第17話:エゼルさんと出会った時の記憶②
「……そうですね。俺は、まだ人間ですよ? 信じてもらえるかは分かりませんが……」
半透明になった「今の私ちゃん」の隣には、半透明になった「今のおにーさん」が立っています。
でも、半透明になったおにーさんは、今の私ちゃんには気付いていなくて――過去の私ちゃんと過去のおにーさんと過去のエゼルさんのやり取りを、懐かしそうな視線で見つめていました。
でも、過去のおにーさんの交渉は、唐突に終わりを告げそうになります。
「そろそろ良いよな? 時間稼ぎにも付き合ったし――おにーさん、どいて♪ そいつ殺せないから」
そう口にしながら、過去の私ちゃんに視線を向けるエゼルさん。
今じゃエゼルさんとは仲良しだけれど――あの時は、本当に怖かったのを覚えています。あ、私ちゃん、ここで死ぬんだなって。
でも、おにーさんは諦めませんでした。
無理矢理にエゼルさんとの会話を繋いで、私ちゃんと一緒に助かる糸口を探してくれました。
私ちゃん的には、かなり『酷いこと』もおにーさんに言われてしまったのだけれど……それは全て過去のエゼルさんの目を誤魔化すための演技でした。
私ちゃんも泣きながら――嘘泣きなんかじゃなくて、このまま本当におにーさんに捨てられちゃうんじゃないかと想像したら自然と涙が出てきて――おにーさんに合わせていました。
そして、エゼルさんの目を誤魔化せる『最初で最後のチャンス』がやってきます。おにーさんに失望したふりをして、私ちゃんがおにーさんに平手打ちをしようとする瞬間が。
「水島おにーさん、ありがと。私ちゃんは、嘘つきな水島おにーさんが、大っ嫌いです。だから――」
震える声で言葉を口にした過去の私ちゃん。
この時は本当に、もしも演技じゃなかったらどうしようっていう気持ちでいっぱいでした。
でもそれは杞憂で終わります。
言葉を区切った直後に、おにーさんの胸の中に飛び込んだ私ちゃんを、おにーさんは受け止めてくれたのですから。
そして重なる私ちゃんとおにーさんの唇。DM契約が発動して、周囲は光に包まれます。
……ちなみに、その時のエゼルさんは両目を押さえながら尻尾をフリフリして、嬉しそうな表情であの言葉を叫んでいました。
「目ッ、目ッ、目がああああああッーーー♪♪」
本当に、ブレない人ですよね。
そんな余裕なエゼルさんですが、その原因は私ちゃん達もすぐに分かりました。私ちゃんというDCと契約したことで、DMとしての能力を開放したおにーさんのおかげで。
なお、おにーさんが獲得したスキルは十数種類にも及んだのですが、その中でも重要なのは次の3つです。
対象を鑑定する【鑑定】スキル。
ダンジョンの監視機能を操作する【モニター】スキル。
そして、思考力を通常の1000倍以上に加速させる【思考加速】スキル。
特に、思考加速スキルはDMやDCとして欠かせないスキルになります。
DMが神々と渡りあうことが出来るのも、この反則的な思考能力と判断能力によるところが大きいです。思考が早くなることで、スピードや反応速度、魔法の詠唱速度も上げることができるのですから。
過去のおにーさんと私ちゃんの会話は、思考加速状態のテレパシーで続いていました。
それが、今のおにーさん経由のテレパシーで私ちゃんにも伝わってきます。今はちょうど、過去のおにーさんが自分たちのステータスを鑑定したところでした。
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【水島鮎名】
種族:ダンジョンマスター(元・人族)
性別:男
属性:闇・水
レベル:1
HP:150
MP:150
SP:150
※詳細鑑定は、「こちら」を選択して下さい。
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【カンディル・バイオレッド】
種族:吸血姫型ダンジョンコア
性別:女
属性:闇・魅
レベル:6
HP:660
MP:660
SP:330
※詳細鑑定は、「こちら」を選択して下さい。
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うん、今更ながらに感じますが、この時の私ちゃんは弱かったですね。そして――エゼルさんはとても強かったです。
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【エンゼル・マーブル】
種族:天使
性別:女
属性:聖・光
レベル:251
HP:25100
MP:15100
SP:35100
物理攻撃力:4010
魔法攻撃力:1010
物理防御力:2510
魔法防御力:2510
筋力:451
精神力:151
賢さ:151
素早さ:351
器用さ:151
運:251
称号:
中級天使/脳筋/落ちこぼれ
スキル:
断罪の瞳/level10/完全に犯罪者を見分けることが出来る。
鑑定/level6/相手のステータスを見ることが出来る。
身体強化/level7/SPを消費して身体能力を向上できる。
攻撃力強化/level6/SPを消費して物理&魔法攻撃力を向上できる。
etc……
魔法:
聖属性魔法/level7
光属性魔法/level6
生活魔法/level9
etc……
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本当に、普通に戦ったら勝てないです。
でも――私ちゃんのおにーさんは、エゼルさんに勝ってしまったのですよ。
……って、ちょっと待ってください!? もしかして、私ちゃん、あの格好良い『おにーさんの雄姿』をこれからまた見ることが出来るのですかッ!?
じゅるり(///ω)b
(次回につづく)