TS:4 変わりゆく心境
…優里だ。マジで最悪な目にあったぜ…何があったかはまぁ本編で確認してくれ。正直、男も女も良く分かんねぇわ…。それじゃ本編スタートだ
帰りの電車はかなり混んでおり、優里は梨華を覆うような形でドアに押し付けられていた。
「大丈夫か?梨華」
両腕は紙袋で塞がっている為、梨華の顔は優里の胸に半分程埋まっている。
「だ…だいひょぶ」
梨華の口が動く度に優里の胸に生暖かい息がかかり電気が走る様な快感が優里の背筋を走る。
(成る程…こいつが俗にいう“感じる”ってやつか…ったく冗談じゃねぇぞ)
確かに気持ちいいのだが場所が場所、正直勘弁してほしいというのが優里の本音である。
「梨華悪いがしばらく我慢してくれな」
「わひゃった」
しかし息程度で感じるとは…優里が感じ易いのかそれとも普通はこうなのか…まぁそれは男だった優里にはまだまだよく分からない領域である。
「……(女も苦労してんだな色々と)」
これもある意味女になって初めて分かる女の苦労である。
まぁ実際はもっと色々あるのだろうが…男性よりも性感が高いというのも事実であろう、まぁ個人差はあるけど
「ん…?」
優里がため息をついていると何かがお尻に触れるのを感じた。
(鞄か何かか?)
だが優里がそう思った瞬間お尻に触れたそれが艶かしく優里の尻を撫で、揉み始めた。
「………!」
優里は悲鳴をあげそうになるのを寸前で堪えた。梨華に心配をかけたくないというのもあったが何よりもまだ確信が持てなかったのだ。未知の体験に優里自身混乱していたのだろう、これが普通の女性や当事者以外が見たのであれば直ぐにわかるであろう
(おいおいまさかこいつは…)
ちなみに優里、今はスカートを履いている。梨華にこの方が似合うとごねられたので服を買うついでに着替えてきたのだ、なので今の優里はどこからどう見ても美少女なのである。
決して女顔の男とは誰も思わないだろう。
ここまでかなり遠回しに説明してきたがとどのつまり…
(痴漢!?)
である。
痴漢の指は優里のスカートの中に滑りこみ新品のパンツの上をゴワゴワした指が這いずり回る。
「………っ!」
今直ぐにでも後ろを向いて痴漢をしている男をぶん殴りたいが人が多すぎて身動きが全く取れないのだ優里はただ歯をくいしばって耐えるしかなかった。
幸い梨華は優里の胸の中がよほど気持ち良かったのか立ったまま寝てしまっている。優里が大きな声でも出さない限りは痴漢に気付くこともないだろう。
この時優里には変な意地が働いていた。すなわち、
「男の俺が痴漢されるなんて何かの間違い」と
しかし現に優里は痴漢されている。優里はもう男ではなく、女なのだということを半ば強制的に実感させられた。それに正直な所、未知の恐怖に優里は体が震えていた。
(何なんだよ…くそ震えてんじゃねぇよ…!)
まるで自分の体ではないような離脱感に優里はますます混乱する。その間にも痴漢はエスカレートし、優里が抵抗出来ないのをいいことに痴漢の指は遂にパンツの中にまで入ってきたのだ。
「……っ…!?」
得体の知れない恐怖と、自分のらしくなさ、情けなさに優里は悔しくて堪らなかった。こんな悔しい思いをしないように強く生きていく筈だった、悔しい気持ちにならない為に強がってきた筈なのだ。だが今優里は何もできず、ただ痴漢に蹂躙されてしまっている。それは優里にとって何よりも辛いことだった。
(強くなくちゃ…俺は今度こそ一人になっちまうじゃねぇかよ…)
母が死に父が死に、真に心を許せる相手は人ではない小次郎だけ…
強がりで固めていた壁は呆気なく崩れ去り、優里を弱さという孤独が押し潰す。
(……け…れ)
今まではこんなことはしなかった。
(…けて…れ)
きっと生まれて初めてだろうこんなことをするのは
(誰でもいいから助けてくれ…)
本当は孤独だった優里が他人に助けを求めるのは
だけど願っただけでは何も変わらない。現実は非常なのだ、結局優里は次の駅まで痴漢から開放されることはなかった。
***********
電車のドアが開き、人が一気に電車から降りる。優里達はまだ降りる予定はなかったがドアの前にいたので必然的に一度降りることになった。
きっと今降りてる人の中に優里に痴漢をしていた人間がいるのだろうが顔さえ見れなかった優里には探しようもない
「優姉、何かあったの?顔色悪いよ?」
梨華が優里の顔を覗きながら心配そうにきいてくる。
「大丈夫だ…心配するな」
梨華の頭を撫でながら優里は誤魔化そうと…
「な、何をするんだ君は!放したまえ!」
すると電車を降りた人ごみの中から男の叫びが聞こえてくる。
「何だろ?」
梨華は野次馬根性丸出しで見る気満々の様だ。どうやらサラリーマンっぽい男の手を高校生位の少年が掴んで揉めている様だ。そしてその少年は優里のよく知る人物であり、優里の事を指差しながら
「あなたは先程、あちらの女性に痴漢を働いていただろう。電車が止まる少し前にそれを見ました。」
するとサラリーマンの男は
「何を証拠にそんなことを言っているんだ!」
その少年は周りの人を見ながら
「恐らくこの中の何人かは見ている筈です。あなたが痴漢をしていたのを、そうですね皆さん」
少年がギャラリーとかした人達に問うと一人の女性がおずおずと手を上げながら
「あの私気付いてたんですけど怖くて言えなくて…」
更にチャラチャラした男が
「俺も見てたぜ、随分綺麗な姉ちゃんがいるなって見てたらそのおっさんがニヤニヤしながら彼女のスカートの中に手を突っ込んでるのをな」
その後も数人から目撃の声が上がる。
「さぁこれであなたの罪は明白です。」
少年は男を睨み付けながら言う。
「う、うるせぇガキが!」
男は逆ギレし少年に殴りかかる。少年はそれを甘んじて受け、殴られながらも男の手を握りしめていた。
「なっ…」
「更に暴行罪…まだ罪を重ねますか?」
頬を腫らせながらも少年は男を真正面から睨み付ける。
「何があったんですか!?」
騒ぎを聞き付けた駅員が駆け寄ってくる。
「この人が彼女に痴漢を働きました。警察に連絡を」
「分かった、勇気ある少年だね感謝するよ」
「いえ当然のことをしたまでです。」
少年にとっては実際当然の事だったのだろう、発見したのがもっと早ければきっと電車の中で止めていただろう。
少年は男を駅員に引き渡し、優里の方へ歩いて来る。
「あれ?梨華ちゃんじゃないか、ははは…情けない顔を見せちゃったかな…」
その少年の名は棗、相坂棗だった。
***********
さて時は少し戻り優里達の方では…
「えっ…優姉痴漢されたの!?」
隠してたのはどうやら意味がなかった様だ。こんなに早くバレるとは優里も思わなかった。
「何で言ってくれないの!?あんな糞親父私がぶん殴ってやったのに!」
「梨華…」
本当は怖くて声も出せなかったのだ、強がる事も出来ず、ただ震えていたのだ。不良相手なら楽々対処できるというのに痴漢には何もできない自分が情けなかった。だけどそれ以上に梨華に隠した事が辛かった。
「…悪い」
「言ってくれなきゃ分かんないよ優姉、そりゃあ…寝てた私がいけないんだけどさ…でも」
梨華はきっと優里の為に何か力になりたいのだろう、だけど優里は全部自分で抱え込んでしまうのだ。今回、女になったなんて大変な事をまず自分に相談してくれた事で、少しは自分も頼りにされてると思っていたけど甘かった。やっぱり何でも自分で抱え込んでしまうのだ、この誰よりも優しい自分の姉は
「私だって優姉の役に立ちたいよ、もっと頼ってよ、家族じゃない私達は!」
父や母、兄とは違う、自分と姉は家族だ。少なくとも梨華はそう思っている。
優里はそんな梨華を見て
(迷惑かけないつもりが逆に負い目にさせちまうなんてな…俺もちゃんと腹を割らねぇとな)
まだまだ梨華の事をしっかり信用してなかったのかもしれない、ただ仲良くすればいいってものじゃない。互いに助けあうのが家族、そんな初歩的なことさえ忘れていた自分が情けない。だけどそれに気付けたなら一歩前進だ、今回はこんな形でだったけど優里は梨華とちゃんと向き合おうと思った。
「悪かった…本当はな…怖くて声もでなかったんだよ…情けねぇだろ?」
情けない自分も晒し、自分の全てを見せる事にした。本物の家族である為に
「ううん…情けなくなんてないよ優姉、多分私も痴漢なんてされたら怖くて何も言えないよきっと」
梨華も優里もこれからもっと仲良くなれる。きっと家族でいられる。二人が信じあえばきっと…
「…そっか」
改めて自分の甘えに軽く反省する。言わなくちゃ分かりあえない、そんな当たり前のことに気付けなかった自分に
「それにしても優姉」
「ん?」
「あの人棗さんだよね?」
そう今痴漢の男を駅員に引き渡したのは間違いなく優里の友人の相坂棗である。
「あっ、こっちにくるよ」
ちなみにこの二人、自分達の世界にいたため棗のやり取りは見てないのだが…まぁ棗少年の活躍は駅員やギャラリーの人達が見てくれていたので良しとしておいてあげよう。
***********
で現在
「梨華ちゃん此方の綺麗な女性は?」
梨華とは結構仲も良い棗は梨華に対してはかなり砕けた喋り方をする。ちなみに優里が優里だとはまだ気付いていないらしく初対面の相手にする態度である。
瞬間、優里はある悪戯に閃き、バックからハンカチを取り出し棗の腫れ上がった頬にハンカチを添える。
「こんなに腫れて…大丈夫ですか?」
無難に言葉を選び猫を被る。
(ゆ、優姉似合わない…けど今の姿だと素敵だわ///)
なまじ外見はかなりのものなのだ、儚げな表情を浮かべながら棗の頬にハンカチを当てている姿は天使の様である。
「え///あ、いや大丈夫です」
「助けて頂いてありがとうございます。何かお礼を…」
優里は照れる棗に味をしめ悪ノリしはじめる。顔を近づけながら棗の顔を覗こうとする。
「いや、け、結構です///」
その手の事に免疫のない棗は一杯一杯の様だ。その様に我慢できなくなった優里は遂に吹き出してしまった。
「プッ…ククク…」
「あの…?」
急に口元を抑えながら吹き出す優里に棗は困惑する。
「あのね、棗さん」
そこに梨華が割り込み
「この人実は優里お姉様なの、昨日女の子になっちゃったんだけどね」
「…………は?」
棗は何を言ってるのか分からないといった表情だ
「梨華、それじゃ分かり難いって、そりゃ確かにその通りだけどよ…まぁとにかく助かったわ棗、ありがとうな」
いきなり口調が変わり、それは自分の良く知る人物とそっくりだった。
「まさか…本当に優里なのか?」
「あぁ、よく分かんねぇけどこんな体になっちまってな」
遂に棗にも知られてしまった優里の身に起きた異変。今回の痴漢の件も優里の心に何か変化をもたらした。物語はまだまだ続く。
優里「だからスカートなんて嫌だったんだよ…」
小次郎「クーン…」
優里「小次郎の性じゃねぇよ、心配すんな」
棗「でも似合ってるよ優里」
優里「な…///」
優里「………」
棗「優里?」
小次郎「ワフ?」
優里「き…」
棗「き?」
優里「気が向いたらまた履いてやるよ///」
棗「ありがとう優里、楽しみにしてるよ」
作者「ラブコメ自重」