ボッチと階段
春は焼き芋
いつの間に寝ていたのだろう。電気がつけっぱなしだった。横を見るとモニター画面で触手が魚人に絡みついていた。
トウカさん。あの後動かせるようにはしたけれど、もしかして一晩中やっていたのか?
「あっ、起きた。ごめん急いで充電して!お願い早く!」
とりあえず充電機の上に端末を置いた。これでいいですか。
「よし、端末セイフモード解除。演算出力最大。地形変更を予測。多重コマンドマクロ実行。これで終わりだー!」
魚人がひときわ大きくのぞけると白目をむいて倒れこんだ。どうやらCPUに勝てるようになったらしい。マクロを使わないと勝てないのか。
まだまだ先は長いな。
ところでどうして触手キャラを使用しているんだ?
「これが一番動きが人間っぽいので」
もはや何も聞くまい。
「起きたならスーパーに朝ごはんでも食べにいかない?」
昨日いった駅前のスーパーは締まっているぞ。あそこは24時間営業じゃないからな。
「調べてみたらコンビニとは逆の方向にもスーパーがあるんだよ。しかもコンビニより近くに」
窓から外を見ると明け方だった。この時間だとお惣菜も売り切れているんじゃないかな。
「朝からいいことが、何かあるかもしれないよ」
まあ近いなら良いか。僕は財布と端末を持って外に出た。
「そこの坂道の途中に階段があるでしょう。そこを登ってまっすぐ行けばすぐだよ」
会社に行っていたときとは完全に逆方向だ。かなり盲点だったな。
確か住む前に調べたときは、こっちのスーパーはつぶれていた記憶がある。
あれからすぐに忙しくなってこっちはこなかったもんなあ。
そして確かにスーパーは空いていた。自動ドアが開くとそこはディスカウントスーパーだった。
中を歩いてみる。お菓子、飲料、冷凍食品に日用雑貨か。やはりこの時間お惣菜はほとんどないな。
「ねえこの音楽ってなあに?」
ぴっぴぽぴ~ぴっぴぽ~ぴ~と音がする。焼き芋機がおいてあった。しかも芋が残っているぞこれ。
「今日の朝ごはんはこれでどうよ」
しかしやはり売れ残りか。手に取って見ると冷めていた。
「ねえあれ見て見て!」
端末画像のAIさんが嬉しそうに指さす方向を見ると電子レンジが置いてあった。
「歩いて5分。買ったお惣菜も温めてから、持って帰って食べれるよ。この場所なかなかよいのでは」
とりあえず焼き芋とお茶を購入して電子レンジで加熱。その後アツアツの食材をもって外に出た。
「ちょっと寄り道していこう」
まだ何かあるのか。
「そこにベンチがあるし、さらにその横にも御注目」
コインロッカーかな?
「それは今の君に必要になるものだよ。宅配ボックスステーションだ」
なにそれ。
「有料の宅配ボックスだよ。あのアパートにはない宅配ボックスをネットで借りることができるんだ」
といいますと
「君がいつ寝ていてもここに荷物が届くんだよ」
もしかして、僕もネットで好きなものが買える時がようやく来たのか。
感慨にふけりながらベンチに座る。すぐそばは崖になっていて、登ってきたアパートから駅前の町までよく見える。朝日を浴びて遠くの山が輝いていた。
端末を見るとこやつニヨニヨ笑っておるし。
「ね。いいことあったでしょう。お芋の方はどうかな」
はい、とてもおいしゅうございます。




