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69話 静電気は中立



「ん、んん……ここは……」


「目が覚めましたか。教頭先生」



もうそろそろ、朝日が昇る時間だ。

教頭先生を気絶させた後、魔物学の教室内を花ちゃんと一緒に片付け、先生を部屋まで連れてきた。

正直言って眠いが、放置するわけにもいかないので寝ずの番だ。



勢いよく起き上がり、距離を取ろうとする教頭先生だったが、《雷針》のダメージのせいか、よろけてベッドから落ちてしまった。



戦闘をした魔物学の教室はその教室内全部を《魔障壁》で囲んでいたのでそこまで荒れてはいなかった。

ブルースライムのぶるぶるも、砕け散ってはいたがコアは無事だった様でいつのまにか再生していた。

よかったよかった。



「別に危害は加えませんよ。それに動くと傷が開きますよ」


「傷……? ですか?」


「先生が気絶した後、全身が裂ける様に傷だらけになったんですよ。花ちゃんが先生の魔力を食べなかったらそのまま破裂していたかもしれないです」



先生が気絶し倒れた直後はまるでホラー映画の一幕の様な状況だった。花ちゃん曰く、薬を飲んで膨れ上がった魔力が身体を内側から押し上げ、空気の入らなくなった風船の様に破裂する寸前だった様だ。



あのまま俺の指示通りに全身を土魔法で包んでたら教頭先生は恐らくだが死んでいたはず。

あの薬は教頭先生が半魔(デミ)だったからこそ一本目は耐えられ、二本目を飲んだ以降あのまま戦闘が続いていたら教頭先生の身体は自壊していたんじゃなかろうか。

魔力に耐性のない通常の人族が飲んだら大爆発だろうな。



花ちゃんの種族、魔界草は魔物の肉などを食す他に、空気中の魔力も栄養源として吸収する生態の様で、花ちゃんが教頭先生の体内の魔力を吸い取る事でその破裂を抑える事に成功した。



裂傷の起きた箇所は《花汁》で回復させておいたが、激しい運動をしたらまた裂けてしまうかもしれない。

花ちゃんは疲れたのか、今は眠ってしまっている。



「そうでしたか……。殺そうとしていた相手に助けられるとは、情けないものです」


「なんで俺を殺そうとしたんですか?」


「貴方は気がついているはずです。このオレガルド大陸で使われている魔法の矛盾点に」


「【属性変換術式】の事ですか。初めはおかしいとは思わなかったんですよ。本に書いてある事はそれっぽい事でしたからね。でも魔力を操れる人と操れない人の違いに違和感を持ったのは、この魔法学校に来て校長先生と話してからです」



まぁ《賢者》のおっさんが言った【属性変換術式】は呪いだ、という言葉がなかったら「そんなもんか」と思い、気にも留めなかっただろう。



「私の主人はその事に非常に危機感を募らせておりました。その事実が公表されてしまえば、魔族以外の種族が再び力をつけてしまいますから」



やはりそうか。この口ぶりからすると、本来魔法は魔力と想像力があれば発動できるものなのだ。

その使える魔法の差は【知性】のステータスの差で、使える魔法と使えない魔法が出てくると言うのが俺の考えだ。

もし【知性】が関係ないのだとしたら、魔力もあって妄想力豊かな俺が魔法を使えないはずがない。



「全ては復讐の為に……ですか。だから長い年月をかけて、さも素晴らしい発明かの様に【属性変換術式】を推奨しているって事ですね。完全なる下位互換であるにも関わらず」


「その通りです。ここまでくるには永い永い年月が必要でした。幾度となく《勇者》や《賢者》に邪魔されて来ましたから」



んん?

賢者に邪魔されて来た?

《賢者》のおっさんの事?

花ちゃんが寝ちゃってるから話聞けないな。

とりあえず気になっている事聞いてみるか。



「教頭先生ちょっと聞いてもいいですか? もしかして主人ってライアの事?」


「…………」



否定も肯定もなし。

黙っているって事はそう言う事だろうな。

あの時一緒にいたのは、秘密の逢瀬じゃなかったって事か。

おっさんと少女。

見た目だけなら、まるっきり犯罪だしな。

まてよ? そうなるとライアって何歳なんだ!?



「……沈黙は肯定と受け取っても宜しいですかね」


「……恐らく私は殺されるでしょう。三度目の失敗ですから」



むしろ二度も許してくれたのかよ。

めちゃくちゃ優しいじゃねぇか。

会社で二回もミスったらボロクソだぞ。

それにさ外から感じるこの魔力。

殺されなんて事はないと思うな。



「ちょっと今から行きません? ご主人様の所」



と言っても、扉の前に居るんだけども。

《魔力手》を伸ばし扉を開ける。



「そんな所に立ってないで、入って来たらどうかな」



扉の前に立っていたのは、ライア。

肩まで伸ばしたウネリのある茶色い髪。

俺の評価は『顔はクラスで三番目に可愛いが性格がいいから一番人気』と言うのが非常に似合う女の子?だ。



「な、な! なんで居るとわかったのよ!」


「そう言う魔法使ってるんで。ご主人様?」



教頭先生は身構えている。

魔力を抑える腕輪をしているにも関わらず、ライアの身体から漏れている魔力の力強さは、スウマーと呼ばれていた魔族に近いものがある。

恐らく教頭先生の言っていた、《五人の純血》の魔族の一人なのだろう。



「あんた馬鹿にしてるのかしら?」


「そんなに魔力漏らしたらめんどくさい人たちが来ますよ」


「大丈夫よ。ウロヤミゴがなんとかするわ」



あれれ。そこまでは気がつかなかったな。

じゃあナウソラエ一家も半魔(デミ)なのか?

ドルガレオ大陸との境目を守護する辺境伯が魔族寄りとか……。

フォレスターレ王国やばくないか。



「で、また失敗したのね。教頭センセ?」


「申し訳ございません……。死んでお詫びいたします」


「そんな事しても何にもならないわ」


「口調が変わってないかな? ライアさん? 『コス様〜』って言ってませんでしたっけ」


「あんた殺されたいの?」



いつの間にか俺の首に黒い刃が突きつけられていた。

魔力が動いた形跡も、魔法の発動も分からなかった。

これは闇魔法なのだろうか。



「調子こいてすいませんでした。でも俺の事殺しに来たんじゃなかったんですか?」


「あんたはロッティーを救ってくれたわ。その貸しよ」


「【属性変換術式】の事、バラしちゃうかもしれませんよ?」


「めんどくさいわねあんた!? 今すぐ殺そうかしら!?」


「嘘ですよ。真実かどうかは置いといて、教頭先生から昔の話聞いたらしっかり確認するまで人間側の肩を持とうなんて思えませんからね」



結構フォレスターレ王国側も、えげつない事やってるしな。

しっかり事実確認するまで、中立の立場でいたい。

でも、街を襲わせるのはやめてもらいたいものだ。

この世界を見て回ることができなくなっちゃうしな。

それにこの世界のどこかにいるかも知れないおれの未来のお嫁さんが巻き込まれて死んでしまうかもしれん。

それだけは回避しなくては。


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