ボッチの趣味
今日の夕食は桃缶とゼリーと水。流石に2食続けて同じものを食べると飽きるな。
「栄養ゼリーは?」
それは生きるのに必要な物質が全部入っているので別格です。
「そこに桃缶という新たな素材が投入されたのだ。桃の繊維が糖分の吸収を穏やかにし、持久力を高める助けになるであろう。それ以上にシロップが甘いけれど」
さよか。
「そういえば君は趣味があるのかい?」
趣味か。あるというべきか、あったというべきか。
まず対戦ゲーム。負けるとストレスがたまる人はまずやらないほうが良い。けれども会社を辞めてからしばらくやっていないなあ。感情が強くなると最近ものすごく疲れるんだ。特に負の感情がたまると胃にくるし。
もう一つはハイキングだったけれど、今はこんな調子だしなあ。
「それは深刻な問題だね。やっぱり鍛えるしかないか」
ブートキャンプがはじまるのかな?
「君の場合はまず体作りの下地を作れるようになるところからだろう」
具体的には?
「よく寝、よく食べ、よく遊ぶだよ。まさかクウネルアソブ全部だめだったとは思わなかった。ところで対戦ゲームは一人でできるモードとかないのかな?」
そういえばタイムアタックやスコアアタックがあったな。
「一人なら対戦よりは感情的にならずにすむんじゃないかな?そもそもゲームってやったことないし。ちょっと見てみたいな」
ゲームに興味があるのかトウカさんや。久ぶりにやってみますかのう。
パソコンから対戦ゲームを立ち上げた。久しぶりだなこの3D格ゲー【人外魔境】を行うの。
僕は烏賊のようなキャラクターをセレクトし、CPU戦を披露する。
一般的な人型と違い、この格ゲーのキャラクターは程よく尖った調整されているのだ。しかも前後左右非対称のキャラクターが多いので、いかに自分のキャラクターの優位な場所を確保して敵を不利なポジションに追い詰めてはめ殺すかというのがポイントになる。しかもこのゲーム難易度をさらに上げるために、バトルフィールドは時間によって変化するようにできていた。そこで飛び道具より置き道具が重要視され、上級者になるとピタゴラスイッチを組み上げることが可能なのである。
当然ながら初心者にはお勧めできない。
とまあこんなゲームなわけだが感想をどうぞ。
「ええと、何かゲージを削りあうのは分かったけれど、その動いているのは何?」
烏賊型生物だけれども。
「私の知ってる烏賊と違うので、烏賊と認識できないのだけれど?」
Q:烏賊ってどんなイメージなんです?
「A:食材で動かない足が10本の頭足類」
動物としても認識されていなかった。
「動く生物はいくつか動作パターンを持っているのだけれど。人間とか犬とか猫とかね」
それって僕個人をどうやって認識しているんだ?
「人間でいう視覚情報だけだと動作パターンと各パーツの配置が大きいかな。その顔だとわかっていないみたいだね。ええとまず端末のカメラを君の顔に向けてほしい」
端末を向けると僕の顔があった。
「単純化すると会話しない場合は目の中心と口の中心、顔残隊の輪郭だけでまず判断するかな」
目と口の中心に×マークが付き、輪郭が縁取りされて、初めにあった僕の顔が消えた。
そこには僕の目と口の比率から作りだされた卵型が残されていた。
「実際は髪の色とか要素はいろいろあるし、会話するときは表情の変動分も考慮するのだけれど」
ううむ納得いかない。
「写生会で同じ人を書く場合、タッチは違うけれども同じようなたれ目で同じような輪郭で同じような所に口があれば同じ人と認識しやすいじゃない?あれと同じことなんだよ」
そういうことか。
「さらに言えば端末のマシンスペックだと単純化しないといろいろと厳しいんだ。まあ同じようには見ていないけれど、同じ所を見ているということでお願いします」
それなら仕方あるまい。
「で、話は戻るけれど、このキャラどうとらえたらいいのかな」
その日僕は寝るまで、うちのAIさんと烏賊のようなキャラクターの相互理解に時間を費やすのであった。




