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76話 静電気と謁見②

 


「くっくくく……。あーっはっはっはっは!」


白亜の石柱が立ち並ぶ謁見の間に、国王陛下の天井が震えるような笑い声が響く。

王様を囲む文官たちの顔は、かなり引き攣っている。


「そうか、気に入らないか!」


「はい。すいませんが、ちょっと……」


笑顔の為、柔和だった王様の顔が、一瞬にして憤怒の表情へと変わる。


「そうかそうか……。それでは仕方ない。衛兵!こいつを牢屋にぶち込んでおけ!」


「はっ!? ちょっと待ってください!」


あっという間に大勢の騎士達に囲まれてしまった。

騎士達は剣と盾を構えて今にも切りかかって来そうだ。


「どういうことですか!?」


「《黙って跪け》」


赤い絨毯に膝を付いてしまう。

なっ、なんだよこれ……。

身体が言うことを聞かない。

口を動かそうとしても動かない。


「《抵抗するな》」


更に《力のある言葉》を重ねられる。

動けない俺は騎士達に拘束されてしまった。

自分の意志とは別に、俺の身体は騎士の指示に従ってしまう。


(糞ッ!なんだこれ!なにかの魔法か!?)


「……ったい俺が何を!」


二度目の威圧の後、声が出るようになった。

何をって……めちゃくちゃディスったなそういえば。

《転移》で逃げられるし、おとなしく捕まっておくか。


「貴様は国家反逆罪だ。早く連れていけ」


「「「「ハッ!」」」」







前後左右、騎士に囲まれ、暗い石壁の通路を歩く。

壁に掛かる松明が、この通路を照らす唯一の灯り。

牢屋番だろうか、木製の机に椅子。

肩肘をついて寝こけている衛兵。


「おい、起きろ」


騎士の一人が寝こけている衛兵の脛を蹴る。

ガタリと机から肘を落とし、口元の涎を拭く牢屋番。


「これはこれは! じょ、上級騎士様! 失礼致しました!」


「国家反逆罪の重罪人だ。しっかり見張れよ」


「はっはいい!」


装備をすべて脱がされ、鉄の格子が嵌められた一室に閉じ込められた。

地下室の淀んだ空気が、陰鬱な気持ちを増長させる。


(はぁ……さて、どうするか……)


あの王様の力は厄介だな。強制的に命令を聞かされてしまう。

今は身体が言うことをきかないと言った不調はない。

効果範囲でもあるのだろうか。


『――平和ボケしているお前に、この違和感はわからないか。精々足元を掬われないように気をつけるんだな』


ライアに言われたとおりだったな。

注告、聞かなかったからこうなっちまったのかな。


そういや、ライアと花ちゃんどうなったんだろ……。

行動起こすなら牢屋番がまた寝始めた今だな。


(《探知》)


謁見の間はここ……か、今は誰もいないみたいだな。

と、すると、確かこっちが客間のはず。

うーん、客間にはライアも花ちゃんも居ないな。

ライアが連れていってくれたのだろうか。

それとも捕まった?


ーー……てるか?


うーん、何処にもいないな。

この分だと無事に逃げられてそうだ。


ーー……聞こえてるか?


俺の装備はどこ行った?

牢屋入る前に脱がされたから、そこら辺にあるかな。

お、あったあった。

牢屋番の足元の箱の中か。


ーーおーい、聞こえるか? 国家反逆罪


「国家反逆罪じゃねーよ!」


「なんだよ、聞こえてるんじゃねーか。お前は何して国家反逆罪になったんだ?」


隣の牢屋から聞こえる声の主は比較的若い声だ。

顔は確認できないけど、男……だよな?

中性的な声だけど低い部分もある。


「石鹸作っただけだよ。いや……国で作ってる石鹸はクソって文句も言ったか。そういうアンタは何してそこに入ってるんだ?」


「かーっ!国営の仕事に手をつけたのかよ!その上喧嘩まで売るとか、怖いもの知らずだねぇ。俺っちも似たようなもんだ。ちっとしくじっちまってな。気がついたらここにいたんだよ」


隣の牢屋からは「はぁ」と言うため息が聞こえる。


「そういや自己紹介がまだだったな!俺っちはノーチェ=ビラだ!一応A等級の冒険者なんだぜ!《蹴兎》って聞いたことないか!?」


《蹴兎》聞いたことないなぁ。


「聞いたことないね。俺はB等級冒険者のベックだ。宜しく」


「B等級のベックって《ブラッディローズ》か?」


「まぁそう呼ばれたりはするけど……」


「二人組って聞いた気がするけど、相方はどうした?」


「それが、ちょっと前まで客間に居たはずなんだけど、いなくなっちゃったんだよね。俺がここに連れて来られるまでは、まだいたはずなんだけど……」


「……お前もか」


「お前もか? って事はノーチェも誰かと一緒だったのか?」


「あぁ、妹がいたんだ。俺が冒険者ギルドの依頼を受けている間に、なぜか王宮に連れていかれたって聞いてな。急いで王宮に来たんだが、妹が()()()()()()()()。んでどういうことだ!って暴れたらこの通りってわけさ。国家反逆罪仲間だな!」


妹が聞こえない? 不思議な言い回しだな。

ここから出るのは簡単だけど、問題はその後なんだよなぁ。

花ちゃんもライアも何処にいるのかわからない以上、迂闊に動かないほうがいい。


「それにしてもーー」


「しっ!誰か来るぞ!」


ノーチェに会話を制止されると、

ガチャリ、ガチャリと鎧が擦れる音が聞こえ始めた。

次第に近づいて来る音は、俺の牢の前で止まった。

牢屋の前に立っていたのは、ふんだんにフリルをあしらわれた、ピンク色のドレスを来た金髪ドリルだった。


「貴方があの石鹸を作った冒険者ね!」


めちゃくちゃブサイクだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 結局頭の悪い話か
2021/09/18 13:09 退会済み
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