67話 静電気と当社比3倍
爆発した魔族達の不満は大きな蜿となってフォレスターレ王国を飲み込もうとしました。
しかしマノス王国国王は、これをフォレスターレ王国との対話とさらなる対価を支払う事によって往来禁止令を解除させました。こうして自国に帰ることが出来るようになった、一般市民の不満は解消されたのです。
しかし、この王の判断に不満を募らせた人物がいました。
それが人魔戦争を引き起こした張本人、王弟であり、対価を支払った人物であるエッタレフカ=マノス。
彼は人魔戦争において魔王と呼ばれた魔族だったのです。
エッタレフカ=マノスが支払った対価とは、己自身の娘でした。
マノス王は子供に恵まれませんでした。苦渋の決断として王弟にいる二人の娘の内、姉のカトレアを両国の繋がりを更に強固にする為、魔族に対する差別を無くさせる為に、フォレスターレ王国に嫁がせる事になったのです。
「それが魔族の為になるのであれば……」
エッタレフカは悔しさに血が滲むまで唇を噛み締めながらも娘を送り出しました。
フォレスターレ王国の王族にとっては次世代の王が長命で魔力に溢れた力強い種族になれば、国は安定し、ますます繁栄していくと考えていたのでしょう。
しかし、三年、五年と月日が経ってもカトレアが懐妊する事はありませんでした。業を煮やしたフォレスターレ王国の王族達はカトレアを欠陥品だと罵りマノス王国に送り返しました。
帰ってきたカトレアを見たエッタレフカは愕然としました。
美しかった容姿は見る影もなく、頭髪は抜け落ち、身体のあちこちには生々しい傷跡が残っていたそうです。
父と娘は声を上げて人目も憚らず泣きました。
エッタレフカは怒り狂いました。
「これが知性や理性のある者のやる事か」と。
それでも国王である兄は言いました。
「暴力は何も生み出さない」と。
腰にかけた剣を抜いたエッタレフカを見た国王は言いました。
「それがお前の答えか」
マノス王国中にフォレスターレ王国の非道な所業は広がり、エッタレフカの元に、打倒フォレスターレ王国を掲げる魔族達が数多く集まり、王弟エッタレフカ率いる魔王軍と呼ばれるようになりました。
その勢力は日に日に増え、王はエッタレフカによって幽閉され、瞬く間にフォレスターレ王国への宣戦布告がなされたのです。
こうして人魔戦争が勃発しました。
この戦争によってエッタレフカ率いる魔王軍は、フォレスターレ王国が召喚した異世界の勇者によって敗北し、マノス王国は王族諸共滅ぼされました。
このオレガルド大陸に残されている書物には、魔族が肥沃なオレガルド大陸の土地を求めて侵略戦争を仕掛けてきたと記載されていますが、こう言った背景があったのです。
◇
「この大陸にも、未だに魔王様を崇拝する半魔は多くいます。親世代から詳細に違いはあれど二世、三世の半魔がこう言った話を聞いているのですからね」
「なるほど……教頭先生の母ちゃんは生き延びることが出来たんですね」
「か、カァチャン? 母上でしたらこの大陸に旅行中だったそうなのですが、なんとか隠れて生活しているところをタイム男爵と出会い恋に落ち、私が産まれたという事ですね。まぁそのせいで私の両親はフォレスターレ王国の魔女狩りにあい命を落としましたが」
「もう、四百年も前の話です」とバツが悪そうに笑ってみせた。
「魔族の歴史は分かりました。ですが、何故教頭先生からあの魔族の魔力を感じるんですか?」
「それは私の身体に造王薬を打ち込んだからですよ。この薬は素晴らしい。魔物に打てばその魔物を王種へと変えてしまうのですから。内側から作り変えられるような激痛に苛まれましたが、魔力が漲るようですよ!」
王種へ変える薬?
もしかしてあの魔族が作っていた薬を自分に打ち込んだのか?魔力が増大したという事は一種のドーピング薬のような物のようだな。
「もう間も無く、再び我々魔族と人族の戦争が始まります。二世、三世といった、人目につかないようひっそりと暮らしてきた半魔達が五人の偉大な純血の元に集結しつつあるのです」
「その戦争は回避することはできないのですか?」
「我々は、もう止まることはできないのです。そしてベックさん、残念ですが貴方には死んでいただかなくてはなりません……」
教室中に殺気が充満していく。
『花ちゃん! 何かわかったか!?』
『ダメだよパパ。 また雨が降ってる』
クソッ!
肝心なところで《賢者》のおっさんが役にたたねぇ!
教頭先生の右腕にはいつのまにか黒い杖が握られている。
その杖の切っ先をこちらに向けると、黒い球体が襲いかかってきた。
(《魔障壁》!)
即座に魔障壁で所狭しと打ち付けられる黒い球体を弾く。
今の魔法は闇魔法の《ダークボール》だ。
教頭先生は【属性変換術式】を詠唱していない。
俺が弾いた《ダークボール》がブルースライムに当たり弾け飛んだ。すまぬ、ぶるぶるよ。
教室にぶるぶるのような被害が出ないよう魔障壁を張り巡らせる。
「防御魔法とは! 《ロテックモイの逆さ塔》ではつかっていなかった魔法ですね!? それも教室全体にかけるとは! ベックさん、貴方こそ何者なのですか!? 《召喚!死鎧》」
「ただの冒険者ですよ!!それより教頭先生こそ迷宮で出てきた鎧骸骨は貴方の仕業だったんですね!」
鎧骸骨よりも禍々しい黒い鎧を着た、ミイラのような魔物が地面の漆黒の渦から数匹這い出でる。
更には《ダークボール》の数が多すぎて防御一辺倒だ。
下手に攻撃魔法を使っても殺してしまう可能性がある。
何か非殺傷系の魔法を作らないとキツイか!?
「本当はあそこで死んでもらう予定だったんですよ! ギベニューでも貴方に邪魔されてしまいましたからね!」
「ギベニューの飛竜も貴方の仕業だったんですか!?」
「私は付き添いでしたがね! 些か相棒の無計画さには呆れましたが!」
教室の床からは黒い槍が今にも俺を突き刺そうと迫る。
それと同時に俺の周囲にはアンデットナイトの斬撃も繰り出されるが、俺の魔障壁を貫くことはできない。
圧縮に圧縮を繰り返した俺の魔力だ。
そうそう突き破られてたまるか。
《ダークボール》の手は緩めないまま、別の攻撃魔法を打つなんてやはり魔族は魔法に秀でているようだ。
別々の魔法を同時に使うなんて、右を見ながら左を見るようなもの、非常に高度なテクニックだ。
「堅いですね! 魔力の使い方がお上手なようですが、放出したり、属性を変えるだけが魔力の使い方ではないのですよ!!」
教頭先生の身体を薄っすらと魔力が覆った。
全身に魔力が定着していくのがわかる。
「あぁっ! 漲るッ! 力が漲るうぅぅぅ!!!」
目の前にムキムキになった教頭先生がいた。




