第19話:エゼルが二人と出会った時の記憶④
なむなむ(≡ω)Λ
ちりちーん♪ 水島おにーさん、頑張れー♪
……まぁ、冗談はさておき。
こうしてエゼルが余裕ぶっていられるのは、水島おにーさんがDPアタックでは死なないということを知っているからだ。もちろん、過去のエゼルも死んだりはしない。
実際、あと0.2秒くらい――体感時間では、2~3分ほど――経過したら、目の前で過去のエゼルに強力なDPアタックが放たれるだろう。
それはもう、「直撃したらガチで過去のエゼルが死ぬようなレベル」のDPアタックが。
具体的には、「26万3500DPを込めた攻撃だったのです」と仲間になった後でディルに教えてもらって、エゼル的にも色々な意味で顔面蒼白になってしまったんだけれどな。
単純な固定ダメージ換算2万6350ダメージ。その時のエゼルのHPは……2万5100。
直撃したら、マジで死ぬじゃん!!――ってディルに抗議したら、「いえ、マジで殺すつもりでしたよ?」って首を「こてんっ♪」みたいな感じに倒して可愛く言われてしまってさ……何も言えなくなったエゼルは間違っていないと思うんだよ。
でもそれ以上にビビったのは、仲間になった後に水島おにーさんに教えてもらった「1DPの価値=日本円で100円前後」だという事実。
自分に向けられたDPアタックが、日本円換算で……うぅっ、頭が痛い……考えたくもない……ってなるレベルの金額だという事実(|||ω)x
ちなみに、何回か確認したけれど……1DPで菓子パンが1つ取り寄せられるし、3DPでバーゲンダッツが1カップ取り寄せられることから、水島おにーさんの感覚では、「1DP=約100円」は概ね間違ってはいないとのこと。
なお、エゼル達が今いる大陸で、使われている共通貨幣は『エンゼル・ゴルド』と呼ばれている。
普通は「1ゴルド」とか「100ゴルド」っていうのだけれど……ここからが問題なのだが……結論から言うと「1DP=100円=100ゴルド」となるようなのだ。
つまり、1円の価値が大体1ゴルドということになる。
例えば、エゼルがディルの仲間になる直前まで拠点としていた「ハイグロフィラ」という街の市場では、野菜が2~3つで100ゴルドだったし、中級天使のエゼルのお給料は毎月84万ゴルドだった。
そのことを考えると、1円=1ゴルドくらいの価値はそれほど間違ってはいないと思う。
食料基準で考えるのか、所得基準で考えるのかで「貨幣価値は変わる」って水島おにーさんは言っていたけれど……まぁ難しいことはエゼルには分からないから、気にしないことにしよう。
そんなことをのんびり考えていると、エゼルの目の前に――過去のエゼルのすぐ横に――真っ黒な丸い球体が現れた。
「おうふ(≡ω)! コレ、直撃は、ちょっとまずいかも!!?」
それは、26万3500DP分のDPアタック。
エゼルのHP2万5000を「余裕をもって削ること」が出来る、かなり危険な攻撃。
でも過去のエゼルは、嬉しそうな声色で余裕の表情を浮かべていた。だってDPアタックをはじくことができる最新式の『守りの上級神の護符』を装備していたおかげで、必殺の一撃を避けられたのだから。
そんなエゼルに対して、驚愕の表情を浮かべる水島おにーさんと過去のディル。
まぁ、そうだよな。避けられるとは思ってなかったようだし、ディルがコツコツと貯めてきた26万3000DPが、一瞬で溶けた訳だから。
……うん、ディルの仲間になってこの事実を知った時には、ガチで3分間以上、エゼルは土下座しましたよ。
ディルがDCとしての新人研修期間を終えて、今のダンジョンの場所にたどり着いて、異世界人のおにーさんと出会うことを夢見ながら毎日コツコツと貯めてきたDPを――別な言葉で例えるならば、「乙女の妄想と怨念と欲望が貯めこまれた危険物」を――エゼルは、一瞬で消してしまったわけなのだから。
笑顔でディルは許してくれたけれどさ……もうエゼル、ディルには頭が上がらないと思うんです……ほんとマジでごめんなさい(|||ω)
ちなみに、DPアタックで発生する263ポイント分の固定ダメージは、ディルが使った【身代わり】というスキルで、水島おにーさんに届かないようにディルが受け止めたと聞いている。
DM契約で繋がっている、DMとDCだからこそ出来る連携スキルってやつだ。
まぁ、世の中にはDCを使い捨てにするようなDMも少なくないし、逆にDMを使い捨てにするDCもいたりするのだけれど――水島おにーさんとディルの関係なら、お互いを使い捨てにするようなことはあり得ないだろう。
そんなことを考えていると、目の前の3人の展開がいよいよ大詰めを迎えてきた。
DPアタックを凌いだ過去のエゼルが、嬉しそうな表情で、2人に向かって声をかけたのだ。
「お前ら、なかなかやるのな~♪ さっきまで未契約だったDMのくせして、エゼルに攻撃を通せる量のDPを持っているなんて、驚愕を通り越してちょっと感心したぞ!!」
この瞬間、エゼルは水島おにーさんを初めて「敵」と認めた。
レベル251の中級天使が、生まれたてのDMやDCを敵として見る……普通ならあり得ないことだし、他の天使や上級冒険者が聞いたら、エゼルのことを馬鹿にしていただろう。
でも、なぜかその時のエゼルはご機嫌だった。
そして過去のエゼルは尻尾をフリフリ揺らしながら、ゆっくりと言葉を続ける。ずっと抑えていた殺気と魔力を、本気で開放しながら。
「でも、DMの迷宮に挑むのに、DPアタック対策をエゼルがしていない訳が無いじゃないか。そこは大きな油断だぞ(≡ω)ノシ」
エゼルの本気の殺気を受けると、大抵の敵対者は腰を抜かす。
並みのDMやDCはもちろん、レベル180を超えたベテランと呼ばれる「中規模以上のダンジョンのDCやDM」や、レベル200オーバーの同僚の中級天使達ですらも――狼の血を引くエゼルが本気を出すと、立つことが難しいのが現状だった。
でも、レベル1の水島おにーさんとレベル6のディルは、それを何とか持ちこたえた。地面に這いつくばらずに、必死な顔で震えながらもその両足で立っていたんだ。
だからこの瞬間、エゼルは2人のことを「ただの敵」から「記憶に残る相手」だと認めてしまった。エゼルの願いを叶えてくれる、そんな可能性を持った対等な相手として。
「さぁ――エゼルの本気を見せてやる、生まれてきた事実を後悔しろよ♪」
期待に高鳴る胸を押さえて。ほんの少しの恐怖に揺らいだ、弱い心を抑えて。
過去のエゼルは、獣の本性をさらけ出した。
……今のエゼルなら知っている。
この時のエゼルは「自分を殺してくれる存在」を心のどこかで求めていたのだと。本気を出して、本気でぶつかって、本気で殺してくれて、エゼルのことを忘れないでくれる相手を探していたのだと。
「ふふっ♪」
思わず自分の口から零れた笑み。
この時のエゼルは――本当にバカだった。
本当に頭が固くて、かなり視野が狭くなっていたんだと、今では思える。
「もうちょっと、気楽に生きても良いんだぞ」
そんなエゼルの呟きは、過去のエゼル達には当然聞こえてはいない。
だけど、過去のエゼルがほんのりと笑って、少しだけ肩の力を抜いたような気がしたんだ。
(次回につづく)