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97話 静電気と渡航申請


冒険者ギルドに入った瞬間、周囲が騒ついた。


「おい、見ろよ。《雷帝》だぞ」

「ヤベェよ、ヤベェよ……。俺昨日、試験会場でめちゃくちゃ野次飛ばしちまった」

「お前あっち行けよ!俺まで黒焦げになりたくねぇ!」


俺は声がする方に目を向ける。


「ヒィッ! こっち向いたぞ!」

「あっ俺ゴブリン退治受けるんだった!」

「やべっ実家に仕送りしないと!」

「腹減ったなーちょっと飯食いに行ってくるわ!」

「お前ここ酒場だぞ。酒も飯もあるじゃねーか!」

「バッ!オメ!余計なこと言うんじゃねーよ!」


ガタンと椅子を倒しながら立ち上がり、蜘蛛の子を散らすように、冒険者ギルドで真昼間から呑んでいた男たちはいなくなった。


A等級昇格試験の翌日、ドルガレオ大陸に行くための許可の申請をしに、冒険者ギルドに来ていた。


初めは俺の隣にいるA等級冒険者のノーチェを見ていると思っていたんだが、会話内容を聞く限りどうやら違う様だ。


「一晩で随分と有名になったじゃねーか」


《雷帝》って俺の事か?

なんか中二病っぽいけどかっこよくて好き。


「大したことしてないんだけどなぁ」


「は?何いってんのお前。あんな戦い繰り広げておいて、今のは嫌味にしか聞こえないわ」


「何でよ。たまたま俺の魔法との相性が良かっただけじゃん」


「雷魔法なんて使えるやつ聞いたこともないし、そもそもグランドマスターに膝を突かせたんだぞ。そんなことできる奴この世界に何人いるんだよ。だから行きすぎる謙遜はただの嫌味にしか聞こえねぇ」


ノーチェは呆れ顔でこちらを見た。

そんなつもりないんだけどなぁ。


「魔族だったらいるんじゃないの?」


ふと思った事を言ってみる。

あの岩山の洞窟であった赤目の魔族は目で追うことすら出来なかったしな。

でも俺のレベルもだいぶ上がった事だし、今なら何とかなるのかな。


「それ以上言ったら蹴り飛ばすぞ。このオレガルド大陸に魔族なんているわけねーだろ」


いやいや、さっきまで一緒に朝食とってたじゃないですか。

それに四大辺境伯のうちの一人なんてその使いっ走りみたいなもんですけど……。

まぁ知らないから仕方ないか。


話題のライアにも冒険者ギルドへ「一緒に行こう」と誘ったのだが、やんわりと断られた。


後になって気がついたが、伝説の英雄ピッタ=アラックスは魔族を切りまくって英雄視される様になった冒険者だ。


俺は自分のデリカシーの無さに呆れかえるしかなかった。

それと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


もしかしたライアにとってピッタは復讐すべき相手かもしれないのだから。


気を取り直して受付カウンターに座っているサラに声をかける。

忙しそうに書類の整理をしている。


「おはようございます、サラさん」

「おはようございます。昨日はお疲れ様でした。グランドマスターがあんな状態になってるの初めて見ましたよ。ベックさんお強いんですね」

「たまたまですよ、たまたま」


ノーチェがつま先で俺の脛を蹴ってくる。

わかったって、嫌味じゃないってば……。

金属製のブーツで蹴るの辞めてください。


「それで、今日はどうされました? 何か依頼でも?」

「いえ、ドルガレオ大陸に行くための申請をしに来たんですけど」

「……は?」


サラは顎が外れんばかりに口を開け、大きく目を見開いて驚いている。


「えーと、それにはグランドマスターの許可が必要になりますが、本当に行く気なんですか……?」

「はい、後ノーチェとニエヴェも一緒に。パーティ申請もお願いします」

「あれ? ライラは行かないのか?」


パーティメンバーが一名足りない事に気がついたのか、ノーチェが突っ込みを入れてくるのを、人差し指を唇の前に立て黙らせる。


ライアはA等級の冒険者ではない為、本来ならば連れて行くことができない。

俺とライアの計画では、転移魔法で先にドルガレオ大陸の入り口に行って待機しておいてもらう予定だ。


「パーティ申請の方は受理させていただきます。ですがドルガレオ大陸への渡航申請は、グランドマスターに確認して参りますので、少々お待ちください」


パーティ申請の用紙にメンバーを記入し、それをサラに渡す。

テキパキと申請を受理し、認印を押したサラは、「では、少々お待ちください」と言って去って行った。


今回のパーティは、新しく作るのではなく、ノーチェとニエヴェのパーティに加えてもらう形でメンバーとなった。


ある程度実績のあるパーティに加わることで、ドルガレオ大陸での活動に幅ができると聞いたからだ。


名もないパーティだと、ドルガレオ大陸の入り口付近で採取だけしか許可されなかったり、そもそもA等級だとしても実力次第では許可されない場合があるそうだ。


俺たちは、冒険者ギルドに併設されている酒場で待つ事にした。


「なんだか、ドキドキするな」

「何緊張感のないこと言ってんだよ……」

「だってそうだろ? まさに冒険者!って感じだ」

「お前なぁ……ドルガレオ大陸は入り口付近にいる雑魚って言われている魔物ですら、高難易度迷宮の中層より強力な魔物なんだぞ? 俺は違う意味でドキドキしてるよ……」


いつのまにか注文していたエールを煽っているノーチェ。

その横顔には、不安と緊張が入り混じっていた。



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