第7話:エゼルとディルは、お嫁さん??
2019/1/5:大幅に後半部分を変更しました。
「まじでこれ、アカンタイプの召喚だわ……」
この短時間に、3回繰り返された俺の言葉。
俺が呟くたびに、満面の笑みを浮かべるディルとエゼル。
2人が反応しているってことは、俺の言葉が聞こえているはずなのに……なんで彼女たちはこんなにも嬉しそうなのだろう?
弱腰な俺を責めるでもなく、見下すでもなく。
ディルとエゼルは、ただ嬉しそうな微笑みと、何かに期待している熱い眼差しを俺に向けてくる。
吸い込まれるような、ディルの紫色瞳と魅力的な笑顔。
そこにいてくれるだけで心が温かくなる、エゼルの銀色獣耳と柔らかい雰囲気。
そのせいだろうか?
2人の可愛い美少女のために、敵対者と戦うのも悪くない。一緒に逃げるというよりも、戦うという選択肢の方が俺的にはしっくりくる。……って、俺の心の奥深い部分が叫んでいた。
「……本当に、仕方ないなぁ」
思わず口から、強がる言葉が飛び出していた。
2人との時間を守れるのなら、世界だって敵にしてやるよ。俺が生き残れるかどうかは別として。ディルとエゼルのためになら、召喚直後とはいえ、戦う覚悟くらい固めてみせる。いや――もう、すでに固めた。
今更、俺を慕ってくれている2人放置して、戦いに参加しないという選択肢は無い。それに、戦いに参加せずにこちら側が負けた場合、俺の命の保証があるとは限らないし。
俺が加わることで1%でも勝率が上がるのならば、俺は喜んでディルとエゼルの力になる。
だから100歩譲って「敵対者と戦う」のは良しとする。
異世界召喚の定番だからね、召喚直後に戦うのは。
うんうん、よくある話(?)だ。
そして50歩譲って「あの単語」も受け入れることにしよう。
そう、たしか『女勇者が攻めてくる』って聞こえたような気がする。でもそれは多分、ディルやエゼルが「人類の敵」として認識されているってことだよね? そして、俺も人類の敵として認識されるってことだよね。
……おうふ、人類の敵まっしぐらかぁ。なんか今更だけれど、前途多難な予感がする。
「おにーさん、大丈夫ですか??」
俺の不安な表情を見てしまったのだろう、少ししゅんとした表情をディルが浮かべた。
その隣では、エゼルが俺の渡したハンカチをクンカクンカしている。嬉しそうに、ケモ耳をぱたぱた揺らしながら。
「……エゼル。ハンカチ、俺に返して?」
つい反射的に口から出た真面目な言葉。ちょっと平坦な声が出てしまった気がするけれど……いや、だってほら、反対の立場で考えてみて欲しい。
ちょっとシリアスなこの状況で。俺がエゼルのハンカチをくんくんしていたら、確実に変態の烙印を押されて、社会的に死ねるだろう?? それと同じことをエゼルは、今していたんだからね?
そんな俺の非難の視線をむける俺に、エゼルが絶望に満ちた顔で言い訳を返してくる。
「は、はぅっ!? このハンカチは、もうすでにエゼルの宝物になったのだ。返してほしければ、中級天使のエゼルを倒してからに――「エゼルさん、おにーさん、遊んでいる時間は無いのですよ??」」
慌てているエゼルの言葉を、バッサリと遮ったディル。
真面目な表情を浮かべながら、やや早口で言葉を続けようとしていたけれど――俺的には、エゼルが「ただの狼耳メイドっ娘」じゃなくて中級の天使だったことに驚いていた。
あ、あと、今更だけれどディルの正体も知りたい。
多分、「ダンジョンマスターになってよ☆」という言葉が出ている以上、ディルはダンジョンコアかそれに類する魔物っ娘だと思うのだけれど。
「……おにーさん? なにか考え事をしていますか??」
「あ、ごめん。エゼルの正体が天使だって知って驚いていた。あと、ディルの正体ってダンジョンコアもしくはそれに類する存在であっているかな?」
俺の問いかけに、ディルの顔がきょとんとした表情に変わる。
そして、一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべると、ゆっくりと言葉を口にする。
「ほぇ? おにーさんは私ちゃんの正体に、まだ気付いていないのですか?? 私ちゃんは、おにーさんのお嫁さんですよ?」
「ちなみに、エゼルは二番目の嫁だ(≡ω)b」
「え? え? ええっ!?」
記憶を失う前の俺! こんな年下の女の子(しかも美少女&けもみみメイド)にいったい何をしていたんだよ!!
うらやま――じゃなくて、けしから――でもなくて、ゲフンげふん。とりあえず、冷静になって考えるんだ、俺っ!!
「私ちゃんとエゼルさんは、おにーさんのお嫁さんなのです♪」
ちくせぅ、なんかうっとりとした表情でディルに呟かれてしまった……。
記憶、早く取り戻したい。
(次回につづく)