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90話 蹴兎と師匠


王都冒険者ギルド、ギルドマスター。

他の街の冒険者ギルドであれば、その呼び名はギルドマスターで問題ない。


しかし全ての冒険者ギルドの元締めである王都の冒険者ギルドの長は、尊敬と畏怖の念を込めてグランドマスターと呼ばれる。


現役のS等級冒険者、ピッタ=アラックス。

流れるような金色の長い頭髪と尖った耳。

齢九百とも言われている彼はいまだに衰えを知らなず、その素性は謎に包まれている。


人魔戦争において、侵略して来た数多くの魔族を討ち取り名を挙げた彼は、勇者に続きこのオレガルド大陸の伝説の英雄と言えるような存在だ。


(あっちゃ〜。ベックの試験官はマスターかよ……)


「ククク! 金貨十枚。きっちりと払えよな〜」


眼帯の男は笑いが堪えられない様子で、こちらを見てくる。


「ちっくしょー! はめやがったな! マスターが試験官だって知ってたら賭けなんて乗ってねーよ!」


「ふん。今回はお前の落ち度だぞ。ノーチェ」


カウンター越しに声が聞こえる。


「マスターまでこいつらと同じ考えですか!?」


「お前は迷宮に挑む時、なにも情報を集めずに挑むのか? 大方どうせ今回もサンドラだとタカをくくってたんだろう?」


「だけどっ「だけどじゃない。昔から言っているだろう。何事も怠った者から落ちて行くのだと。お前は情報収集を怠った。だから金貨を十枚払う事になった。ただそれだけの話だ」


「……はい、()()……」







俺たち双子は孤児院で育った。

父さんも母さんも、両親は二人とも冒険者だった。


俺たちが四歳の時、依頼を受けて出て行ったっきり、両親はある日突然帰ってこなかった。

別にこれは両親が冒険者だったからとかそう言うわけではない。


隣町へ買い出しに行って道中に魔物や盗賊に襲われる、村が魔物に襲われて無くなる。

この世界の何処かで毎日のように起こっている。

よくある不幸な家族の話だ。


まだ幼かった俺たちは両親が死んだことを理解できず、一日中窓の外を眺めていたそうだ。


幸いな事に祖母と同居していた為、すぐにどうにかなる訳では無かったが、その二年後に祖母も亡くなった。


身寄りの無かった俺たちは孤児院に引き取られ、そこで生活する事になった。

孤児院は俺たちを温かく受け入れてくれた。

衣食住全て提供してくれた孤児院で不自由なくせいかつさせてもらえた。

今でも孤児院の院長には頭が上がらない。


そんな俺たちに転機が訪れたのは十五才の時だった。

孤児院をひとりのエルフが訪ねて来たのだ。

そのエルフは、俺の両親に生前世話になったと言っていた。

そしてどうやって両親が死んだのか教えてくれた。

お前達の両親が死んだのは自分のせいだとも。


(「じゃあ師匠になってくれ」)


思わず口から出た言葉だった。

後にも先にも、師匠のあんなに驚いた顔は見たことがない。

こうして俺たちは冒険者としての道を歩み始めたのだった。


師匠は本当の父親のように、時には怒りそして褒めてくれた。


俺たち兄妹が今、A等級の冒険者としてやっていけているのは、師匠が俺たちを育ててくれたからに他ならない。


師匠の、その大きな背中を追いかけてここまで来た。

俺がドルガレオ大陸に行く理由も、魔境と言われるあの大陸で自分を鍛え上げ、その大きな背中に追いつく事こそ師匠に対する最大の恩返しになると考えているからだ。


「あいつも目的があるみたいだし、何とか昇格してもらいたいものだけどなぁ……」


「なんだよ。心配してくれてるのか?」


「まぁ俺っちの目的の為にも受かってもらいたいなと思ってな……ってうおお! 脅かすなよ! 筆記試験はもう終わったのか?」


まだ筆記試験が始まって半刻も経っていないはずだ。


「ライアの特別授業のお陰で、スラスラ問題を解くことができたよ。さっき筆記試験は合格って言われたから、次はいよいよ実技の試験って事だよな。う〜緊張する〜」


「対策とかなにか考えてんのか?」


「対策? 対策って何の対策だよ」


おいおい!

何ってんだこいつは……。

なんも考えてないのか!?


「模擬戦闘の対策だってば! まさかなにも考えてないんじゃねーだろうな!?」


「いや、俺だって色々考えてるよ。そう、あれあれ。なんだったっけな。えーと〜……。あっ! 思い出した!」


「なっなんだよ! 良い作戦でも考えて来てたのか?」


「この試験の合格基準ってなんなの? ずっとそれを聞こうと思ってたんだよね」


「………………」


「私に一発でも攻撃を当てたら合格としよう」


「準備はいいか?」とマスターがベックに声をかける。


「それだけで良いんですか?」


「あぁ、それだけだ」


それだけでって……それが大変なんだぞ。

わかってるのかこいつは……。

俺でさえ未だにマスターに一撃を与えられたことはない。


周囲の冒険者達も我先にと、裏手にある試験会場で一番見やすい席を取ろうと動き出す。


ニエヴェにする金貨十枚の行方の言い訳を考えながら、幸運を祈ると言ってベックを送り出すのであった。


明日は更新をお休みさせていただきます。

すいません。

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