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第13話「レオンの実力」

「アルフレッド、アイリスを呼んできてちょうだい」

「かしこまりました」


 しばらく待つと、アルフレッドにいざなわれて少女が応接室に入ってきた。


「初めましてではありませんよね。でもご挨拶なさい」

「はじめまして……アイリス・ギュスターヴ=オルディエールと申します……」


 小さな声で名乗ると、少女はスカートを少し広げて、つま先をトンと床についた。


「この子が今こうしていられるのも、お二方のおかげです。本当に、心から感謝致します」


 エレノアは笑顔を見せた。


「あれからアイリスはクルーガー様にご執心ですのよ。キノコの君、なんて呼んで」


 サラがぷっと吹き出した。


「いい名前じゃないですか、キノコの君」

「ああ、光栄だ」


 アイリスは真っ赤になって俯いた。


「クルーガー様、トレイン様、なにとぞ、アイリスをよろしく……」


 エレノアが言いかけたとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。



「お母様!」



 入ってきたのは、背の高い青年だった。

 絨毯を踏みしめながら歩いてくると、レオンとサラを指さした。



「話に聞けば、このふたりはEランクと、あろうことか前代未聞のFランクの冒険者だそうじゃありませんか!」



 青年の声は、広い部屋中に響き渡った。



「こんな連中にアイリスを任せるなど言語道断です! 賢明なお母様の判断とは思えません!」


 大声で怒鳴りつけられ、サラは耳を伏せてすっかり萎縮していた。


「やめなさいフィリップ。この方々はアイリスを救って下さったのですよ。その場にいたどの魔術師もかなわなかった相手を打ち倒したのです」


 エレノアがいさめようとするが、フィリップは聞く耳をもたない。


「偶然ということがあります! 衛兵を総動員して護衛させた方が確実だ!」

「それではアイリスがどこにいるのか、敵に知らせているようなものです」

「仮にそうだとしても、このふたりに任せることだけはあり得ない!」

「ちょっといいかな」


 ソファに足を組んだまま、レオンが言った。


「指をさされるのはあまり好きじゃないんだ」

「………………!」


 フィリップは興奮で真っ赤になった。


「立つんだクルーガー」


 そう言って、腰に差した青い杖を叩いた。


「これは訓練用の杖だ。光魔法のものだが、威力を調整してある。君がこれを受けて死ぬことはない。実力を確かめてやる!」

「悪いが……」


 レオンはマカロンを口に放り込んだ。

 ゆっくり噛んで飲み込み、紅茶をひとくち飲んだ。


「……訓練用の弾丸なんてものはない」

「弾丸? もしかして君は銃士(ガンナー)なのか!?」

「そうだ。だから俺は死なないとしても、君は風穴が空くと何かと困るんじゃないか?」


 フィリップは怒りのあまり、血管が破裂しそうなほどに震えていた。


「立てクルーガー! 銃士(ガンナー)ごときにアイリスが守れるか!」

「わかったよ……わがままな坊ちゃんだ」


 レオンはゆっくりと立ち上がる。

 すると、アイリスが走り寄ってきて、レオンのポンチョを引っ張った。


「………………」


 泣きそうな顔でレオンを見上げている。


「大丈夫、悪いようにはしないさ。誰も怪我なんてしない。キノコの君を信じてくれよ」


 頭をぽんぽんと叩いてやると、アイリスはこくんと頷いて、ポンチョから手を離した。



「そこに立て」



 レオンが指定された場所に立つと、フィリップは背を向けて歩き、こちらに向き直った。

 その距離、約7メートル。



「言っておくが、僕は元王立軍の教官から魔法の手解きを受けている。クラスを名乗るなんて下品な真似はしないが、少なくとも銃士(ガンナー)のかなう相手ではない」


 フィリップが言い放つと、レオンは答えた。


「実力を確かめるって言ったのはそっちだぜ。結果がわからないから確かめるんだろう?」

「決闘で人に恥をかかせるのが嫌いなだけだ。だが覚悟が決まっているならもう何も言わん! お母様、シールド魔法を。クルーガーが流れ弾を撃つ可能性があります」


 エレノアは、黙ってドレスの裾から短い杖を取り出した。

 その様子を見て、フィリップはレオンに向き直る。



「抜け、クルーガー!」

「………………」



 エレノアがシールド魔法を展開するのと、ふたりが動いたのは同時だった。



 フィリップの手が素早く杖を抜く。

 レオンはブーツのかかとで床を蹴り上げる。



――杖が光った。


――空中で身体を捻りながら、トリガーを引いた。



 光弾がレオンの鼻先をかすめるほどの距離で閃き、部屋の隅の花瓶に火花を散らす。

 焼けた弾丸がフィリップの杖を叩き折り、壁の風景画を貫いた。



 レオンは背中から絨毯に落下し――掛け時計が再び時を刻み始めた。



(……ただのお坊ちゃんじゃなかったってわけだ)



 レオンはゆっくりと上体を起こした。


「………………」


 フィリップは信じられないという顔で、打ち落とされた杖を見下ろしていた。


 名乗りはしなかったが、フィリップはBランクの魔術師だ。

 それも、近いうちにAランクに昇格するだろうと目されていた。


 魔術師としてのうぬぼれはなかったが、銃士(ガンナー)に負けることなど、想像もつかないことだった。

 Bランクの魔術師を破る銃士――しかもレオンはその職業(ジョブ)ゆえにFランクに登録されているのだ。



(何者なのだ……この男は……)


 

「……怪我はないか? フィリップ」


 声をかけられて、フィリップは我に返った。


「ああ……少し指が痺れているだけだ」



レオンは立ち上がり、ふたりの目が合う。

フィリップの目に驚きはあれ、敗北の悔しさはなかった。

もちろんレオンも、勝ちを誇るつもりはない。



「……君の実力を疑ったことを謝罪しよう。レオン・クルーガー」

「なんだって、確かめてみなきゃわからないもんさ」



エレノアは、ほうと息をついて、シールド魔法を解除した。



名前:フィリップ・ギュスターヴ=オルディエール

レベル47


・基礎パラメーター

HP:495

MP:489

筋力:538

耐久力:380

俊敏性:862

持久力:675


・習得スキルランク

雷魔法:A

氷魔法:C

火魔法:B

光魔法:A

シールド魔法:C

灯魔法:D

社交術:A

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイリスみたいな娘って、凄い守ってあげたくなるよね·····! フィリップも根に持って怒り狂ったりするタイプじゃなくて、ちゃんと理解してくれる人で好感度が高い笑 相変わらずの主人公のかっこ…
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