63話 静電気と四大辺境伯
高級そうな調度品があしらわれた応接室には沈黙が流れている。
俺の目の前にいるのはフォレスターレ王国の大貴族である、四大辺境伯の当主達。
北部辺境伯、《終わりの守護者》ウロヤミゴ=ナウソラエ。
東部辺境伯、《竜殺し》ザーラ=ザラ=ズール。
西部辺境伯、《冒険王》サイラス=カロボトム。
南部辺境伯、《水龍》フレデリカ=ナーナイル。
この国の辺境伯と言われている大貴族達は財力もさることながら、国境付近の防備を任せられた特に武力に秀でた貴族達らしい。
様々な武功を上げて来た歴戦の強者達。
フォレスターレ王国の周囲は強力な迷宮や魔族の支配地域であるドルガレオ大陸に面しており、日々魔物災害への対策や国境の防備に力を注いでいるようだ。
「もう用がお済みでしたら、部屋に戻って明日の準備をさせていただいても宜しいですか?」
とりあえず牢屋に入れられるようなことはなさそうだからよかった。
王都に行ったら王様のご機嫌だけうまくとって、さっさと開放してもらおう。
話は終わった模様なので俺が部屋を出ようとすると、今まで黙っていた四大辺境伯の中の一人、アーニャの祖父であり《竜殺し》ザーラ=ザラ=ズールが始めにその重い口を開いた。
「ちょいと待たれい。ワシらはのお主の正体を見極めに来たのじゃよ。冒険者ベック」
ちらりと横目でアーニャを見ると「お主がアーニャに師匠と呼ばれている事も気になるがの」と鼻を鳴らしている。
てっきり皆さん自分の子供や孫に会いに来たと思っていた。
それだけなら今ここに一緒にいる意味はないか、と納得した。
「俺を見極めに……? 一体どういう事です?」
「最近国内外で魔物の動きが活性化しているのは知っているか? と言うのも、お主は当事者だから知っているとは思うがの」
「えぇ、実際に岩小鬼魔道王や牛頭人王と戦いましたからね。この外套が戦利品です」
俺は牛頭人王の外套を指さす。
「その他にも《岩山の迷宮》内部での魔族との遭遇や、人造王種を作り出す薬、ギベニューの飛竜討伐など、お主の行くところ行くところで騒ぎが起きるのは何でなのかの?」
……何が言いたいんだ?
もしかして、この騒ぎを起こしたのが俺だと思われてる?
だとしたら勘違いも甚だしいのだが。
「それに、じゃ。お主は何処から来たんじゃ? 冒険者登録をしてわずか一ヶ月余りで既にB等級。何処かで訓練を重ねていたとしてもこの昇格の早さは異常すぎるのじゃよ」
「なにが言いたいのかよくわかりませんね。それに俺の冒険者等級をあげてくれたのは、ボラルスとギベニューのギルドマスターです。何で上げたか、と言う事ならそちらに聞いた方が早いのではないでしょうか?」
異常って言われてもこの世界の常識はあまりわからないからな。
どう言う理由で等級が上がっているのか、と言う事ならアンブリックやフラウに聞いてもらいたいところだ。
「おい爺さんヨォ、まどろっこしいんだよ」
俺とズールの会話に口を挟んで来たのはララによく似た短髪黒髪の《冒険王》と呼ばれるサイラス=カロボトムだ。《冒険王》と言うだけあって高級そうな衣服を身に包んだ他の辺境伯とは違い、使い込まれた鎧の上からでもわかる強靭な肉体には目を見張るものがある。
「おい新入り。 俺はまどろっこしい事は嫌いなんだよ。 単刀直入に聞くぜぇ? お前は魔族か何かか? 魔物の活性化についての一連の流れにお前は絡んでいるのか?」
「俺は普通の人間ですよ。行った先で運悪く巻き込まれて来ただけです。ギベニューに関しては密猟者の仕業ではないんですか? フラウさんが三人組を見たと聞いてますが」
「だとよ。フレデリカ嬢? 他の目撃者の証言とこいつが言っていることはほとんど一緒だ。あんたの眼にはこいつが嘘をついているように見えるか?」
「………………いいえ。何も見えないわ」
フレデリカと呼ばれた水色の髪の女性と目があった。
心の奥底をを覗き込まれているような感覚がした。
嘘が分かる特殊な眼でも持っているのか?
でもこれで無実って言うのはわかってもらえたのだろうか。
「――貴様が会った魔族というのはどの様な姿をしていたのか覚えているか?」
コスムカバの横に座っていた燃えるような紅色の頭髪をした《終わりの守護者》ウロヤミゴ=ナウソラエが間に割って入った。
「真っ黒なローブを纏っていましたね。人造王種にするための薬の研究をしていたようですが。そのおかげで牛頭人王と戦わなくてはいけなくなりましたからね」
「名前を……その御方は名前を名乗らなかったのか?」
「名前? 名乗らなかったですね。外套の隙間から見えた赤い眼を思い出すだけで今でもゾッとしますよ。動きが全く眼で追えませんでしたから……」
あの時は本当に死ぬかと思ったな。
それ程にあの魔族との力の差を感じた。
「黒い衣に赤い眼……。恐らくだが人魔戦争で魔王と共にオルガレド大陸に甚大な被害をもたらした魔人、スウマー=キッミで間違い無いだろう。先の時代の勇者に屠られたと聞いていたが、よもや復活を成し遂げるとは……」
ウロヤミゴは放心している。
それ程魔族の復活とは衝撃的なのだろう。
「ギベニューの件は魔王崇拝者の仕業じゃと我々は考えておる。今の話を聞くに、魔王の右腕でもあったスウマーが復活したとあれば、魔王の復活もありえない話ではないのかもしれないの。
なんせその時代を生きていた人物はこの世界にはもういないのじゃからな」
「人魔戦争が終わってから暫くは魔族の侵攻があったと書物に記されている。
魔王を討たれた事に対する仇討ちだろうが、当時の勇者であるヨダン=ジンホニによって魔族は討ち滅ぼされたと先祖の日誌には書かれているのだ。
魔族が目撃された以上、今一度ドルガレオ大陸に赴いてその存在を確認する必要があるかもしれないな」
深く頷き合っているズールとウロヤミゴ。
周りで聞いている娘、息子達はスケールの大きさについていけなくなっている様子だ。
「ワクワクして来たなぁ! 魔族ってのは強えんだろ!? もし戦争が始まったらよ! アキラより早く俺が魔王をぶっ飛ばしてやるぜ!」
「…………魔王相手に貴方じゃ数秒も持たないんじゃない?」
「言ってくれるなフレデリカ! 何なら今ここで試してみるか!?」
「ちょっとパパ! こんな所で恥ずかしいからやめて!?」
「…………お母様もみっともないわ」
ララが必死になってサイラスの腕を引っ張っている。
ミーアもあきれ顔で母親を見ている。
脳筋の父親と好戦的な母親がいると大変だなぁと思う反面。
俺も二人のようにならないように気をつけようと思うのであった。




