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第4話:取り繕う? 社会人の必須科目ですよね??

 なんというのか。2人とも涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになっているからね??

 こんな表情で泣きながらくっつかれると、「開放して欲しい」とストレートに提案するのは、ちょっと野暮ってやつだろう。

 小さく深呼吸をして、俺はお仕事モードで笑顔を作る。


「可愛い顔が、台無しだよ?」


 なるべく優しい声になるように気を付けながら話しかけ、ポケットから取り出したハンカチで2人の顔をそっと拭く。

 幸い替えのハンカチをいつも持ち歩いているから、2人同時に顔を拭いてあげることが出来た。

 そう、「雨の多い梅雨の季節には、2枚以上のハンカチを持ち歩くのが営業をする人間の基本ですよ?」と教えてくれた『上司の美学』は、いつも俺を助けてくれる。


「あぅぅ、おにーさんのハンカチが汚れてしまいます(///ω)」

「いいよ、いいよ。もう涙を拭いたから、使って使って」

「……はぃ。ありがとうございます」


 赤髪の女の子が、遠慮がちながらも素直に顔を拭いている時。

 俺の視界の片隅で、銀髪のケモ耳もふもふ尻尾な美少女は――


「ふんす、ふんす♪ 水島おにーさんの匂いがするぞ(≡ω)b」


 ――ハンカチの匂いを嗅いで、キラキラとした瞳で「だらしない表情」を浮かべていた。

 ああ、もうこれだからエゼル(・・・)は! RPGでいうのなら、職業はきっと『遊び人で固定されて変更できない地雷キャラ』間違いなしだろ!?


「……って、エゼル??」


 俺の口からこぼれた言葉。エゼルって誰だ?

 でも、俺の中の何かが、目の前の銀髪の美少女の名前が『エゼル』なのだと訴えている。

 それに、銀髪の彼女のことを俺は他人だとは思えない。いつか、どこかで、俺は彼女のことを確実に知っている。


「水島おにーさん、エゼルのことを覚えているのか!?」

(わたくし)ちゃん、私ちゃんのことは覚えていますか!!」


 俺の呟きに反応したエゼル。

 そして、自身のことを「(わたくし)ちゃん」と呼ぶ女の子。


 そう、それは懐かしい一人称。「たくさん構って!」って自己主張している、寂しがりやな女の子。

 彼女の名前は……そう、たしか、覚えている。『ディル』だ。


 エゼルとディルは、俺の大切な――仲間。

 大切な大切な、俺の仲間。


「な、かま……」


 その言葉を口に出した直後、猛烈な頭痛に襲われる。

 頭が痛い。割れるように――締め付けられるように――激痛が響く。


「おにーさん!?」「水島おにーさん!?」

「ダンジョンマスター!!」「ますたー!?」


 薄れゆく視界。ぐるぐると回る世界。

 猛烈な頭痛を感じてこぼれた、俺の涙で霞む視野の中。

 立っていることが難しい俺の体を、2人の女の子と、その後ろに控えていた2人の影が支えてくれる。

 赤髪、銀髪、紫髪、全身水色……って、水色!?


「……悪い、ちょっと、起きているのは、難しそう」


 少し強がって苦笑した直後、俺の意識は闇に染まっていく。

 もにゅもにゅとした柔らかい感触と、女の子特有の甘い香り。……こんな事態なのに、彼女達を一瞬意識してしまった自分が、ちょこっとだけ可笑しかった。


 七社には感じなかった安心感。それを俺は、この短い時間でしっかりと感じてしまったのだ。

 俺の口から、ふいに言葉が漏れる。


「……ごめ……ん」


 その謝罪は、いったい誰に向けられたものなのか。

 俺に取り繕う余裕も考える余裕もなかったことは、不幸中の幸いだったのかもしれない。



(次回につづく)

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