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第11話:返事がない。ただの〇〇のようだ……。

 俺は、ディルを守りたい。エゼルを守りたい。2人の大切な人を護れる力が欲しい。

 だからDM(ダンジョンマスター)という存在になることを、もう俺は躊躇わない。


 覚悟を決めた言葉だった。

 どんな返事が戻ってくるのか、どんな嬉しそうな笑顔が返ってくるのか、正直期待していたところもあった。

 ――でも、ディルからの返事は何もなかった。沈黙だけが俺達を包んでいる。


「……ディル?」

「……」


 呼びかけてみても返事はない。俺にしがみついている彼女の右手は、もう震えていない。

 でもその表情は、俺の胸に顔を埋めていて一切見えない。


「ディル?」


 もう一度呼びかけてみるけれど、戻ってくるのは静かな吐息だけ。

 俺に抱き着いたままのエゼルが「くくっ♪」と、声を押し殺して小さく苦笑した。

 彼女はディルの顔を横から覗き込む(・・・・・・・)と、何かを察したかのようにニヤニヤとした表情を嬉しそうに浮かべて、ゆっくりと言葉を口にする。


「……返事がない、ただの屍のようだ(≡ω)b」


 一瞬で、俺達の真面目な雰囲気は崩壊した。

 そして、ガバッと音がしそうな勢いで、ディルが俺の胸から顔を上げる。

 恥ずかしさからなのか、その顔は真っ赤に染まっていた。


「ちょっ! エゼルさんっ!! 私ちゃんがおにーさんの『告白の余韻』を噛み締めていたのに、邪魔するなんて非道いですッ(///Д)ノシ!!」


 早口で叫びながら、エゼルに抗議の視線を送るディル。彼女のほっぺたは、かなり不満げに膨らんでいた。

 でも、エゼルはどこか余裕しゃくしゃくな表情を返していた。

 小さく鼻を鳴らすと、ディルにびしっと左手の人差し指を突き付ける。


「いや、今のこのタイミングで『乙女を爆発させている』ディルの方こそ、非道いんじゃないかとエゼルは思うぞ(≡ω)? 女勇者がやってくるまで、あと3分ちょいしかないのが分かっているのか??」


 どこか楽しげな表情のエゼル。

 うん、なんとなく分かるよ? エゼルは「正論を盾に他人を煽る」のが大好きな子なんだね? 趣味が悪いから改めた方が良いよ? いつかきっと、手痛い反撃をされるのが目に見えてしまうから……。

 

 ――でも、なんだろう。2人とも「ぴたっと俺に抱き着いた状態のまま」で口論しているから、本当になんというのか。

 可愛すぎて、たまらない。

 重要だから繰り返す、なにこの可愛い生き物×2。

 俺がそんなことを考えて(現実逃避をして)いる間にも、ディルとエゼルの口喧嘩(じゃれあい)は続いていく。


「なぁ、ディル? 女勇者の迎撃を任せているサキ姐さんとスラちゃん、ゴブさんとボルトさんに負担がかかるんだぞ? それでも、ディルは乙女を爆発させたいのか??」


 サキ姐さん? スラちゃん? ゴブさんとボルトさん?

 初めて聞く名前だけれど……ダンジョンの魔物の仲間だろうとすぐに気付いた。

 サキ姐さんは何の魔物か分からないけれど、スラちゃんはスライム、ゴブさんはゴブリン、ボルトさんはコボルトって感じだろう。


 ――うん、勇者相手に「スライムとゴブリンとコボルトの混成チーム」じゃ、かなり荷が重たいと俺も思う。急いで俺達も参戦しないと、彼らが退治(ざん〇つ)されちゃう未来がやって来る予感しかしない。

 それはディルも同じだったらしく、小さく唇を尖らせるとエゼルの説得(になっていない説得)を肯定する言葉を口にした。


「私ちゃんも分かってますよ。……ただ、私ちゃんは雰囲気を大切にしたかったのです!」

「エゼルも一応、乙女だから知っている(≡ω)b でも時間が無いのも事実だぞ?」


 言葉だけを聞くと煽っているようにしか聞こえない。

 けれど、その声色はどこか優しくて柔らかかった。

 そして、ディルの発している空気も、少しずつ柔らかくなっていく。


「……分かりました。私ちゃんも、DCとしてのお役目をしっかりと果すのです♪」

「それでこそ、真面目なディルだな♪ ちなみに水島おにーさんとのイチャイチャは、女勇者を撃退した後でたっぷりすれば良い(≧ω)ノシ」

「そ、そそ、それは名案なのですっ(///Δ)!!」


 ……なんか、俺が口を挟めないうちに、何か勝手にイチャイチャすることが決まってしまった。

 いや、嬉しいよ? 本当に嬉しいよ?……でもね、恥ずかしくないかと言うと、めちゃくちゃ恥ずかしい俺がいるんですよ!

 でも、この恥ずかしさを表情に出すのはもっと恥ずかしい。

 ポーカーフェイスで2人を温かく見守る『大人なおにーさん』を演じるのだ、俺っ!!


「……なんか、水島おにーさんが固まっているぞ(≡ω)?」

「多分、恥ずかしがっているのです♪」

「にゃはは♪ それは良いことだな!」

「はいっ♪ イチャイチャが楽しみなのです!」


 ううぅ、ポーカーフェイス出来ていないじゃん。

 そんな風に俺が考えた直後、ディルが顔を上げて俺に視線を向けてくる。

 同時に、エゼルの視線も俺の顔を見てきた。


「――ということで、おにーさん? 準備は良いですか?」


 小さく言葉を区切ってはにかむと、ディルは顔を真っ赤に染める。

 そして、ゆっくりと言葉を口にした。


「私ちゃんも、おにーさんのことが大好きなのです。だからDM契約で、私ちゃんを『おにーさんだけのダンジョンコア(もの)』にしてください」


 恥ずかしそうに微笑みを浮かべながらも、「大切なことを言い切った」という自信に満ちた瞳で俺を見つめてくるディル。

 そしてエゼルは、好奇心にあふれた瞳で俺達を見つめている。ニヤニヤとした下世話な顔で。


 ……うん、エゼルはアウトだな。あとでお説教をしてあげよう。



(次回につづく)

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