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87話 静電気と試験対策


魔鉱石から出た水を、火の魔鉱石で温め、たっぷりとお湯を張った浴槽にゆっくりと肩まで浸かる。

並々とお湯を張った浴槽からは、幾らかのお湯が溢れるが気にはしない。

流れるお湯の音を聞きながら、手で掬い上げたお湯を肩にかける。


「っはぁ〜。やっぱり風呂は最高」


薔薇の香りのする石鹸で全身の汚れを落とし、王都にある高級な宿屋、《飛竜亭》の風呂で約二週間ぶりに浴槽に浸かり疲れを癒す。

浴槽の縁に頭と両肩を預け、数時間前に牢屋から解放された直後のことを思い出す。







「早速ですが、結果を聞かせてもらってもよろしいですか?」


地下街の診療所に着いた俺たちは、ニエヴェに叱られているノーチェを横目に、紅茶の用意されたテーブルについた。


「お父様、泣いて喜んでいましたわ」


ペルシアの顔にはもう吹出物はない。

皮膚の色が緑色なので若干の違和感はあるが、腫れの引いた彼女の顔は、王女という立場に相応しく非常に整った顔立ちをしている。

なので《花汁》をしっかりと飲んだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。

彼女は徐に両手の手袋を外すと、その下から元に戻ってしまった治っていたはずの手が現れた。


「やっぱり一時的なものですね」


肌の色が治らない時点で薄々は感じていたことだ。

《花汁》は怪我には効果があるが、病気には効果は無いようだ。


「痛そうね。子供の頃の事を思い出すわ……」


「ライアも子供だった事あるんだな」


「失礼ね。私にも純粋無垢だった少女時代はあったのよ」


ライアは窓際を見つめ遠い目をしている。


「それで、俺達が解放されたという事は、許されたっていう認識でいいのでしょうか?」


「お気づきの通り、私は地下街にいる小鬼病の方々を連れてお父様と交渉しに行きました。お父様はかれこれ十年以上も私と一緒にこの病気と向き合ってきましたから、最初はとても懐疑的でした。ですがベック様からお預かりしたこのお薬を飲んだ地下街の住民の方々の皮膚が、瞬く間に綺麗に治って行くのを目の当たりにしたお父様は、無罪放免の代わりに条件に申し付けられました」


「条件?」


「はい。『今回使わせて頂いた回復薬を数点献上して欲しい、そして娘の病を必ず治せ』との事です」


なんだ、もっと無理難題引っ掛けられるかと思ったが、それくらいのことならお安い御用だ。

《花汁》の在庫はまだまだあるし、小鬼病の治療ももとよりそのつもりで動いている。

自分が罹患した時、治せないことがないように様々な病気を知っておきたいだけなので、ペルシアが気にする必要はない。

俺は自分のためにやっているだけなのだから。


「で、ドルガレオ大陸に行くんだろ? 算段はついているのか?」


いつのまにか、説教が終わったノーチェが俺の隣にあった椅子に腰掛け、今後の予定を訪ねて来る。


「まず、あっちの大陸に行くにはパーティーメンバー全員がA等級になる必要があるんだよね?」


「そうだな。実力がないとただ死にに行くだけだからな。まぁ俺っちくらいになるとお荷物が一人くらいいても平気だけどな!」


ククク、とニヒルな笑い方をすると、「兄さん!」とニエヴェが横から怒気を孕んだ目でノーチェを見据える。


「嘘嘘! 冗談だって! でも危険っていうのは間違いないぜ? 昔A等級になりたての時、調子に乗って行って見たことがあるんだけどよ。向こう側に着くなり、魔力を吸われる雨に降られてニエヴェがダウンしちまってよ〜。あの時は大変だったぜ」


「もう! さっきから余計な事ばっかり言わないでよ!」


「ま、取り敢えずはお前がA等級にならないとな? 俺っち達を誘ったんだ。さっさとA等級に上がってくれよな?」









ノーチェの言う通りだった。

まずはしっかりと試験を受けて、A等級に上がることを目標にする。


昇格試験は毎週日曜の午後から筆記試験と実技試験が行われるようだ。


筆記試験は、魔物の特徴や対処法、国内外の法令などの試験の様で、本来ならば等級が上がるたびに筆記試験はあるそうなのだが、特例に次ぐ特例でB等級に上がっていた俺は免除されていたので知らなかった。


実技試験は現役のA等級冒険者との戦闘試験だ。

そこで実力が認められない限りは、A等級に上がる事は出来ない。

圧倒的な強さこそ、A等級の冒険者には必要なことになって来るのだ。


「おい! いつまで入ってるんだよ! お前は女子か!?」


「ゆっくり風呂に入ろうが別にいいだろ! それよりも風呂にまで入って来るなよライア!」


「お前が筆記試験の勉強を教えてくれって言ってきたんだろ!? あと五日しかないんだ! さっさと風呂から出て勉強するぞ!」


そうでした。

酒を餌にしてライアに頼んだんだった。

後五日間しっかり勉強と訓練をしてA等級にならなくては。


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