第1話「時代遅れの職業」
レオンは砂漠の村で、祖父と一緒に暮らしていた。
母はレオンを産んだときに。
父はレオンが物心つく前に魔物の襲撃で死んだそうだ。
祖父のクリントは偉大な銃士として、村のみんなに頼りにされていた。
魔物が現われると、村のみんなは狩猟銃を持ち出してなんとか撃退する。
こんな寒村を守ってくれる魔術師などいないからだ。
クリント爺さんはそのときひとりだけ“拳銃”を持って魔物に立ち向かった。
そうして、誰よりも多くの魔物をしとめた。
「お前の父さんには本当に悪いことをした。お前はわしが立派な銃士に育ててやる」
この頃すでに銃士は時代遅れの、誰からも必要とされない職業となっていた。
魔術師のための“杖”が発明されたからだ。
杖があれば、長い詠唱をスキップして魔術を発動することができる。
鉛の弾を撃ち出すだけの拳銃の役目は終わったとされていた。
魔術の使えない平民は、ライフルを使えばいい。
それでもクリントは、レオンに銃士としての技術を叩き込んだ。
レオンが銃に触れたのは4歳のときだ。
子供であるにも関わらず、レオンに与えられたのはクリントの物よりも大きな拳銃だった。
黒く光る長い銃身。
ごつごつした弾倉に、反り返った撃鉄。
磨き上げられた木製の銃把。
持ってみると、思っていた以上にずっしりと重かった。
こいつが自分の拳銃なのだという実感が、その重さには宿っていた。
最初はもちろん撃たせてはもらえず、銃の分解、手入れ、組立方を教わった。
1年間それをやらされて、大きな銃がすっかり手に馴染んだある日、その拳銃に弾を込めるように言われた。
レオンは祖父と一緒に外に出た。
砂風の激しい日だ。
レオンの家の近くには、いつ建てられたのかも分からない古い石塔が立っている。
「いいか、こう構えるんだ」
祖父はレオンの後ろに立ち、肩や腕を持って正しく銃を構えさせる。
レオンは小さな指をできる限り伸ばして、大きな銃把を握った。
「あの石塔を撃ってみろ」
「でもエリナおばさんが、あの石塔は神様だって」
レオンが見上げると、祖父は言った。
「鉛玉ではたかれたくらいで怒る神様は神様なんかじゃない、いいから撃つんだ。撃鉄を起こせ。照門から照星がまっすぐに見えるように、肩の高さでまっすぐ構えて。教えたとおり、反動は上に逃すんだ。さあ、撃て!」
レオンが重いトリガーを引くと、ぱぁんと乾いた音が砂漠に響いた。
強烈な反動と共に発射された銃弾は、石塔の端をわずかに削る。
後ろに倒れそうになったレオンは、祖父に抱きとめられた。
祖父は笑った。
「あれくらいじゃ神様は怒らないな。次はもっと中心を狙え。いいか、銃は腰で撃つんだ。よく覚えておけよ。こうだ」
祖父は腰を落とすと、自分の拳銃を真正面に構えてトリガーを引く。
銃弾は石塔のど真ん中に命中した。
「さあ、やってみろ」
レオンの2射目は、祖父の撃ったすぐ隣に当たった。
「さすが俺の孫だスジがいい」
そう言って祖父は石塔を見もせずに、片手で構えた拳銃のトリガーを5回引く。
全弾が吸い込まれるように石塔を叩いた。
「そのうちこういうこともできるようになる。他の訓練法も教えてやろう」
その日から、レオンの家の軒先には鈴が吊されるようになった。
レオンは小さな身体にぴったりのホルスターをプレゼントされた。
「鈴が鳴ったらホルスターから銃を抜いて石塔を撃て」
砂風が吹くと、鈴が鳴る。
りぃん……。
音に気づくと、レオンは大慌てでホルスターから銃を抜き、トリガーを引く。乾いた音。反動。ぴゅんと石塔の表面が弾ける。
「亀を撃とうってんじゃないんだ。もっとスマートに、こうだ」
りぃん……。
次に鈴が鳴ったのと、祖父の銃弾が石塔に命中したのは同時だった。
「鈴の音を聞く前に、風を読むんだ」
そんな日々がしばらく続いた。
どんどん追加される祖父の特訓は厳しかったけれど、レオンの大事な日課になっていた。
いつかおじいちゃんみたいな立派な銃士になるんだ。
そう信じて、今日もトリガーを引く。
訓練には体術も追加された。
木銃を用いたスパーリングだ。
「おい、そんなものか、情けないっ!」
跳躍しようとした足をひっかけられて、レオンは転倒した。
ある日、家に珍しくお客さんが来た。
「お前は外に出ていなさい」
祖父はお客さんと何か難しい話をしているらしかった。
なんの話をしているかはわからなかった。
それから1週間後、祖父はレオンにこう言った。
「お爺ちゃんは少しの間、旅に出ることにしたよ」
名前:レオン・クルーガー
レベル:3
・基礎パラメーター
HP:57
MP:0
筋力:65
耐久力:67
俊敏性:113
持久力:80
・習得スキル
早撃ち:C
精密射撃:D