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第7話「王都を襲う怪人」

 男の放った光魔法は魔術師を吹き飛ばし、宿屋の1階部分を貫いた。

 柱を砕かれた宿屋はメリメリと音を立てながら、崩壊する。

 人々が逃げ惑い、屋台が倒れ、果実が踏み潰される。



「ウシャシャシャシャシャ!」



 少女を抱えて杖を振り回す男は、奇怪な笑い声を上げた。

 男の目は真っ赤に血走っており、少女の顔は蒼白だ。


「子供を人質に取るとは!」

「ただの子供じゃないぞ! オルディエール家の令嬢だ! 攻撃に巻き込むわけにはいかん!」

「石魔法が使える魔術師を集めるんだ、狙撃しろ!」


 大通りに悲鳴と怒号が飛び交う。

 集まった魔術師が杖を振るうと、槍のように鋭い石塊が男の顔面に向けて殺到した。

 少女を盾に使うような暇は与えない。

 しかし――。



 ガキィン!



 無数の石塊は、男の眼前で粉々に砕け散った。



「クソッ! シールド魔法を使ってやがる!」

「シールド魔法が長く保つものか、すぐに魔力が枯渇するはずだ! 撃ち続けろ!」

「ウシャシャシャシャシャ!」


 飛来する石塊を飲み込みながら、巨大な光弾が魔術師を次々と屠っていく。

 レンガ造りの銀行が正面から破壊され、瓦礫が周囲に飛び散った。



「ヒーラーはどこだ! 奴の魔力はいつ切れる!」

「石魔法打ち方やめ! 捕縛魔法(バインド)を使え! シールドごと奴を捕らえるんだ!」



 石魔法の攻撃がやんだその直後、別の魔術師たちの杖から、光のロープがほとばしる。

 ロープは男の目前で広がって、包み込むように収束した。



「行けるぞっ! そのまま縛り上げろ!」



 少女も怪我のひとつくらいはするだろうが、命には代えられない。

 ロープはミシミシとシールドと男を締め上げる――かに見えた。



「ウシャッ」



 その場にいる誰もが、今まで見たことのないほどの巨大な光魔法が放たれた。



「馬鹿な……っ!」



 光魔法はすべてのロープを焼き切って大通りを突き進み、魔術師を巻き込んで正面にある商店を粉砕した。

 焼き切られたロープは空気中に溶けるように消滅する。



「ウシャシャシャシャシャ!」



 再び乱発される光魔法。

 街は次々と破壊されていく。 



「雷魔法を使える奴はいないか!」



 瓦礫の影に身を潜めながら、ひとりの魔術師が声のもとに辿り着く。



「来ました! 雷魔法が使えます!」

「ここに訓練用の杖がある! こいつで雷魔法を地面に撃つんだ! オルディエール嬢には悪いが、これで奴をスタンさせる!」



 魔術師は瓦礫の影から躍り出て、石畳に向けて雷魔法を放った。

 青い閃光が蛇のように地を這い、男の足に命中する。



「当たったぞ!」

「いや、様子がおかしい!」

「エシャッエシャッエシャッ」



 雷撃は男の身体をゆっくりと駆け上り、右腕に流れて、杖の先でスパークした。

 男が倒れる様子はない。


「ウシャシャシャシャシャ!」


 笑い声と共に放たれた光魔法に、雷魔法の使い手は吹き飛ばされた。


「いったいどうなってる!? 奴は人間じゃないのか!? クソッ!」


 魔術師は倒れた仲間を引きずって、崩れた銀行の影に隠れた。



「奴は化け物だっ!」



 人の波をかき分けてレオンとサラが到着した頃には、大通りは地獄と化していた。


「これはいったい……」


 サラは呆然と荒廃した街を見渡した。

 崩れ落ちた建物、魔術師の怒号、ヒーラーを呼ぶ叫び声――。



「ウシャシャシャシャシャ!」


 男が杖を振るい、その先端が輝く。


「………………っ!」



 レオンはサラに覆い被さった。

 その背中を光弾が突き抜けていく。

 レオンはサラを抱きかかえたまま、転がるように建物の影に隠れた。

 背後で轟音が響き渡る。



「あ、ありがとうございますっ」

「どういう状況だ?」



 レオンは同じ物陰に隠れていた魔術師に尋ねた。



「あの男にオルディエール家の令嬢が人質に取られてる! 奴はシールド魔法を展開していて、正面からの攻撃は通らない! 捕縛魔法と雷魔法を試してみたが全て無駄だった! 奴は人間じゃない!」



 レオンはホルスターから銃を抜いた。


「ものは試しだ」


 物陰から顔を出し、男の頭に向けてトリガーを引く。

 冷たい銃口が火を噴き、乾いた音が破壊された街に響き渡った。

 弾丸は男の目前に迫る。



 キンッ



 男の目前に小さな閃光が走り、弾丸がはじき返された。



「ウシャシャシャシャシャ!」



 お返しとばかりに光魔法が放たれる。

 レオンとサラと魔術師は、新しい物陰に転がり込んだ。

 その瞬間、さっきまでいた場所が粉々に吹き飛ばされる。



「お前、拳銃なんて持ってるのか? そんなものが通用するはずないだろう!」

「悪かったよ。あれがシールド魔法ってやつか。スキはないのか?」


 サラに尋ねた。


「シールド魔法は前面に展開されます。背後や横からの攻撃なら届きますが……」

「なるほど、だから奴は壁を背にしているわけだ。おいあんた」


 レオンは魔術師に声をかける。 


「横からはどうだ? 今の奴の状況を詳しく知りたい。手はあるか?」

「ああ。こいつを使おう。ミラー!」


 魔術師が小さな杖を振ると、物陰の角に鏡が現われて、男の周囲を映し出した。


「……ダメだな、あいつの周りには遮蔽物がほとんどない。迂回するのは無理だ」


 レオンが礼を言うと、鏡は虚空に溶け消えた。


「参ったな……」


 シールド魔法が消えたかを見計らうために、石魔法を飛ばす断続的な音が響く。

 そのたびに光魔法が放たれ、轟音が地面を揺らした。


「クソッ! 魔術師が束になってこのざまとは情けないぜ! 見てろよ、俺が奴を仕留めてやる! 俺はシールド魔法も使えるんだ!」


 ときどきヤケになった魔術師が突撃して、反撃に遭って吹き飛ばされた。


「今の奴、大丈夫か? シールド魔法、使えるなら使えばいいのに」

「あいつは仲間内でも頑丈なんだ。おそらく無事だろう」


 膠着状態が続く。


「レオンさん……」

「しばらく考えさせてくれ」


 レオンは拳銃を握ったまま、じっと考え込む。

 サラは複雑な気持ちだった。


(これだけの魔術師がかなわない相手に、私が出来ることなんてあるはずがない……どうして私はここにいるんだろう)


 リッパーウルフを相手にするときもそうだった。

 サラは村に隠れているしかなかったのだ。

 自分の無力が悔しかった。

 属性付与(エンチャント)なんて魔法じゃなくて、私にも人の役に立つ力があれば……。


「サラ」

「は、はいっ」


 サラは物思いから現実に引き戻される。


「私に……なんでしょう……」


 レオンはサラの緑色の瞳を見て言った。


「君の力が必要だ」


 サラは自分の聞いた言葉が信じられなかった。

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