第6話:私ちゃん達と契約して、ダンジョンマスターになってよ☆
「んー、俺としては事情がよく分からないけれど……あまり時間が無いのかな?」
「そうなのです! 実際のタイムリミットは、あと14分を切りました」
「正直、ギリギリだろうな(≡ω)」
苦笑するディルとエゼル。
でも時間が無いと言っている割には、どこかのんびりしている雰囲気を2人から感じるのは間違いない。
俺のそんな思考が視線でバレたのだろう、ディルが意味深な表情で小さくクスリと微笑んだ。
そして人差し指を一本立てて、何もない空中に円を描く。
すぐに現れたのは、縦15センチ×横20センチの半透明な四角い画面。何かに例えるならば、小さなパソコンのモニターというのが適切だろう。空中に浮かんでいるソレは、半透明な『SF仕様』になっているけれど。
そして、空中のモニターに表示されている数字の列が、1秒ごとに減っている事実に俺は気付いてしまう。
これは、何のカウントダウンなのだろうか? ……正直、あまり良い印象は受けない。
「残り13分42秒?」
「そうなのです。残り14分を切っています!」
「そうだ、アイツがやってくるまであと15分くらいだもんな(≡ω)♪」
「だから契約をするのです!!」
契約という言葉。アイツがやってくるという言葉。猛烈に感じる嫌な予感。
また、俺の頭がズキリと痛む。
……でも、ここで意識を失う訳にはいかない。
強烈な痛みを意思の力でねじ伏せて、俺は自分の意識を手繰りよせる。
すると、エゼルとディルが会話している声が耳に聞こえてきた。
でもなんだか、とっても嬉しそうに――悪だくみをしている声色に――聞こえてしまうのは、俺の気のせいだろうか?
「契約をするためには『あの言葉』を口にしないとだよな(≡ω)b?」
「エゼルさんの言う通りです。2人で何回も練習をしたんですから、きっちり重ねましょうね(≧ω)ノシ♪」
2人はそう言ってクスクスと笑いあう。
……なんでだろう、背中に嫌な汗をかいてきた。多分これは、頭痛のせいだけではないだろう。
そしてディルとエゼルは、顔を上げた俺に対して、意味深なを笑み浮かべる。その後、小さな声で「せーの」と合図をしてから2人は口を開いて言葉を重ねた。
「「私ちゃん達と契約して、ダンジョンマスターになってよ(≡ω)ノ~☆」」
……うん。俺もネット小説は大好きだけれどさ。
どうせ異世界召喚の定番として『しばらく』は日本に帰れないのだろうし、「難しいことを考えるのは後にして、この異世界召喚&可愛い女の子達との交流を全力で楽しもう!」とか少しだけ思い始めていたけれどさ。
なんで某ホラー系アニメをパku――もといリスペクトしているんですか!?
これ、運が悪いと第3話くらいでバットエンドが見えていますよね。その言葉を口にした小動物と魔法少女達は『最終的に何になった』のか、君たちは知らないのかな?? きっと知らないから、笑顔でそんなことを口にできるんだよね??
「これ、アカンタイプの召喚だわ……」
思わず零れた俺の言葉。
でもなぜか、2人は悪戯が成功したような表情でクスクスと笑っている。
そしてゆっくりと、花が咲くような微笑みで、ディルが口を開いた。
「そういう『お約束』はどうでも良いですから、戦う準備をしてくださいっ♪」
再び聞こえてきた、嫌な言葉。
戦うって何と戦うのだろう。現代社会の日本人を『異世界召喚直後に戦わせる』のって、実際は『ガチな死亡フラグ』なんだぞ。
戦う覚悟も技術も持っていないから、せいぜい肉壁としてくらいしか使えない。
いや、下手をしたら日本の道徳観を振りかざして、「とどめを刺しちゃいけないッ!!」とか口に出して、仲間の足を引っ張ることすらあるだろう。
そんな俺の心の叫びが聞こえたのだろうか。
こくりとディルが首を縦に振って、可愛い笑顔を浮かべた。
「あと12分後に女勇者さんが、ダンジョンに攻めてきますからね~(≧ω)b」
……こいつ、ぜんぜん理解していない。
俺の心は、不安と絶望で押しつぶされそうなのですよ? 戦場でいきなり戦わされるって、普通の日本人なら、腰を抜かして嘔吐しても許されるレベルですよ?
「まじでこれ、アカンタイプの召喚だわ……」
小さく呟くくらいは、許して欲しい。――いや、彼女たちは許してくれているのか。
俺の目の前にいる美少女2人からは、にこっとした可愛い聖母の微笑みが返ってきたのだから。
(次回につづく)