表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/22

第3話:異世界召喚。そして再び出会ったエゼルとディル

 ちょっとリッチなディナ―の後で。酔っ払った七社を、マンションの部屋まで送っていく。

 すでにタクシーからは降りた後。七社の部屋があるマンションのエントランスに入って、エレベーターで5階へと移動する俺達。


「先輩♪ 先輩♪ にゃはは~(≡ω)ノシ」

「七社、ちょっと飲み過ぎだぞ? 何で先輩の俺が、後輩のお前を部屋まで送らないといけないんだ??」

「そんな~、寂しいことを言わないで下さいよ~」

「正直、お前を部屋に送るのは、身の危険を感じるからとても嫌なんだけれどなぁ」

「らいじょうぶですよー。鮎にゃん先輩は、私のことを美味しく食べてくれますからぁ~♪」


 鮎にゃん? いや、そこもだけれど七社を俺は食べちゃダメだろ?

 ――なんていうツッコミは、今のこいつには通用しないのだろうな。しかも、すぐ隣から感じる気配で「下手なツッコミをしたら余計に絡まれそう」だということも理解できてしまった。

 だから、俺は難聴系主人公をあえて演じてみよう。それとなく『話題を切り替える作戦』を取るとも言うけれど。


「七社、今日の料理は美味しかったな♪」

「はい、でも、メインディッシュがこれから待っていますよー」

「メインディッシュ? まだ何か食べたいのか??」

「先輩……あのっ(///Δ) わ、私を食べて下さいっ!!」


 急に立ち止まった七社。

 彼女に肩を貸している俺も、必然的に足を止めざるを得なかった。


挿絵(By みてみん)


「……」「……」


 二人きりで歩いている、七社のマンションの廊下。

 遠くに犬が吠える鳴き声が聞こえているだけの、妙に静かな時間。

 七社が大きく息を吸い込む音だけが、妙に大きく聞こえてしまう。


「私、先輩のことが好きなんです!! 最初は、近所のおにーちゃんみたいで頼りになるなぁ……くらいの軽い気持ちだったんですけれど、私が仕事で初めて大きな失敗をして、それを慰めてくれた先輩が好きになってしまって、毎日、毎日、顔を合わせる度に先輩が好きになってしまって――だから、だから、あのっ、私をもらって下さいっ(///Δ)!!」

「……七社? そういうことは――」


 もっとよく考えろ、と口にしかけた俺の返事を遮って、七社が早口で言葉を紡ぐ。


「先輩もその気なんですよね?? 私が酔っ払っているからといって、こうして部屋の前まで送ってくれるのは、その、私のこと好――「七社、部屋の鍵は持っているか??」――は、はいっ♪ これです!!」


 酔って赤くなった顔をさらに真っ赤に染めて、七社が俺に部屋の鍵を渡してくる。

 その手が、若干震えているのは、あえて見なかったことにする。

 空いている左手で鍵を受け取って、無言で部屋のドアを俺が開けて。少し緊張しながら中に入って……強引に、でも優しく、玄関の床へ七社を座らせる。


「先輩……(///-)」


 潤んだ瞳で七社が俺を見上げてきて、そっと目を閉じた。

 俺は彼女の唇に優しく――


「七社? とりあえず酔いを醒ませ。酒臭い女の子を抱くような趣味は、俺には無いんだ♪」


 ――人差し指を重ねて、キザっぽく苦笑する。

 なるべく優しい瞳で、なるべく柔らかい声になるように気を付けて。


 目を開けた七社が、捨てられた子犬のような絶望の表情を浮かべていた。


 ああ、もう、もったいないな。

 今ならまだ「嘘だよ」って笑って、合意の上で押し倒すこともできる。

 彼氏彼女な甘い関係になることが出来るだろう。……だから、俺は立ち去ろう。

 本当に、本当に、俺はバカな男だから。


「七社、いや――神楽?」

「ひゃぃ!?」

「今夜のことは忘れてやる。だから明日もお前の笑顔をみせてく――「先輩のバカっ!! 格好付けて、忘れるなんて言わないでよ!!」――っ!?」


 初めて聞いた、七社の叫び声。

 全身から血を吐くような悲しげな叫び。俺の身体が、何かを思い出しそうに(・・・・・・・・・・)なって、思わず固まっていた。

 戸惑う俺に、七社が真剣な瞳を向けてくる。


「私、先輩のこと諦めません。押して、押して、押しまくって先輩を――って、先輩?」


 自信満々だった告白の途中で、急に聞こえてきた困惑の声。

 そして気付いた。俺の身体が、ぼんやりと緑色に発光している事実に。俺の周囲を取り囲むように、螺旋を描いて蠢いている「怪しげな魔方陣」が浮かんでいる現象に。


 ドクドクと俺の心臓が早鐘のように動いていた。

 耳の奥で血が流れる音が聞こえている。

 本能的に感じる、これは絶対的に不味いという警告。


「そんな、こんなの、先輩があの世界にしょuka――」


 七社の声が途切れた瞬間、俺は鍾乳洞の中に立っていた。

 天井から釣り下がる大小の石柱(つらら)

 ぴたぴたんと心が落ち着くような音が響く薄暗い洞窟の中、少し奥に見える透明な泉だけが、妖しく青色に輝いて見えた。


 そして、小柄な『赤い何か』と『銀色の女性』に、俺はかなり激しい勢いでタックルされる。


「おにーざんッ!」

「水島おにーざん、逢いたかっだぞ(Tω)!!」


 赤い何かは、メイド服を着た「小動物系の可愛らしさ」を持った赤髪の女の子。

 銀色の女性は、「銀色のケモ耳と尻尾&サラサラの長い銀髪」を持ったメイドさん。


挿絵(By みてみん)


「……え?」


 ついさっきまで、七社と甘い雰囲気になっていたというのに――これ、俺の妄想が入った白昼夢なのか??

 そんな俺の戸惑いをよそに、女の子達は俺に抱き着いたまま嬉しそうな声で言葉を口にする。


「「本当に、本当に、逢いだかっだです()!!」」


 号泣する2人の女の子。俺が苦しく感じるほどに、その腕にはぎゅーっと強い力が込められていた。

 ちなみに俺は、どんな反応を返したらいいのか、正直戸惑っている。

 2人は「俺に逢いたかった」と言ってくれているけれど、赤髪や銀髪の知り合いは残念ながら俺には……いや、いないこともないか。

 取引先の海外企業には、赤髪や銀髪の美人さんも少なからずいたのは間違いないから。でも、こんな15~18歳くらいの美少女とは、知り合いではないのは確定しているはずなのだ。


 ……いや、今の時点で重要なのは「そこ」ではないか。

 とりあえず――


「二人とも、涙を拭こう??」


 ――格好つけさせてもらいましょうか。



(次回につづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Copyright(C)2019-煮魚アクア☆


小説家になろう 勝手にランキング

▼作者お勧めの創作支援サイト▼
i344546
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ