第9話:固まる覚悟。揺らぐ覚悟。
「水島おにーさん、もしかしてダンジョンマスターには成りたくないのか(≡ω)??」
「成りたくないのですか(Tω)??」
不思議そうな表情と泣きそうな顔で、俺に問いかけてきたエゼルとディル。
ちなみにモニターの数字は6分50秒を切っている。
「あのさ、ディル? そのダンジョンマスターになったら、俺は人間じゃなくなるんだよね??」
「はい。不老不死になって、ダンジョン魔法を使えるようになります! あ、テレパシーで配下の魔物と会話をしたり、思考加速って言って1秒間を1000秒に引き伸ばしたかのような超思考も可能になるんですよー! 良いことずくめですよねっ??」
うん、それって完全に人間やめているよね??
――でも、そんな俺の思考は2人には届かなかったようだ。ディルもエゼルも、どこか得意げな顔でにこにこしているから。
どんな返事をして切り抜けようかな……と思っていると、エゼルが俺に話しかけてくる。
「せっかくなのだ♪ さくっと契約するのだ(≡ω)b」
「えっと、できれば、俺は人間のままでいたいのだけれど……「ほほーぅ(-ω)?」」
俺の言葉を遮って、エゼルが小さな声を上げた。そして、その目がすうっと小さく細くなる。
直後、感じる猛烈な圧迫感。
全身の細胞が縮まって、一瞬で体中の毛が逆立った。
「――くっ!」
「エゼルさんッ!!」
ディルがエゼルを止めようとしているけれど、エゼルから感じる圧力は変わらない。
心臓をエゼルの手でそっと握られているかのような、圧倒的な恐怖。毛穴が縮まっているはずなのに、この短い時間で背中に冷たい汗が噴き出していた。
「……種族が人間かつレベル1なのに、コレを耐えるのか、水島おにーさんは♪ マジで凄いな、流石エゼルの水島おにーさんだ(≧ω)b」
エゼルの表情はとても満足気な感じで、柔らかい笑みを嬉しそうに浮かべている。
しかし、発せられている気配は尋常なモノじゃない。少しでも気を抜いたら、多分俺の腰は砕けて、そのまま倒れて意識が飛ぶだろう。
今の俺がこうして耐えていられるのは、「格好いい自分でありたい」と思う小さなプライドのおかげ。
そう、俺のことを好きと言ってくれる女の子の前で「惨めな姿は見せたくない」という欲望が頑張ってくれているおかげ。俺を慕ってくれている年下の女の子の前で、腰を抜かして床を這いつくばるなんて、恥ずかしいことはできないという気力だけ。
……でも、それで気付くことができた。
だから俺は、覚悟を決める。目の前に、守りたいと感じる人がいるのだから。
「エ、ゼル……」
「ん? しゃべれるのかっ!? 水島おにーさん、無理はするなよΣ(≡ω)!!」
「む、むりは……してない。でも、つまり……こういうこ――「無理しているだろ!! ああ、もうっ!!」」
俺の言葉を強引に中断するエゼル。
そして、小さく眉間にしわを寄せてから殺気を抑えてくれた。
「水島おにーさんは馬鹿だ! 絶対に今ので寿命が2~3年は縮んだぞッ!!」
「ぁはは♪」
思わず俺の口から笑いがこぼれていた。
エゼルが俺のために怒ってくれているのが、なんだかとても嬉しい。
小さく息を整えてから、俺はゆっくりと言葉を続ける。
「エゼル、ありがとう。エゼルは、『このくらいの相手さんがやってくるから、ビビッてなんていられない』って俺に教えてくれたんだろ? 俺も覚悟を決めたよ」
「ほうほう(≡ω)?」「と、いうことは??」
エゼルとディルが身を乗り出してくる。
……って、2人とも顔が近いよ。エゼルなんて興奮した鼻息がフンフンいっているのが聞こえているからね!
でも――正直時間が無い。俺達に残された時間は、あと5分と20秒。
顔がちょっと熱くなるのを、あえて気にしないようにして、俺はその言葉を口にする。
「俺、ダンジョンマスターになるよ」
「「きゃ@*+”#$%--(≧ω)ノシ♪」」
ディルとエゼルが言葉にならない歓声をあげる。でも、その表情はとても嬉しそうだ。
そして2人は、俺に思いっきり抱き着いてきた。
「おにーさん、ありがとうございます!」
「水島おにーさん、さっそくDM契約をディルとするのだ!! そして、エゼルを幹部級の配下にする契約をしてくれ(≡ω)ノシ♪」
2人に抱き着かれながら、耳元で叫ばれる。
もきゅもきゅな感触はとても嬉しいのだけれど、大音量の黄色い歓声はちょっと耳が痛い。
「ちょ、2人とも落ち着い――「無理です!」「無理だな♪」」
騒ぐディルとエゼルを落ち着かせるために、俺はあるものを指さす。
そうそれは――4分53秒と表示された空中のモニター。
「あまり時間が無いから、急いでDM契約をしよう!」
「ハイなのです♪」「了解なのだ(≡ω)b」
俺に抱き着きながら喜んでいるディルとエゼル。
そして俺は気が付いた。ちょっと間が抜けてしまうけれど、聞かないといけないことがあることを。
「それで、俺はどうしたらいいのかな? DM契約には、何か儀式が必要なんだよね??」
俺がDMになるための契約。
きっと魔方陣に血を垂らして、何かの詠唱を口にするとかの特別な儀式が必要なのだろう。
あ、ディルとエゼルもコクコクと首を縦に振っているから、俺の認識は間違っていないようだ。
「DMになる契約の儀式は、とっても簡単なのです――」
ディルがにこっと可愛い笑みを浮かべて、小さく説明を区切った。
そして、少し早口になりながら言葉を口にした。
真っ白なほっぺたを、リンゴみたいに真っ赤に染めて。
「――契約の儀式は、『誓いのキスをする』だけです(///ω)♪」
(次回につづく)