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81話 静電気とそばかす



魔工学研究所――。


人魔戦争以前からフォレスターレ王国にあるこの機関は、マノス王国への資源提供の見返りとして預かり受けた職人肌の魔工技師達が、魔力の少ない土地で如何にして効率よく魔工具を安定稼働させるかという命題を掲げ、その目的を達成するために立ち上げられた機関だ。


魔族が生活していたドルガレオ大陸では、空気中に溢れ出すその豊富な魔力を使い、資源不足を補うために様々な魔工具が開発された。


例えば地下街を照らしている人口照明などがそれに当たる。


人や魔物などが生まれながらにして持っている魔魂石は、自身の肉体エネルギーを魔力に変える方法と、空気中の魔力を吸収する方法の二種類の手段で魔力を集め、それを保持している。


個人差はあるが、魔力を使えば使うほどその総量は上がり、体内から失われた魔力は先の魔魂石の特性によって回復する。


魔力不足を解消する為に、魔族の魔工技師が目をつけたのは、その魔魂石の特徴と、魔族と違いポンポンと増え続ける人族の繁殖力だった。


魔工技師たちは、人から魔力を吸い上げ、その魔力を魔工具へと転用する為の魔工具を作り上げた。


しばらくは処刑が決まっている罪人を使い、死ぬまで魔力を奪い続ける魔工具として運用していたのだが、そう都合よく罪人が現れる訳もなく、魔工具の王都全体への普及も相まって、次第にまた王都は魔力不足になっていった。


そんな時に起こったのが、フォレスターレ王国全体の魔族への排斥運動だった。


当時の国王は魔工技師達に、昼夜を問わず魔工具を作らせ、その魔族を人とは思わない扱い方によって、一人、また一人と魔族の魔工学技師は居なくなっていった。


それからと言うもの、数百年の間、魔工具に魅せられた人族の魔工技師達が脈々と研究と開発を進め、この地下街を作り上げたのだ。







かれこれ一時間以上、マシンガンの様に話し続ける人物を前に、俺とペルシアはげんなりとした顔で、目の前にいる幼女を死んだ魚の様な目で見つめていた。


彼女が話している間に周囲を見渡すと、何やら道具の様な物がそこかしこに散乱しており、彼女の他には机に向かって何やら頭を抱えている人や、倒れる様に寝こけている人、忙しなく掃除をしている人など様々だ。


「そして十五年ほど前、一人の天才が現れた事によって、魔工学は更なる高みへと登っていったのさ!!」


彼女の名前はフィーグー。

魔工学研究所の所長で、自称天才だ。

白衣を纏ったその姿は、まさに研究者と言った出で立ちで、ボサボサの緑色の頭髪に黒い瞳。

眼鏡をかけたその奥に見える顔には、そばかすが散りばめられている。


彼女から漏れ出る魔力は、この街にいるどんな人族よりも強大であった。

そして彼女の背後にいる、三メートル程の巨大なダンゴムシも、その内包する魔力は今まで出会ったどの魔物よりも力強い。


「そろそろ本題に入って良いかしら?」


「申し訳ありません、姫様。久しぶりのお客人でしたので、つい興奮してしまいました」


はぁはぁと肩で息をしながら蒸気した顔を向けるフィーグー。


「私がここにきたのは、お父様が新しい住民を連れてきていないか確認する為にきたのです」


「新しい住民? ここ最近は何人かきましたが、どなたの事でしょうか?」


ライアと花ちゃんがいない事は確認済みだ。

後確認する必要があると言ったら、ノーチェの妹の事だろう。


「えーっと、フィーグーさん。兎人族の薬師を探しているんですが知りませんか?」


「私のことはフィーと呼んでくれ。 兎人族……兎人族……。あぁ四日ほど前に、先月亡くなった薬師の代わりが来た様な来てないような……」


「その方は今どこにいますか?」


「薬師だから、街の診療所じゃないかな? それより君もこの街の住人になりにここに来たのだろう? どうかな? 魔力提供していかないかい?」


「彼は住人じゃありませんよ。フィー」


ズイっと歩みだしたフィーと俺の間に割って入るようにペルシアが言った。


「それは残念だ……。せっかく良いものを持ってるようなのに」


俺の胸元、魔魂石があるところを、その紅い瞳で舐め回すように見つめる彼女は、獲物と見つけた捕食者の様だった。


「はは、またの機会にお願いします……」


そう言って断りを入れ、魔工学研究所を出ようとした時、彼奴が戻って来たのだった。





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