88話 静電気と王都冒険者ギルド
王宮の牢屋を出てから数日が経った週末。
王都にある冒険者ギルドに足を運んでいた。
A等級昇格試験を受ける為だ。
日夜ライアの特別授業を受け、この世界の大体の法令や、魔物の特徴、毒草薬草の違いなどをみっちり叩き込まれた。
もう二度と石鹸の密造はしません。
でも石鹸が無くなりそうになったら、ためらう事なくバレない様にこっそりやりたいと思います。てへぺろ。
居なくなって初めて分かる花ちゃんと賢者のおっさんの偉大さ。聞かれた事に即答えてくれていた頼りになる相棒は今はいない。
なんとか無事にこの試験を合格し、A等級の冒険者として大手を振ってドルガレオ大陸に向かいたいところだ。
「おいお前ら!王宮に乗り込んだ英雄のお帰りだぞ!」
「よぉ!《蹴兎》!お前牢屋に入ってたんじゃないのか?」
「妹ちゃんは元気だったか!? ブラコンもそこまで行くと気持ちわりーぞ!」
「とっくに処刑されてたと思ったゼェ!」
王都の冒険者ギルドに入った瞬間、むさ苦しい男達からの野次が飛んでくる。
中を見回すと見慣れた風景が目に入る。
王都も他の街も冒険者ギルドの内装に変わりは無いようだ。
「うるせーぞ! クソどもが! 蹴り殺すぞ!?」
「おぉ〜おっかねえ! 後でこっちのテーブル来いよ! 脱獄祝いだ!」
「脱獄じゃねー! 無罪放免だ!」
冒険者ギルド中に笑い声が響く。
「随分人気なんだね」
「ふん!昼間っから酒ばっか飲みやがって。あいつらは酒の肴が欲しいだけなんだよ」
王都には様々な依頼が舞い込んで来る様で連日大賑わいらしい。
王都の冒険者ギルドだけあって、腕に自信のある冒険者が多いのだろうか。
俺の牛頭人王の外套を羽織り、飛竜の鱗鎧を着込んだ威圧的な格好に目もくれる事なく酒や飯をかっ食らっている。
俺は真っ直ぐギルドカウンターに向かい、昇格試験を受けにきた事を受付嬢に告げると、先程まで賑やかだったギルドの中が静まり返った。
「はい。昇格試験の申し込みですね?」
眼鏡をかけた妙齢の女性は、何時もの事の様に淡々と処理を進める。
「おい、見てみろよ。久し振りの挑戦者だぜ?」
「筆記試験なら問題ないんだけどな。実技は突破できる気がしねえわ」
「若え若え。俺だってもう少し若ければ、昇格なんて楽勝なのによ!」
「お前C等級じゃねえか!Bに上がってから言えよ!」
「あれ? そうだっけか!?」
「酒の飲み過ぎで頭おかしくなったんじゃねぇか!?」
「そうかもしんねぇな!」
「「「がっはっはっは!!」」」
そんな馬鹿笑いをする冒険者達を見て喝を入れる人物がいた。
「そうやっていつまでも腐っているから万年低等級なんだ……。お前達、少しはプライドってもんがないのか? 酒ばっか飲んでないで、少しは働いて来い!」
「「「すいません!!」」」
蜘蛛の子を散らす様に依頼を受けて出て行く冒険者達。
声のするカウンターの奥から現れたのは、若い男だった。
「ノーチェ、無事だったか。心配してたんだぞ」
男はノーチェのふわふわの頭を撫でる。
撫でられる側は満更でもない様だ。
クソっ!羨ましいぞ!
「マスターすまねぇ。一緒に捕まってたこいつのお陰で何とか戻ってこれたぜ」
マスターと呼ばれた男は金色の頭髪に長い耳を持つ美男子だった。皮鎧に毛皮の外套、まるで狩人のような佇まいだ。
「なんだ、飛ぶ鳥落とす勢いの《ブラッディローズ》も王宮にいたのか? お前は一体何をしたんだ?」
ギルドマスターは俺の事を知っているようだ。
「石鹸の密造です。後国王陛下のお怒りを買ったようで……」
「大方、ペルシア姫の事でも馬鹿にしたか? 国王陛下は王女のことになると見境がないからな」
「まぁ間接的に……馬鹿にしたことになってしまったというか……」
「そうか、まぁそれは良い。昇格試験を受けにきたんだったな。早速始めるか?」
「はい、お願いします」
ノーチェに「頑張れよ」と激励され、試験会場へと案内される。
「まず始めは筆記試験を行います。文字は書けますか? 宜しければ代筆しますが」
「いえ、大丈夫です」
《異世界言語》スキルのお陰か、日本語で書いても、相手にはこの世界の文字に見えるようになるようだ。
これはライアとの特別授業で判明したことで、カタカナで書こうが漢字で書こうが相手にはしっかりと意味のある言葉として伝わるようだった。
何という御都合主義。
「ではこれより、筆記試験を開始させていただきます。制限時間は半刻。記入が終わり次第終了を宣言して頂ければそこで終わらせて頂きます」
こうしてA等級への昇格試験が始まった。




