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おばけの修活  作者: ヌー・フェンス
2/3

死神RRC2

~2 チャキちゃんの提案~


常朝は街を眼下に見ながら、チャキちゃん姿の何とかという者の話を真剣に聞く事にした。


「私はリソース・リリース・サーキュレーターというマネージャーシステムです。やまもとさんの純然たる資源を解放するためにはるばるやって来ました。はるばると言っても、こちらには距離の概念は無いんですが。」


常朝は空中であぐらをかきながら頭を捻って見せている。


「う~ん、言ってることがさっぱり分からん。しかもかぁさんの声だからなぁ、余計に気持ち悪い。じじぃにも解るように説明してくれ。」


「つねともさん、言葉では理解できないでしょう。ここではこうやって交信するのです。ホラっ!」


という気合いと共にチャキちゃんの声にエコーがかかり、彼女(?)の思考が突風のように脳内を突き抜けた感覚を味わった後

、常朝はその一瞬で自らの存在に関する"理"を理解していた。


物質であるところの肉体は日々常に循環し、地球上の生物の生き死にによるその微妙な質量の変化が物質間の時間の変化を一定にしている事。

そして、彼の今感じている"自分"という存在も宇宙の"資源"であり、それもまた、次の循環に入ることによって質量や時間の進行に影響出来るという事。

その資源の効率のよい循環が宇宙の時間を遅め、悠久の宇宙時間を構成しているという。


常朝は、知り得るどの宗教の教義ともまるで似ていないと思った。

しかし、この調子であれば神や仏という存在にもお目にかかれそうだ。

これだけ自分と宇宙との関係が明らかになっても、不思議と神秘は尽きないもので、常朝の意識には未だに悟りと呼べるような心境の変化はなく、むしろ生命の起源やその行く末や創造主というモノがあるのならその存在についても知りたくなった。


「つねともさんが資源と循環についてご理解された所で、状況のご説明とご提案を…」


チャキちゃんがこちらに真っ直ぐ向き直ってお座りした。


「つねともさんはもうすぐ天寿を全うされます。ゆっくりジワジワといけばあと一年、急げば今すぐにでもご逝去可能です。」


常朝は頬をはたかれた気がして顔を上げた。


「な、急ぐ?必要なんて、あるか?」


まだ自分が少し怖がっていると感じた。


「まぁまぁ怖がらないで下さい。そこが今回のご提案の肝です。もし今回のご提案をお断りになられても、今この時の事はキレイさっぱり忘れて、じっくりとろうそくの火が消えるように消耗され苦しむ事なくご逝去出来るでしょう。」


常朝は黙って聞く。


「つねともさんのように天寿を全うされようとしている方のみにしかご提案出来ない事です。私は今、"その時"まではあと一年間の時間的な猶予があるとお伝えしました。」


「うん」


「たしかに、そのままであればただ一方向にだけ進み資源がそのまま消費されるだけです。

しかし、つねともさんが望めば、つねともさんはお体からすぐに解放され残りの一年分の資源を使って人助けが可能となるのです。」


チャキちゃんが"お手"のポーズを織り交ぜながら力強く語る。


「実は、この世の中には運命というものは存在しません。事故や病気や自殺などの不幸な出来事を人間が受け入れる為の結果論に他なりません。良い出来事が起こった時、それに必然性を与えて喜ぶ為に使われるのであればまだ良い使われ方でしょうがね。」


常朝は亡くなったパートナーの事を思い、胸をえぐられる心地がした。


「突然亡くなった方々の資源としての存在は何処に飛んで行くのか分からず、三次元の世界に留まったりあらゆる世界を行き来したりして再び循環に乗る事が困難になってしまうのです。」


「そ、それじゃかぁさんはどうなったの?」


「ご安心下さい。やまかわ さきさんはきちんと循環に乗られましたよ。」


常朝は心底ホッとした。

そして聞かずには居られなかった。


「会えるの?かぁさんと!」


「イヤ、純然たる彼女そのものとは……

もう循環に入って久しいので。しかし、その姿となら再会出来るでしょう。」


常朝はその答えで納得する事にした。

既に悟りと呼べるような心境に入ってきているのか、何処かで循環しているのならそれでいいと思えた。

恐らく何十億回もそんな事を繰り返して来たのだろうからだ。


「しかし、運命と呼べるような事はなくても可能性の話なら大いに存在します。例えば、100mを平均9秒台で走れるスプリンターが居たなら、オリンピックでメダル獲得なんて事は概ね必然性を帯びた可能性であると言えます。」


「ほ~。運命ってのと高い可能性ってのは似ているけど違うと。」


うんうん相槌を入れる常朝にチャキちゃんはお手の姿で返す。


「そうです!物分かりが大変良くて助かります。実は、つねともさん。あなた様の孫娘であられるやまかわ るかさんが今から10年後にご自身で命を絶たれる可能性があるのです。」


常朝は心臓に大きく叩かれるのを感じた。


「なんでそんな?」


「理由は様々でしょうが、大きくは単身海外にお住まいになるという状況も影響するのでしょう。例えば寂しさ等からくる衝動であれば、ご家族の存在が大きく影響出来るかも知れません。いずれにせよ、宇宙全体にとっては例えお一人分の資源が循環から外れても損失になります。つねともさん、あなたの向こう一年間の時間を計画的に解放し、残りの時間でるかさんを救う努力をしてみませんか?」


常朝はチャキちゃんの言葉が銀行員の様に聞こえてきて参った。

自営業を営んでいた彼としては苦手な話法であった。

しかし、話の内容自体は何も拒絶する理由がない。


「もちろん。あの子のために出来るなら、やろう。」


チャキちゃんはスクッと身体を上げて、頭を垂れる。


「勇気あるご決断に、感謝致します。」


地面の匂いでも嗅いでいるかの様な格好だが、微塵もブレないその所作に揺るぎない敬意を感じた。


「で何をすれば?」


「そちらのケーブルをカットさせていただきます。」


常朝は足元を見た。


「あコレ?」


常朝が言い終わらない内に、チャキちゃんがどうやったのか目にも留まらぬ速さでたちまちヒモを切ってしまった。


「え~~~!?」


あまりの展開の早さに驚く常朝を横目に、ヒラッと身を翻して元居た位置にチャキちゃんが戻る。


「ええ、時間が勿体ないので。」


常朝はほんの少しの実感も無いまま、こうして突然世を去った。


~2 チャキちゃんの提案 終~

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