44話 静電気とイキリ小僧
俺と花ちゃんはヌウォル村を出た後、ムエスマ大森林を北上し、宿場町ギベニューで旅の為の食料品などの買い込みをした後、再び魔法都市ソーンナサラムへと足を向けていた。
『いやーギベニューでは大変な目にあったねぇ』
『パパが外套を取らなかったからだと思うよ? 自業自得だよ!』
うぐぐ。
最近花ちゃんが冷たい。
幼い受け答えが印象的だった花ちゃんとの会話が、少しずつ変わっていっていた。
花ちゃんのユニークスキル《賢者》の中にはおっさんがいるらしく、おっさんのお陰というか、おっさんのせいというか、近頃の花ちゃんは会話の受け答えが上達し、その知識量が日に日に増えていってるのだ。
ちょっと前までは『パパー! お腹すいたー!』ばっかだったんだけどなぁ。
そのうち《賢者》のおっさんが「花子はワシが育てた」とかいって来そうで怖い。
『衛兵さん達『ミノタウロスだあぁぁぁ!』って大騒ぎだったじゃん!フラウおねーちゃんが来てくれなかったら大変な事になってたんだからね!』
ペチペチと俺の頬を蔓で叩いてくる。
どうやら怒っているようだ。
『だからごめんなさいって謝ったじゃないか』
『牛頭人王の頭衣の外さずに、「わっ!」って大きな声出すからだよ! 鱗の鎧じゃなかったらパパの首から上は無くなってたと思うよ?』
俺の姿を見た時のフラウの顔を思い出すと今でもゾッとする。
だからって問答無用で《ウィンドカッター》を首筋に撃ち込んで来るなんて思わないじゃないか。
『だって花ちゃん見たらわかると思ってたんだもんよー。ちょっとばっかし、いたずら心が出ちゃっただけじゃないか』
『パパ……全然反省してないね……』
『それにしても、フラウさんの魔法が当たっても傷一つ無いのが凄いよなぁ』
『確かに凄いけど、誤魔化そうとしないで! パパはもっと反省してください!』
バレたか。
花ちゃんの成長が眩しいなぁ。とても眼に沁みる。
それにしても、娘に怒られる情けない父親の図が完成しつつあるな。気をつけないと。
花ちゃんに嫌われたくないもんね。
そのうち足臭いとか一緒に洗濯しないでとか言われちゃうんだろうか。服は着せてないけど。
『そういえばフラウさんが、「魔法都市はギベニューから馬車で三日」って言ってたけど、今はどの辺なんだろうね」
お昼頃出発したはずだが、花ちゃんの移動速度が速過ぎて、いまいち距離感を掴めないでいる。周りの風景はまるで電車に乗っているようにコロコロ変わるし、いつのまにか森も抜けて草原地帯に入っているようだ。
『もう少しで、『ロテックモイの逆さ塔』だよ。そこを過ぎたら馬車で半日程で魔法都市ソーンナサラムに着くみたいだよ』
『それもおっさんが言ってるの?』
『おっさんじゃないよ!《賢者》さんだよ!』
『お、おぉそうか……』
おいおい、この間までおじさんって言ってたじゃねーか。
このままだと本当に花ちゃんが俺から離れて行ってしまいそうだ。
ぜってー《賢者》のおっさん、今ほくそ笑んでるだろ。
こんちくしょーめ!
花ちゃんは渡さんぞ!
『ほら!見えて来たよ!あれが『ロテックモイの逆さ塔』だよ!』
花ちゃんに言われ、前を見てみると何とも不思議な光景が目の前に広がっていた。
なるほど。通りで《逆さ塔》って言うわけか。
地上から百メートル程上空には巨大な岩が浮いており、その巨岩から地面に向かって、中世西ヨーロッパの建築様式であるロマネスク建築の有名な鐘楼堂、ピ○の斜塔にそっくりな建築物が建っていたのである。
(なんだよ、あの浮いてるでっかい岩。青く光ってないし、ただの岩に見えるけど、飛○石かなんかか? 女の子でも降って来そうな迷宮だなぁ)
『花ちゃん、パパちょっと興味あるから、寄ってみてもいい?』
『うん! 花ちゃんもちょっと興味ある! でもちゃんと牛頭人王の頭衣は外すんだよ?』
『了解です!』
五十メートル程手前で蔓作りの馬を解除してもらい、歩いて塔に近寄る事にした。騒ぎになっても困るからね。
塔の周囲は数件の宿屋や商店などで賑わっており、冒険者や商人の話し合う声が其処彼処から聞こえてくる。
《ロテックモイの逆さ塔》をよく見てみると、地面に近い塔の屋上にあたる部分が常に上下しており、塔が逆さまの状態でふわふわと浮き沈みしているのがわかる。完全に地面にはついていない様で、地面と建物の屋上には三十センチ程の隙間があるのがわかる。
それはまるで押したら動いてしまいそうな、空気の抜けた風船の様な動きをしていたのだった。
◇
しばらく、露店や商店を見てみたが、気になる様なものはなかったので迷宮に入ってみる事にしたのだが、その迷宮の入り口では何やら衛兵と、四人の女の子を連れた青年との間で揉め事が起きている様だった。
「おい!なんで僕たちはこの迷宮に入っちゃいけないんだ!」
怒鳴っている青年の身長は170センチ程、体型はガッチリとまでは行かないがそれなりに鍛えている印象で、周りの女の子たちと一緒の白と紫色のローブを着ている。腰には赤色の宝石の様な石がついた杖を指しており、頭髪の色は燃える様な赤。
悔しいが顔はイケメンだ。リア充くたばれ。
「ですから、魔術学校の生徒さん達は冒険者資格をお持ちではないですよね? でしたら冒険者資格を持った人の同行がないと迷宮には入る事は出来ないという決まりですから……」
「なんだと! この僕を誰だと思ってる! 僕はナウソラエ辺境伯の息子、コスムカバ=ナウソラエだぞ!」
「そんな事言われましても……規則は規則ですから……」
おーめんどくさそうな事やってんなー。
衛兵さん、ご苦労様っす。
てかこいつら魔術学校の生徒かよ。
親の肩書き使って我を通そうとするなんてみっともない奴。
触らぬ神に祟りなしっと。
絡まれないうちにさっさと迷宮の中に入りますかね。
衛兵に声を掛け、中に入ろうとした時「おい!そこの冒険者!」と、先程から衛兵を怒鳴りつけてるコスムカバという青年に声をかけられた。
勿論俺は関わり合いになりたくないので、無視を決め込んで中に入ろうとしたのだが、その青年は俺の目の前に立ち塞がり「お前が同行しろ」と非常に高圧的な態度でもって接して来たのだ。
「何故私が同行しないといけないんですか?」
辺境伯って言ってたよね。
一応偉い人の息子っぽいから下手に出ておく。
元サラリーマンの性だねこれは。てへぺろ。
「礼はする。中に入るまでで良いから、そこまで同行しろ。おい衛兵、それなら文句はないだろう?」
衛兵はさっさと厄介払いをしたいのか「それなら良いですよ」ときたもんだ。
「まぁ、中に入るのを手伝うだけなら……」
それだけなら何も問題は起きないよな。
「じゃあ契約成立だな。衛兵!さっさと案内しろ!」
そんなこんなで、《ロテックモイの逆さ塔》にイキリ小僧である、コスムカバ一行と入る事になったのであった。




