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4話 静電気とスキル ②

(あっこれは死んだ……)


 飛び掛かってくる醜い小鬼の姿を、血でぼやける瞳でとらえた俺はそう思った。

 結局俺は童貞のまま死ぬのか……。

 思えば、女の子とまともに手をつないだこともなかったよなあ……。


 朦朧とする意識の中、走馬灯のように童貞力(残念な妄想)が爆発する。


 『ごめ~ん! 待った?』『いや、今着いたところだよ!』とか言いながら、

 実は三十分くらい前から待ってたり。

 

 勇気を振り絞って、照れながらも手を握って、映画までの待ち時間に、

 おしゃれなカフェでブラックコーヒーを飲んで背伸びしてみたり。

 

 明滅する暗がりの映画館、はやりの恋愛映画を見て涙を流す、そんな彼女の横顔が綺麗だなぁって思ったり。

 

 奮発して夕食は予約しておいた高級レストランで豪華なディナー。

 作法が分からず四苦八苦する姿を見られて恥ずかしかったり。


 東〇スカイツリーから見える100万ドルの夜景。

 『綺麗だね』って目を潤ませている彼女を見て、今日のデートに手ごたえを感じてみたり。

 

 何でもない会話が楽しすぎて、『今夜はずっと一緒に居たいな』なんて、

 言われないかなぁと期待してみたり。

 

 そんな幸せなデートの末に、最後はベッドの上で燃え上がる様な愛を語り合い、

 最高にハッピーな気分で童貞を卒業する。


(可愛い彼女と、そんなデートしてみたかったなぁ……)


 洋也が走馬灯(叶うことのない夢)を見ている間にも、ゴツゴツと灰色の肌をした死神が近づいてくる。


 生ごみが腐ったような異臭と、黄ばんだ乱杭歯を携えて──。










 

 全身がまるで自分のものではないように力が入らない。

 黄色い歯の死神はもう目の前まで迫っていた。

 死を覚悟し、洋也はぎゅっと目を瞑った。


(ちくしょう……)


 諦めかけたその時、体中から何かが抜ける感覚を味わう。

 今までに何度も経験した感覚。

 放電することで体から電力が抜ける感覚だ。


 その感覚は錯覚などではなく、

 洋也の意志とは無関係に、彼を守るように電撃が放たれた。

 衝撃と雷鳴が鼓膜を震えさせ、肉の焦げるような不快な臭いが容赦なく鼻を刺激する。


 異変が起きたことを感じ、そおっと目を開けると、黒焦げになった岩小鬼(ロックゴブリン)がまさに崩れ落ちる瞬間だった。

 訳も分からず、ようやく動けるようになった手で血液の入った眼をこする。

 見間違いではない。すぐ目の前では襲い掛かってきた岩小鬼は全身が焼け爛れ、眼球は破裂し、口から煙を吐きながら絶命していた。


「ははっ……。死ぬかと思った……」


 思わず呟く。

 俺は一度、静電気のせいで死んだ。

 だが今回は静電気に生かされた。

 疲労感と安心感、そしてズキリと感じる痛みが、生きていることを証明する。

 震える足を引き起こし力なく地面に座り、ステータスボードを開く。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 名前 別宮洋也  年齢 27 

 職業 ―――

 身分 ―――

 能力値 Lv44

【体力】C

【魔力】B+

【筋力】C

【敏捷】A

【頑丈】C

【知性】G

【ユニークスキル】 

 静電気Ex(MAX) 魔法創造

【パッシブアビリティ】

 異世界言語 体質強化 魔力操作Lv4

【アクティブアビリティ】

 放電Lv3 魔法:雷銃(ボルトバレット)Lv2

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ステータスボードに触れるように右手をふっと前に出す。

 コイツのおかげで助かった。

 お礼を言うかのように《静電気Ex》に触れる。

 すると説明文が立ち上がった。




---------------------------------------------------------------------

 

 《静電気Ex(MAX)》

 レベルの上昇に伴い、体内の細胞変化が起き発電部位が増える。

 体内で発電と蓄電を行い、接触によって放電される。

 ※最大Lvまで成長しました。Exエクストラスキルに変化しています。

 電力が大幅に上昇。意識的に放電することが出来るようになりました。


---------------------------------------------------------------------

 



 触れることでスキルの詳細が見えるのか。

 気が付かなかったな。

 この“接触によって放電される”特性に助けられたってことか。


 はぁっと息をつき、目を瞑りながら天を仰ぐ。

 小鬼の存在にまったく気が付かなかった。

 この世界では油断した者から死んでいくということが身に染みてわかった。

 今回は運よく生き延びることができたが、次はそううまくいくとは限らない。

 何か対策を立てなければ……。


 手に続いて脚に力が入るようになってきた。

 突っ伏した体に鞭を打ち、なんとか立ち上がる。

 急いで頭部の傷口を確認し川の水で洗浄する。

 幸い眉間に出来た傷は浅く、もう血は止まっている。

 傷は残りそうだが、頭痛などはしない。

 こん棒が当たった衝撃で、脳震盪を起こしただけだったようだ。

 小鬼が先程の一匹だけと確認できない以上、ここには長居はできない。

 早く移動しなくては。

 荷物の確認を再度行う。


「あー……。リュックが壊れちまった」


 小鬼の一撃を防御した際に破れてしまったようだ。

 仕方なく、マジックバッグの中に破れたリュックと、周囲に散らばった中身を拾い上げ入れる。

 一頻り準備を終えた洋也は、山の岩肌沿いを、川の流れに沿って下ることにした。


「たぶん、こっちだよな」


 水は生活に欠かすことができない。

 きっと川沿いか、その近くには生活を営んでいる人たちがいる。

 ズキズキと痛む傷を恐る恐る撫でつけながら、川沿いに歩を進めるのであった。





 道中、歩きながら、二度と奇襲を受けないように、いま自分に何ができるか考えた。

 今回はたまたま運よく生き残ることができたが、幸運はそう何度も続かない。

 なにか周囲の状況を確認することはできないだろうか。


(そうだ! 《魔法創造》で探知魔法を作れないかな……)


 ステータスボードで各スキルの詳細を確認する。

 いろいろ調べていくうちにその中でも《魔法創造》は非常に強力で、柔軟性のあるスキルということが分かった。

 ()()()()()()()()()()()()()に《名前》を付けることで、その現象の概念を固定化しスキルにすることができるようだ。


 スキル化に成功した魔法は幾何学模様の魔法陣が発生するようになった。

 たぶんこの魔法陣が俺の代わりにうまくやってくれているのだろう。


 試しに何度か火や風をイメージしながら『ファイアーボール』や『ウィンドカッター』などと唱えてみたが、ウンともスンとも言わず、電気以外の魔法は使えなかった。


 何度か試行錯誤を重ね《魔力操作》で纏めた電力を、魔力で一気に圧電することで電磁波のように飛ばすことができるようになった。

 電磁波には魔力が混じっているため、何となくだがソナーのように周囲の情報を得ることができる。

 これを《探知(サーチ)》と名前を付け、スキル化した。


 《探知(サーチ)》は非常に優秀だった。

 発動中はへそあたりに魔法陣が展開されている。

 常に使いながら、移動していると、レベルが上がり周囲の出来事がだんだんとわかるようにった。

 レベル3になった時点で《探知》できる範囲は、自身を中心に半径五十メートルほどになった。

 これで奇襲は防げるようになったと安心したのも束の間、引き続き川沿いを進んでいると《探知》に魔物の反応があることに気が付いた。


 オオカミのような四足歩行の魔物が三匹ほど、三十メートル程先の草むらの中を移動しているのが分かる。

 腕を前にし、草むらに狙いを付け()()()()()()も唱える。


「……っ雷銃(ボルトバレット)!」


 指先に魔法陣が展開される。

 高密度に圧縮された雷の銃弾が吸い込まれるように飛び、オオカミの魔物の頭部を吹き飛ばす。

 周囲に血液をまき散らしながら、急に仲間が倒れて動揺する魔物に照準を合わせ連続して唱える。


「ボルトバレット、ボルトバレット!!」


 一匹は胸部に、もう一匹は頭部に当たり絶命する。

 終わってみれば勝負は一瞬だった。

 いや、勝負とすらいえないのかもしれない。

 一瞬で、それも一方的に命を奪ったのだから。

 これはもはや蹂躙とすら言えるのではないだろうか。


「っはぁ! よかった。当たった……」


 無事、魔物を倒せたことで安堵するのもつかの間。

 

 ──初めて自分の意志で命を奪った。


 その事実に全身が恐怖で震える。


 スーパーに並ぶ、牛や豚や鳥の肉。

 魚や野菜も簡単に手に入るものだった。


 当たり前に口にしてた食材は、誰かの覚悟の上に成り立っている。

 地球では当たり前に誰かが行っていた行為。 

 何万もの死の上に、俺は立っている。

 

 一方的に命を奪う。


 この世界で生きていくには覚悟が必要だ。

 生きる、生き延びるために、命を奪う覚悟。

 これで正しいのか、まだ判断が付かない。

 

 だけど、自分の死を明確に感じた時、これだけは分かった。

 この世界では『殺らなければ、殺られる』のだ。

 ここはゲームの世界ではない。

 本物の弱肉強食の世界なのだ。

 

 しばらくその場にへたり込み、ぼんやりと空を眺めていた。

 自分の中にあるこの何か(・・)が消化できるまで。

 

 その後も《探知(サーチ)》を使い、地形の確認と魔物の存在を確かめながら進む。 

 何度か狼の魔物に遭遇するも《探知》と《雷銃》で遠くから一方的に倒していく。

 倒す旅にちくりと胸が痛む。

 

 幾度かの戦いを経てわかってきたことがある。

 どちらも魔力と電力を込めれば込めるほど、探知範囲や威力射程などが増えるということ。

 試しに電力と魔力を少し多く込めて撃ってみると、普段より大きい魔法陣とバスケットボールサイズの雷球が現れ、バズーカ砲を撃ったかのような衝撃と轟音を響かせながら木々をなぎ倒し、地面をえぐるようにして爆発した。

 

 (………………)


 誤射すれば自分自身も巻き込んでしまいそうなので、普段通り大きめのビー玉サイズで運用しようと心に誓った。

 しばらく電力を球体以外に形態変化にする練習をしながら川沿いを進んでいくと、ようやく森を抜けることができた。


 森を抜けても川は続いており、川に沿って続く道と、森に沿って人の手が入ったような道を見つけた。

 森沿いの街道か、川沿いの街道か、どちらに進むか迷っていると《探知》スキルに複数の反応を捉える。


「何だ……?」


 複数の反応が、別の大きな反応を取り囲むようにして存在している。


 木々に紛れながら慎重に近づいていくと、半日前に襲われた小鬼(ゴブリン)と同じ灰色の肌の小鬼が4匹、倒れた馬車、それを守るように立ち塞がる軽鎧の短髪の剣士。

 四匹の小鬼達は剣士を半円状に取り囲んでいる。

 周囲には、彼が倒したのであろう3匹の小鬼が地に伏せており、剣士は半ばから折れた剣を必死に前に突き出し、残りの小鬼を威嚇しているようだ。

 仲間が殺されたからか、醜悪な形相をさらに歪ませ、小鬼達は怒りの声を上げている。


 剣士をよく見ると後ろに人を庇っているようだった。

 茶色い髪をサイドテールで纏めている軽鎧の女性が、馬車を背に寄りかかる形で倒れている。

 目を閉じて動かないが、胸の動きから呼吸をしていることは分かった。どうやら気絶しているようだ。

 その女性を、白いローブを着込み頭にターバンを巻いた中年の男性が手当てをしている。

 しかし女性の手当てをしながらもきょろきょろと視線を周囲に流しては、目に飛び込んでくる状況に絶望しているようだった。


(……どうする? 行くか?)


 小鬼達は今にも剣士に飛びかかろうとしている。

 いっせいに攻撃されれば、あの剣士はあっと言う間に殺されてしまうだろう。

 それを俺は黙って見ていられるだろうか。

 いや、見ていられないし、見たくもない。


 両手から汗がにじみ出てくる。

 地球(あっち)にいた時は、いつも後悔してばかりだった。

 母ちゃんのことだってそうだ。

 あの時、あぁしていれば……。こうしていれば……。

 母ちゃんは死なずに済んだんじゃないか。

 俺は、いつも、後になって、手遅れになって、初めて気が付く。

 もう、そんな自分は嫌なんだ。

 見える範囲でもいい。

 手の届く範囲でもいい。

 守れるものは守りたい。

 今の俺には、それだけの力がある。


「やらずに後悔するくらいなら、やって後悔してやる……」

 

 そう口にした途端、決意の炎が心に宿る。

 覚悟を決めた。

 この世界で生きていく以上必要になる、命を奪う覚悟。

 甘ちゃんだってのはわかってる。

 そのくらい当たり前だろ。弱肉強食だ。

 殺られる前に、殺っちまえ。

 自分にそう言い聞かせるように両手を前に突き出し、それぞれの手に魔力と電力を集める。


「ボルトバレットォォォ!」


 魔法陣が展開された両腕の指先から、青白い稲光を発しながら雷の弾丸が打ち出された。

 見事に小鬼二匹の頭部を捉え、醜い顔面を爆散させる。


 魔物は残り二匹。

 小鬼達は、いきなり仲間の頭部が吹き飛んだことで慌てて周囲を見回した。

 軽鎧の剣士は一瞬唖然とするが、意識を引き戻し小鬼に対峙する。


 右足に力を込め走り出す。

 身体が軽い。

 五十メートルほどあった距離が数秒で縮まる。

 右手に魔力を集め、練習した形をイメージしスキルを発動する。


雷槍(サンダーランス)!」

 

 スキルを唱えると右腕の掌に魔法陣が展開される。

 魔法陣からは高密度の雷で出来た突撃槍が出現する。

 柄の部分を握りしめ、突撃槍を前方に構え、勢いのまま小鬼の胴体を貫く。

 肉が焼ける音とともに、小鬼が雷の槍に突き抜かれ煙を上げる。


 小鬼からしてみると、いつの間にか仲間が何かで貫かれている。

 何が起きているかわからなかったが、このままでは死ぬ。

 そう思った最後の1匹は戦慄し、慌てて逃げ出すそうとするが、それを逃がすはずもない。


 小鬼は、背後より射出された《雷銃(ボルトバレット)》によって頭部を失った。

 あとに残されたのは首のない小鬼の死体が数体と、それを呆然と見つめる剣士の姿だった。

誤字脱字、感想などお待ちしております。

面白いと思って頂けたら評価、ブックマークよろしくお願いします。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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