55話 静電気と視線
「おはようございます! 初めまして? ですよね!?」
赤いリボンで結ばれた茶色い髪のツインテール。
あどけない可愛らしい笑顔に子供のような見た目。
魔法都市ソーンナサラムにある冒険者ギルドの受付嬢のようだ。
最近は装備の所為で魔物扱いされる事ばかりだったので、驚かれずに手放しで受け入れてもらえるのは非常に嬉しいものだ。冒険者は変わり者が多いようなので慣れているのかもしれない。
酒場の方からなんか凄く視線を感じるな。
まぁこの見た目じゃ仕方ないか。
「あぁ、はじmーー」
「ーーおい見ろよ、《ブラッディローズ》じゃねぇか?」
「本当だ。じゃああの肩に乗ってる植物が《花さん》か。そう言えばあいつって《ロテックモイの逆さ塔》の階層主をソロで倒したらしいぞ」
《花さん》?
この街にボラルスの花組構成員でもいるのかな。
今ので受付嬢ちゃんに返事するタイミング失ってしまった。
お互い気まずい顔で見つめ合っちゃってるし、目礼だけしておくか。
それにしてもこいつら声大きすぎだろ……。
聞こえないふりして、併設の酒場で飯でも食うか。
朝飯食ってないしな。まぁ聞き耳だけは立てておこう。
こういう時便利だよなー冒険者ギルド。
二十四時間年中無休の飲食店みたいだ。
まだ朝だしサンドイッチと牛乳でも頼むか。
「それは嘘だろ〜。階層主なんて高等級の冒険者がパーティくんでやっと倒せる魔物だろ?」
「それがよ、魔術学校のロッティー居るだろ?」
「あぁ、あの陰険教頭だろ、この都市に住んでるやつだったらみんな知ってるだろ。それがどうしたんだ?」
陰険? どういう事だ?
生徒思いのいい先生だと思うけどな。
「そうそう。その陰険野郎が、昨日の晩に依頼の事後報告に来たみたいなんだよ。その内容ってのが《ロテックモイの逆さ塔》に許可なく入り込んだ生徒の救出って内容でよ? 生徒達はもう既に迷宮を出てたみたいなんだけどよ。そいつら探して裏下層の第五階層まで降りたんだってさ」
「そこで階層主倒したっていう事か? しかしどうしてA等級パーティの《デスソード》じゃなくてソロの《ブラッディローズ》なのかねぇ。実績と安定感でいったら《デスソード》一択だろうに」
「確かにな。あいつら十五階層まで行った実績もあるし、間違いなくこの都市で一番腕の立つ奴らだもんなぁ」
十五階層は凄いな。
でも言われてみればそうだよな。
生徒の命がかかってる時に、会ったばかりのぽっと出の冒険者に頼むか?俺だったら絶対に頼まねぇ。
俺から連れてってくれって頼んだけど、普通なら他の冒険者の応援も頼むはずだよな。
速さを重視したのか?
馬車なら半日の距離でも、花ちゃんなら二時間くらいだ。
それを知っていて急ぎたかったのか?
いや、それは無いな。
他の冒険者を待つ時間を削りたかった?
それも違う気がするな。
じゃあ花ちゃんの移動速度をあてにしてた?
初めて花ちゃんの 蔓作りの馬を見た時の反応は知っていたっていう感じじゃなかったし、花ちゃんの速さを知ってるのは俺くらいだったはずだ。
教頭先生が知るはずない。
じゃあなんで俺だけに頼んだんだ?
教頭先生からしたら、俺たちと三人だけで行く利点がないよな。
うーむ。考えれば考えるほどよくわからんなぁ。
校長室で感じた違和感と、何か関係があるような気がしないでもないんだけど。
「まぁそこで《醜怪な双頭の巨人》と大鬼人と豚頭人の三種類の魔物を討伐して帰ってきたって報告してたって話みたいだぜ」
「まぁ依頼主が依頼を過小に報告するメリットはあっても、過大に報告するメリットはないから本当の事なんだろうな」
ふう。教頭先生も律儀だよな。
依頼として出してくれるなんて。
サンドイッチも食い終わったし、報酬貰って帰りますかね。
まぁ金は《岩山の迷宮》のお陰でかなりあるから困ってはないんだけど、貰えるものは貰っておこう。
はやく帰って花ちゃんの入学手続きしなければ。
俺は魔法使えないけど、花ちゃんは使えるんだし学校に行く価値はあると思う。
カウンターに向かうと、先程挨拶してくれた受付嬢が手続きをしてくれた。ルメラカちゃんと言うらしい。
俺は「さっきはごめんね」と一言謝って冒険者ギルドを後にした。




