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る、る、る、る、る、る、る  作者: 蜂矢ミツ
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流浪(るろう)

 退屈だ。どこに行って、なにをしようか。


 ロウは、そんなことを考えていました。

 今まで楽しめていたことですら、一人でやるとなんと味気ないことやら。

 むしろ、なんでこんなことを面白がっていたのか、とくだらなく思えてしまうことさえありました。


 このままここで腐っていたら、大事なおもいでたちまで褪せていってしまう。

 そんな風に思えてなりませんでしたので、ロウは考えました。自分も冒険に出てみるのはどうだろう、と。


 瑠璃と同じように、いろんなものをみて、いろんなことを知って、そしてまた会えた時に、こんなことがあったぞ、あんなことまでやったんだぞと、二人で語らえたなら。


 それはなかなかよい考えに思えましたので、ロウは早速したくを始めました。


 傷つけないようにまるくしてあった爪をとぎ、大事な宝ものたちを土ふかく埋め。

 瑠璃からもらった大事な花飾りだけを身につけて、ロウは力強く地を蹴り、走り出しました。


 駆け出してすぐのところで、空高く座る、風のかみさまから声がかかりました。


「これ、これ、まちなさい。その足では行けるところなんて知れているだろう。どれ、餞別をやろう」


 そう言って、その腕をひと振りし。


 ロウの足に、つむじ風を纏わせてくれました。


 地を蹴る足はやがて地を離れ風に乗り、気がつけば、空を駆けているではありませんか。これならばどんなところへも行けることでしょう。


 ロウはお礼の代わりに声高く吠えて、一層その力強さを増し、野を、山を、空をも越えて、旅に出ていきました。




 ぐつぐつと、地が煮えたぎる岩場で。


 ロウは、大きな岩に潰され呻いているなにかを見つけました。


 面倒ですから、そのままにしておいてもいいのですが、後で瑠璃にそれを話せば怒られるでしょう。

 しぶしぶ、ロウはなんとかその馬鹿にでかい岩をどけて、助けてやりました。


「ややや、ありがたい! とっても力もちだねえ、助かったよ!」


 岩の下にいたものは、小さな狸でした。

 頭にもっと小さな木の葉をのせています。


 ロウがなんとなく、狸の頭へふっと息を吹きかけてみると、頭の上で木の葉がくるっとまわり、また元の位置にふわりと落ちました。


「ちょっと友だちを怒らせてしまってね。あわや圧死するところだったよ! 本当にたすかった」


 そんな目にあったというのに、小さな狸はからからと笑っていました。

 ロウは変なやつだなあと思いながら、もう用はないとその場を去ろうとしました。


「まった、まった。たすけてもらったのになんのお礼もしないわけがないじゃあないか。てやっ」


 そこでいきなり、小さな狸はロウの口に、その頭の上の木の葉を押し込んできたではありませんか。

 ロウは驚き、しかし咄嗟のことに思わずそれを飲み込んでしまいました。


 そして、いきなりなにをするんだ、そう思い吠えようとすると。


 なんとそれは吠え声ではなく、正しく言葉となってその口からこぼれたのです。


「なかなかいいものだろう? 喋らなくたって伝わるとしても、やっぱり確かに言葉にできたほうがいいさ」


 たしかに、とロウは思いました。

 今までだってわるくはなかったですが、これでもっといろんなことをお喋りできるようになるでしょう。


 ロウはまんぞくそうに笑い、そうだなと呟きました。




 ごうごうと、雪が舞う最中のかまくらの中で。


 ロウは、濡れそぼったからだで火にあたっていました。


 まったくひどい目にあったものです。

 小さな狸に友だちとの仲を取りもってほしい、と泣いて頼まれ、しぶしぶやってきてみればこのありさまです。


 自慢の毛皮がぺしゃんこになってしまっています。


「あきれた。自ら来ず、その上こんな文いちまいで済ませようとは」


 口調とはうらはらに、えんびな狐はやさしく笑っていました。

 とても友だちを岩で押しつぶせるとは思えないような顔をしているので、ロウは逆になんだかおそろしくなって、じりじりと少しずつ距離をとりました。


「わざわざ来てもらったところすまないが、ゆるすわけにはいかないね。詫びの品でももってこさせなければね。

 ああ、もちろん本人に来させるから大丈夫さ。


 そうだねえ、こんなところまで来てくれたんだから、おまえさまにもなにかお礼をしないとね」


 えんびな狐は、ゆっくりと手を差し出しました。

 その手の上には、赤々とした炎がゆらめいています。


「飲み込んでおいき、これはおまえさまのこころをより鮮やかに照らしてくれる。

 どんなに暗いなかでも、凍えるなかでも。

 常にそのはらに灯しておきなさい」


 おそるおそる口をつけると、炎は容赦ないいきおいでロウの口に飛び込んできました。


 喉が焼けるかと思うほどあつく、激しく咳込んでしまいましたが、不思議と痛みはありませんでした。


 気がつけば、はらの中がじんわりとあつく、濡れていた毛皮がすみずみまですっかり乾いていました。


「忘れないでおくれ。おまえさんがほんとうに大事なものを想い続けているかぎり、その灯は消えない。

 なにもかも見えなくなってしまいそうなときは、その灯を見つめればいい」


 ロウは静かにうなずき、身をひるがえすと、よりいっそうはげしくなった吹雪のなかを駆けていきました。


 もう、凍えることもありません。


 もっともっといろいろな世界を見るのだ、知るのだと。


 ロウはふたたび、世界を駆けていきました。

五話目です。

瑠璃に続いて、ロウも旅に出ました。

わおーん。


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