46話 静電気と魔法
「なるほどのぅ……」
俺が自身のスキルと魔法の説明をした後、ソーンナサラム魔術学校の校長であるオンブリックは、天井に目を向けたまま動かなくなってしまった。
石のような沈黙の後、オンブリックの口から語られた言葉は、俺にとって衝撃の事実だった。
「ベックや、お主のそれ、魔法じゃないさね」
ファ!?
本来魔法とは、体内にある魔力を、発動させたい魔法の属性や形に変換して放つものらしい。
数百年前までの魔法は、魔族や長耳族などの才能ある種族と一部の才覚ある他種族しか使う事ができなかった。
彼等は王族や貴族などの特権階級だけに召し抱えられ、その恩恵を享受する事ができたのは極一部の富裕層だけであった。
しかし、近代魔法の始祖と言われている《原初の魔法使い》は、その現状を良しとせず、誰もが自由にそして簡単に魔法を使える様にと、【属性変換術式】を考案した。
【属性変換術式】の特徴は三つある。
一つ、魔法の属性を決める為の【属性句】
二つ、魔法の姿態を決める為の【変遷句】
三つ、魔法の威力を決める為の【魔力量】
この三つを組み合わせ、決められた語句を呪文として詠唱する事で、適性のある人ならば誰もが魔法を使える様になった。
「火の初級魔法、《ファイヤーボール》じゃったら【属性変換術式】の属性句は【荒ぶる火の精霊よ】じゃな。 次に魔法の姿形を決める変遷句は【我に力を与え給へ】、そして必要な魔力を込めた上で、最後に発動したい呪文の名前を言うのじゃ。 ほぉれ、《ファイヤーボール》」
老婆が呟くように詠唱すると、枯れ枝の様な指先には、爪の先ほどの小さい火の玉が浮かび上がった。
火球のサイズを見ると極限まで魔力量へ減らしたのだろう。
彼女はそれを「ふっ」と、蝋燭の火を消す様に吹き消した。
初級魔法の変遷句は全て【我に力を与え給へ】らしく、その属性にあった基本の形になるようだ。
「初級魔法の他には中級、上級、最上級、超級、神級とあるんじゃが、等級が上がるにつれ、【属性変換術式】の必要な適性や句の長さが変わってくるんじゃ。 人魔戦争後、魔法に秀でた魔族との交流を絶った今では、超級はおろか最上級の魔法でさえ、使える魔術師は少なくなっておるさね。 神級魔法なんぞ夢のまた夢じゃの」
窓の外を見ながら遠い目をする彼女は、日々衰退していく魔法の現状を憂いているように見えた。
【属性変換術式】の適正も個人によって大きく差があるようで、火の初級属性変換しかできない人間もいれば、複数の中級属性変換をできる人間もいる。いくら【属性句】や【変遷句】を覚えたとしても、その魔法に合った適性や、魔法に見合った魔力がなければ発動はしないようだ。
種族間にも格差があり、獣人は総じてあまり魔法を得意としていないようで、そもそも魔法が使えなかったり、使えても一属性だけだったりする事が殆どみたいだ。
因みに、魔族や耳長族といった精霊に愛された種族たちは、複数の属性変換を行えるのが普通で、魔族に至っては光属性を除く残りの五属性を扱えると、人魔戦争に関する事を記した古い書物には書かれているらしい。
「じゃ俺が今まで使っていたのは【魔法】じゃなかったんですね……」
《雷銃》を始めとする俺の魔法は、魔法というよりもアビリティや、スキルの部類に入るのかもしれない。だからこそ詠唱ではなく、スキル名を口に出す事で発動することができたのではと考えられる。
それによく考えてみれば、自家発電した電力を魔力で成型したり、飛ばしてみたりっていう時点で魔法じゃないな、と今更ながらに気がつくのだった。
「常識と照らし合わせると、というところさね。 魔力を使っている以上、ある意味では魔法と言えるのではなかろうかね……多分ね」
多分って何だよ……。
「あの……俺も普通の魔法を使うことができるんでしょうか?」
「さぁ……? 適正次第じゃないかね。 試してみるかい?」
オンブリックはそう言って立ち上がると、彼女の背後にある本棚から紫色に淡く光る、握り拳程の丸い水晶を取り出してきた。まるで占い師が占いで使う様な水晶玉だ。
この紫色の淡い光には見覚えがあった。
ボラルスの街で冒険者登録した際に触れた魔魂板と同じ光だ。
「手を置いてごらん」
言われるがままに手を置く。
すると紫色の淡い光だった水晶玉が、一瞬だけ強く発光し、次第に元の光に戻っていった。
オンブリックは水晶玉を覗き込み、「なんと……」と驚いて眼を白黒させた。
彼女の目には何かを躊躇う様な、明らかな困惑を感じる。
しばらく押し黙っていたが、意を決したようにゆっくりと口を開いた。
「……お主……異世界人じゃったか……」
「は?」
「隠さんでもよい。誰にも言いやしないさね」
おいおい、ちょっと待ってよ。
さっきの水晶玉ってどこまで見えてるわけ?
「なんで……わかったんですか?」
「ほれ、あたしゃにはこれが見えておるのじゃ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前 別宮洋也 年齢 27
職業 B級冒険者 魔物調教師:魔界草変異体
身分 ―――
能力値 Lv63
【体力】B+
【魔力】A+
【筋力】B+
【敏捷】S
【頑丈】B
【知性】G
【ユニークスキル】
静電気Ex(MAX) 魔法創造
【パッシブアビリティ】
異世界言語 体質強化 魔力操作Ex(MAX)
【アクティブアビリティ】
放電Ex(MAX)魔法:雷銃Ex(MAX) 魔法:雷槍Lv4 魔法:雷装鎧Lv3 魔法:電弧放電Lv2 魔法:神の裁きLv1 魔法:局部破壊放電Lv1 身体強化魔法:極限集中状態Lv1
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
オンブリックが指をひょいっと振ると、見慣れたステータスボードが俺の眼の前に滑り込むように展開された。
「まさか、これと同じものが見えているんですか?」
「そのまさか、じゃ。 魔魂水晶は冒険者ギルドに設置されている魔魂板より遥かに多くの情報を得られるものでの。 《異世界言語》はアキラ=ハカマダも持っていたスキルじゃ。 あの色狂いはニッポンという国から来たといってたねぇ」
やっぱりそうだったか。
これでアキラ=ハカマダもとい、袴田昭は日本人ということが確定した。
後は実際にあって顔でも見れば、より確実にあいつかどうか判断できる。
「そうじゃ。 因みに、お主は【知性】G じゃから、魔法を使うことはできないぞい。残念じゃったな」
チクショウメエエエエエエ!!!




