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第24話「新たな仲間」

「クソッ! あんな小娘を差し向けたのが間違いだった!」


 ドルバック伯爵は、暗い部屋で叫んだ。


「マルセル!」

「お呼びでございましょうか……」


 背の曲がった老人が、影から姿を現わした。


「例の暗殺者に連絡は取れんのか」

「打診してはいるのですが……おそらく別の仕事に取り掛かっている最中かと」

「どいつもこいつも役立たずめ!」


 ドルバック伯爵はローブの裾を払った。


「……こうなれば私がじきじきに出るしかあるまい」

「そんな……お父様……!」


 袖を掴んだイリムの手を、ドルバック伯爵は払いのけた。


「他に誰がいるというのだ! 相応の実力を持ち、信念を持ち! そして……」


 ドルバック伯爵は、紫色に光る3つの魔石を見つめた。


「そして……魔石を操る術を知っているものが……!」

「それなら私が……」

「ならん!」


 一喝されて、イリムは怯んだ。

 銀色の瞳が涙に濡れる。

 そんなイリムを見て、ドルバック伯爵は声を和らげた。


「お前は虫も殺せぬような娘だろう。イリム」


 そう言って、イリムの肩を抱いた。


「レオン・クルーガーはただの銃士(ガンナー)ではない。戦い方を知っている。どれだけ魔力があれ、お前のかなう相手ではない」

「お父様……逃げましょう! もう王族の地位なんて関係ありません……あの魔族から逃れるのです……!」

「言葉を慎めっ!」


 ドルバック伯爵は再び一喝した。

 そうして辺りをうかがうようにして、声をひそめる。


「ゼベル様とルキア様は、今もどこかで聞いておられるかもしれん……いいか、もう引き返せぬところまで来ておるのだ」


 娘を抱きながら言った。


「私はオルディエールの娘をゼベル様とルキア様に捧げる。お前は第2王子の妃となる。これは私の決めたことだ。マルセル! 後のことは頼んだぞ!」

「万事心得てございます……」 


 娘の追い縋る手を振り払い、3つの魔石を懐に入れると、ドルバック伯爵は屋敷を出た。




「追いつめられた人間は見てて楽しいですわね、お兄様」


「そうだね。人間は眺めても楽しいし、モノによっては食べても美味しい」


「うふふ、まるで私たちのために作られた家畜みたい」




………………。

…………。

……。




 マーガレットは銭湯をめちゃくちゃにした罰として、外のベンチで寝かされていた。

 もう真昼だ。

 しかしマーガレットが起きる様子はない。

 ぽかぽかした陽気に包まれながら、よだれを垂らしていた。


「……ゼラチンエビのペッパー炒め……ふふっ」


 ぐぐぅーっとお腹が鳴る。

 その音で目を覚ました。


「ん? ううーん……」


 マーガレットは身体を起こすと、軽くしっぽを振りながら伸びをする。

 首にかけられた大きな札が揺れた。




【わたしはおふろをこわしました】




「起きたか」


 レオンは隣りのベンチで、カウボーイハットを顔に被せて昼寝をしていた。 


「うん。お腹空いた……あ、良い匂いがするわ!」

「村の人が羊を煮てくれている」

「レオンさーん!」


 サラが声をかけてきた。


「そろそろ煮えましたよ」

「そうか、じゃあいただくとしよう」


 レオンはベンチから立ち上がって、帽子を被った。

 村長の家に向かうと、マーガレットもしっぽを振りながらついてくる。


「おお、ちょうど食べ頃でございますよレオン殿」


 村長は嬉しそうに言った。


「羊と山菜のスープですじゃ」

「わあーっ、美味しそーっ!」


 マーガレットは赤い瞳をキラキラさせた。


「なんじゃ小娘、まだおったのか」


 村長は手をしっしっと振った。


「村の貴重な観光施設を壊すような小娘にやるメシはないわい!」

「まあまあ、修理代は出すさ」


 レオンは村長に金貨を差し出した。

 最初にアイリスを救ったときに渡された謝礼の一部だ。


「そ、そんな、レオン殿、これではもらいすぎですじゃ……!」

「これは車代も含んでる。遠慮なく受け取ってくれ」


 旅を急ぐ身でありながら、昼までのんびりしているのには理由がある。

 今のレオン達には、馬はあっても馬車がない。

 だから今、村の男たちが荷車を改造して、急ピッチで馬車を作ってくれているのだ。


「乗馬で行くには、遠すぎる旅だからな。どうしても馬車は必要だ」

「では、ありがたくちょうだい致しますじゃ……ほら小娘、レオン殿に感謝せんか!」

「ありがとうレオン!」


 マーガレットはレオンの腕に抱きついた。


「私、食べ物くれる人好きよ!」

「じゃあまず村長の奥さんにハグするんだな」

「おばさんありがとう!」


 奥さんに抱きつきに行くと、しっしっと追い払われた。


「とにかく食べましょう!」

「あんたが仕切るんじゃないわい」


 食欲をそそる強い香りが、鍋の上に揺らいでいる。

 羊肉は柔らかく煮込まれていて、旨みが舌にしみわたった。


「良い香りだな。これはヤマブシニンニクか?」

「正解ですよレオン様。今朝採ってきたばかりのものです」


 村長の奥さんが答えた。


「なるほど、香り高いわけだ。羊肉の臭みもきれいに消えてる」


 アイリスはふーふー冷ましながら、小さな口で羊肉をかじっている。


「美味しいか」

「うん……美味しい……おうちで食べたことない味がする……」

「それが野趣というものですじゃ」


 村長は孫を見るような目をしている。


「おいし……あっつい! おいし……あっつい!」

「マギー、誰も取りゃしないんだからゆっくり食べろ」

「分かったわ!」


 サラは猫舌なので、スープを冷ましている間に、アルフレッドのベッドに食事を持って行った。


「執事が食事のお世話をして頂くなど……まことにお恥ずかしい限りです」

「そんなことおっしゃらないで。今はお身体を治すことだけ考えて下さい」

「トレイン様は本当にお優しい。では、ありがたくちょうだい致します」


 食事を終えると、レオンたちは村の広場に行った。

 身体のがっしりした村長の息子が、汗をぬぐいながら言った。


「もうそろそろ完成ですよ。といっても荷車を改造した、にわかづくりですが」


 レオンは荷車に板を打ち付ける男たちを見て言った。


「いや、旅を楽しむには充分だ」


 馬車が完成すると、村の女たちがクッションになるように厚い布を何枚も敷いてくれた。

 サラとアイリスがそれに乗りこみ、レオンが手綱を握る。


「世話になったな」

「いえいえ、リッパーウルフを倒して頂いた恩は、まだ返しきれてはおりませぬゆえ」

「じいやを……お願いします……」


 アイリスの言葉に、村長は笑顔を浮かべた。


「もちろんでございますじゃ」


 さあ出発、というところで――。




「ちょっと待ってちょうだい!」




 ――馬が地を蹴立てる音が近づいてきた。

 乗って来たのはマーガレットだ。


 マーガレットが手綱を引くと、馬は足を止め、土煙が舞い上がった。



「私も旅に同行するわ!」

「……理由を聞いてもいいか?」

「もちろん!」



 マーガレットは大きな胸を叩いて言った。



「それが私の正義だからよ!」

「なるほど……旅に出るには充分すぎる理由だ」



 レオンは笑った。



「じゃあ行ってくる。必ず戻る」



 レオンは手綱を引き、マーガレットは愛馬の腹を軽く蹴った。


「どうぞ、お気をつけて!」

「行ってらっしゃいませー!」

「帰りをお待ちしておりますぞー!」


 馬車に乗っているサラとアイリスは、村人たちの姿が見えなくなるまで手を振った。

 新たな4人の旅が始まる。



名前:マーガレット・コンスタン

レベル:45


・基礎パラメーター


HP:325

MP:820

筋力:321

耐久力:350

俊敏性:412

持久力:326


・習得スキルランク

火魔法:S

氷魔法:C

灯魔法:D


・レアスキル

ファイアブレイズ(火魔法適性++ MP++ 命中率--)

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