが無いほど安心して思わず涙を零した。
「ヴィント、無事でよかった。」
トイフェルがそう言ってゆっくりと歩み寄るとヴィントはその身体をゆっくりと包み込んだ。
「泣いてどうしたのさ、まだ頭が痛むかい?」
ヴィントがいつもの声で温かく背中をぽんぽんと叩くとトイフェルはこのままここでまた眠ってしまえそうな程に身体の力が抜けてしまった。頭がパンクしそうなほど考え込み、悩み苦しんでいたトイフェルは、久々に父と呼んだ魔術師と過ごした日々と同じように心が安らぐようだった。
「二人とも起きたか?頭はまだ痛いままかトイフェル。」
こつこつと洞窟内に足音を響かせて不敵な笑みを浮かべ、フォルトがゆっくりと洞窟の奥から現れた。本来なら怒りをあらわにして殴り掛かるべきかもしれないが少し冷静になることが出来たトイフェルには十分に理解できることがあった。
「止めてくれたんだね、フォルト。」
トイフェルがそう言うとフォルトはストンと焚き火の前に座り、ふぅとため息をついた。
「出会って数日とはいえ仲間だからな、死なれちゃ困るんだよ、俺の為にも。」
濡れた頬をぐいっと袖で拭ってトイフェルはフォルトの前に座った。トイフェルはフォルトに感謝せねばならない。もしやすればトイフェルはその頑固な考えとダメな決意で突貫し、いとも簡単に魔族に殺されていたかもしれない。はたまた意味もなく故郷へと帰り、決意が折れて泣き崩れていたかもしれない。とめ方はどうあれそれをとめたのがフォルトなのだから感謝せねばならないだろう。
「実際、私とヴィントの実力はどうすれば通用するようになるんだ?」
その問いにフォルトは真剣な面持ちで真っ直ぐに目を合わせて指を五つ見せてきた。五年、それはあまりにも長く絶望的な時間だった。既に王国は崩れ、人もまた死んでいっている。五年も経てばほとんどの人は絶望し、その絶望の中で死ぬだろう。だがあれほどの強さを持ったフォルトが真剣にそう告げたということはどれだけ酷な答えだろうとそれが真実なのだろう。
「わかった、五年間だろうと十年間だろうと少しでも誰かを救えるのであれば私は……」
そう言いかけた時、フォルトはチッチと指を横に振った。
「五日だトイフェル。五日でお前を使い物になるようにしてやる。」
フォルトはニヤッと笑った。
お詫び:この度投稿の宣言をした後、実際に投稿されるまで大変暫くお待ちさせてしまい読者の皆々様につきましては大変申し訳ございません。頑張ります。




