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第3話「冒険者ギルド」

 レオンは王都の入り口の厩舎に馬を預けた。


「冒険者ギルドに行きたいんだが」

「それなら、そこの道に入ってすぐのところでさあ。お客さん、あんた魔術師ですかい? とてもそうにゃ見えねえが……」


 馬丁はカウボーイハットにポンチョというレオンの旅姿を見て言った。


「俺も鏡を見て魔術師がいるなんて思ったことはないな」


 そんなことを言ってみたものの、レオンは魔術師がどんな格好をしているのかなど知らない。

 馬丁は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。




 王都に入ると、レオンはその雑踏に驚いた。

 こんなにたくさんの人を見たのは生まれて初めてだった。


 さまざまな髪色、肌の色。

 それに祖父から聞いてはいたが、獣人を見るのも初めてだ。

 犬人族や猫人族に蜥蜴人族、人、人、人。



「安いよ安いよーっ! このサイズのコンニャクジャケがこのお値段だ!」

「タルデン地方の職人が磨き上げたアクセサリー!」

「ガウチョパイいかがですかー!?」


 旅に空腹を覚えたレオンは、聞いたこともない食べ物の香りに釣られた。


「そのガウチョパイってのをひとつくれないか」


 犬人族の売り子が、紙包みを渡してくれた。


「はいよ、200サントね」


 包みを開くと、皮の浮いたパイが入っていた。


 ひとくちかじってみると、中からたっぷりのホクホクとした白身魚と、酸味のあるソースがじゅわっとあふれ出る。

 気をつけて食べないとこぼしてしまいそうだ。


「これはうまいな」

「へへ、どうもありがとうございます」


 レオンはガウチョパイを頬張りながら、冒険者ギルドの看板を探した。

 馬丁が言っていたとおりに、すぐに見つかった。


 ドアを開くと、中はサロンのようになっていて、身なりの良い男女がくつろいでいた。



(なるほど、こいつらが……)



 魔術師か、と思ってレオンが辺りを見渡していると、みながこっちを見ていることに気がついた。


「おい、そこのお前」


 魔術師のひとりが、レオンに声をかける。


「俺に何か用か?」

「ここは冒険者ギルドだぜ、お前魔術師ってなりじゃないな。入るところを間違えたんじゃないのか?」

「間違えちゃいないさ」

「じゃあ杖を見せろよ」

「そんなものは持ってない」


 部屋中に笑い声が起こった。


「おい、杖って知ってるか? よく見なよ、これだぜ?」


 魔術師は腰から杖を取り出して見せた。

 40センチ程の細い木の棒に、何かが彫り込んである。


 その先端が、突如光った。



「………!」



 バチンという音と共に、レオンの持っていたガウチョパイが弾け飛んで床に落ちた。

 笑い声はますます大きくなった。


「こうやって使うんだ、お前も魔術師なら持ってるだろ? ええ?」


(今のが魔法か)


 コケにされながらも、レオンは冷静だった。


 腰から杖が抜かれ、その向いた方向に“何か”が放たれる。

 それが魔法の、少なくとも一形態だ。



「……俺にはこれで充分なんだ」


 レオンはポンチョの端を払って、拳銃の収まったホルスターを見せた。


「あんたらの使う魔術とやらは、俺には必要ない」


 底からわき上がるような笑い声。

 しかしさっきよりも、明確に悪意がこもっていた。


「おおっと、こんなところで思わぬ骨董品に出会えたね! どこの古物商から盗んできたのかな? なかなかの一品じゃないか」

「そうだろう。良い物なんだ。お前の杖ほどかどうかはわからないが、なかなか使えるやつだ」


 魔術師は肩をすくめて見せた。


「なかなか使えるやつねえ……なんで銃士(ガンナー)がこの世から消えたのか、まるで理解していない田舎者がまだこの世に存在していたらしい。ここはひとつ俺が一席ぶとうじゃないか」


 杖をしまうと、魔術師は頼んでもいないのに語りだした。


「いいかい? 魔術にはあらゆる手段で敵を攻撃し、味方を守護し、サポートする手立てが備わっている。それが杖を抜くだけで発動するんだ。この意味が分かるかな?」

「さあ、どうだろうな」


 ぶっきらぼうなレオンの態度を見て、魔術師の眉がぴくりと動いた。


「いいか、杖はトリガーとやらを引く手間すら要らない! その鉛弾を吐き出すだけの、間抜けなおもちゃがなんの役にも立たないってことだよ! ここは杖を持たない奴が入ってこれるような場所じゃない! 俺はシールド魔法も使えるんだ!」



 魔術師が腰から杖を抜こうとした瞬間、レオンの右手が翻った。

 その動きを目で追える人間は、この場にはひとりもいない。


 発砲音と同時に魔術師の杖が吹き飛んだ。


「ひぇっ!」

「ひとつ聞きたいんだが……」



 魔術師は、あんぐりと口を開けたまま固まっていた。

 レオンの拳銃はすでにホルスターに収まっている。


「……そのシールド魔法ってのはどうやって使うんだ?」

「て……てめえ……っ!」


 魔術師の腰には杖が残り3本。

 すべて違う効果を持つものなのだろう。

 魔術師がその1本を抜こうとしたその瞬間、レオンはそれらをすべて撃ち落とした。


「は……はわわわわわ……俺の……俺の杖が……ぜんぶ……!」

「杖を持たない奴はここにいられないんだったか?」


 レオンが辺りを見渡すと、もはや誰も目を合わせようとしなかった。


(パイの仇は取れたってところかな)


 レオンはカウボーイハットをトンと指先で突いた。

 ふとカウンターを見ると、拳銃の轟音に身をすくませていた受付嬢が、ゆっくりと顔を出してくるところだった。


「あの」

「ひっ、撃たないで!」

「いや、違うんだ。騒がしくして済まない」


 レオンは言った。

 まだカウンターから猫の耳がのぞいていて、気になって仕方がない。


「俺はおじいちゃんからここへ来るように言われたんだ。ここは何をするところなんだ?」

「ええっと、冒険者ギルドは、冒険者の登録とクエストの発注を行う場所でありまして……」

「ではその登録というのをさせてもらえないか」


 受付嬢は困った顔で言った。


「ええっと、魔術師の等級をお伺いしても……」

「見ての通り、俺は魔術師じゃないんだ」

「そう……ですよね……ええっと、サラ!」

「は、はいっ!」



 サラと呼ばれた少女が、カウンターの下から顔を出した。

 赤いチョーカーの鈴がちりんっと鳴る。


 さっきから気になっていた、猫の耳の持ち主だ。

 銀色の髪の間から、尖った耳がぴょこんと飛び出している。


 しかし顔は人間とかわりない。

 獣人のハーフだとこういう容姿になるらしい。


 少し垂れ気味の目と、緑色の瞳が印象的な美少女だった。


 腰から伸びるしっぽが、ぴくぴくと動いて落ち着かないようではあったが、他の受付嬢たちほど動転しているようには見えない。



「この方を案内してあげなさい」

「案内って、登録ならカウンターで……」

「いいから、中にご案内して差し上げて!」

「はいっ、かしこまりましたっ」


 サラに連れられて、レオンは部屋の奥へ入っていった。

 中は応接間のようになっている。


「どうぞ、おかけ下さい」


 レオンは柔らかなソファに腰掛けた。


「ホットミルクか何かご用意しましょうか」

「お願いするよ」


 しばらく待っていると、サラがミルクを持ってきて、テーブルの上に置いた。


銃士(ガンナー)さんをお見かけしたのは、本当に久しぶりです……」


 サラの表情には若干の恐れと、それと同じくらいの不思議な輝きがあった。

 ゆらゆらと揺れるしっぽも、レオンへの興味を示しているように見える。


銃士(ガンナー)が冒険者ギルドに来ることがあるのか」

「いえ……そういうわけではないのですが……個人的にお会いしたことが……」

「なるほど。俺以外にも銃士(ガンナー)が、珍しいなりにいるらしいな。それで、登録というやつはいつできるのかな」


 レオンがそう言うと、サラもまた受付嬢のように困った顔をした。


「いや、あの、それがですね、魔術師さん以外の方が登録に来られるというのは例外中の例外というか……」

「本当にここには魔術師しかいないんだな。君も魔術師なのか?」


 レオンの問いに、サラは表情が曇った。

 耳が少し、伏せられる。


「はい……一応は、私も魔術師です」


 やや暗い声で、彼女はそう答えた。



名前:レオン・クルーガー

レベル:47


・基礎パラメーター

HP:523

MP:0

筋力:623

耐久力:428

俊敏性:885

持久力:534


・習得スキルランク

早撃ち:S

精密射撃:S


・レアスキル

風読み(命中率++)

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