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42話 静電気と皮革職人 ③

 

「作るもの、決まったのか?」



「はい。ライラの勧めもあって、盾を作ってもらおうかと」


「盾か。いいんじゃないか? しかし盾なら俺の仕事はあまりないな。明日にはミダスもここに到着するから、そこで頼んでみるんだな」



「あれ? そうなんですか? じゃあバルガスさんに作ってもらえるのは、サイドポーチとスケイルメイルだけってことですか?」



「いや、それもちっと違うな。サイドポーチや外套は俺の仕事だが、スケイルメイルは俺とミダスとの合作になる。俺は皮を鞣すことはできても、竜鱗の加工はできないからな。その辺のことはシフロム族のほうが優れてる。まぁ今日には皮も剥ぎ終わるからお愉しみは明日ってこった」



 そう言うとバルガスは引き続き作業に戻っていった。



 作業は残すところ、尻尾と翼の部分のようだ。

 先に尻尾から作業するようで、例の如く肛門から尻尾の先まで鱗を避けつつ切り込みを入れ、肉と皮膚の間に刃を滑り込ませるようにして皮を剥がしていく。



 バルガスと周囲で森林虎の毛皮を剥がしている職人達との違いは、素人目に見てもはっきりとわかるものだった。



 皮膚の下には脂肪があり、その下に筋肉があるわけだが、バルガスの隣で作業していた職人が剥がした森林虎の皮膚には、白い脂肪や肉が所々付いていたり、逆に削ぎすぎて皮膚が薄くなってしまっているところがあったりと、皮膚の厚さは一定ではなかった。



 一方で、今しがたバルガスの剥がした飛竜の尻尾部分の皮膚には一切の脂肪がついておらず、かと言って削ぎすぎのところもなく、常に一定の厚さで皮が剥がされていた。こういうところが熟練の職人のなせる技なのだと思う。



「盾を作るんなら、骨や翼の加工はミダスに頼む事にして、翼の取り外しだけやっちまうか」



「翼と骨で盾って作るんですか? 俺はてっきり木の板かなんかに鱗を貼り付けていくのかと思ってましたよ」



「そういう作り方もあるが、飛竜の骨は木材より硬くて軽い。更には柔軟性もある素材だからな。使わないと損ってもんだ。翼の部分の骨は特に頑丈で柔軟性があるからな。まるまる使って盾を作るなんて贅沢な使い方と言えるだろうよ」



 話しながらも尻尾の皮をあっという間に剥いでしまったバルガスは、翼の部分の作業に入ろうとしていた。



 飛竜の翼は腕と一体になっている。イメージ的には地球にいた太古の生物、恐竜の一種であるプテラノドンに近い見た目と言える。勿論そんなものは図鑑でしか見た事ないが、それが一番わかりやすい例えだと思う。



 皮膚と一緒に翼も切り離す為、肩を関節の根元から、筋肉、筋、鎖骨、軟骨の順番に切り離されていく。



 これで飛竜の翼が付いたままの状態の皮膚が、全て剥ぎ取られることとなった。



 皮を剥ぎ終わる頃には、既に陽が傾いて来ており、村中に動物の脂肪で作られた蝋燭が点り始めた。



「後は皮の内側に残ってる皮膜と脂肪をできる限り取り除いて、塩を塗り込んだら今日の作業は終わりだな。しかしこんな良い状態の飛竜のを丸ごと剥ぐことができるなんて、なかなか出来る経験じゃねぇな。ありがとうよ」



 偶に飛竜などのあまり解体する機会のない魔物が運び込まれてくるそうだが、傷が多かったり、腐ってたりすることが大半らしい。



 その場合はどんなに丁寧に鞣したりしても、傷の部分が穴になってしまったり、腐ってた部分にくぼみが出来たり、変色してしまったりと、綺麗に鞣すことが出来ないそうだ。



「いえ、俺の方こそありがとうございます。また明日もお願いします!」






 ◇






 翌日も朝食をとった後は、作業場での見学が始まった。

 陽が昇り朝靄も晴れ始めた頃、ミダス率いる数人のシフロム族の面々がヌウォル村に到着した。



 バルガスが皮を剥がした解体場の外には、彼らが持参した様々な道具が広がっていて、その道具一つ一つを見るだけでも楽しい気持ちになってくる。



「わざわざ来ていただいてすいません。ミダスさんにはスケイルメイルに使う鱗の加工と、盾の製作をお願いしたいのですが」



「勿論です。私たちシフロム族は貴方に大きな借りがある。それにこれは正当な報酬です。何か要望がありましたらなんでも言ってください」



 俺の手を力強く握ってくるミダスの顔はやる気に満ち溢れているようだ。



「バルガスさん! スケイルメイルについて三人で話し合いたいと思うんですが、時間あります

か?」



 複数の職人たちと、飛竜の皮膚を物干し竿のようなものから降ろしている最中のバルガスに声をかけると「ちょっと待ってろ」という返事が聞こえてきた。



 それほど時間もかからず、作業場から出てきたバルガスと、ミダス、俺の三人で話し合うことにする。



「飛竜の素材はどれも軽くて頑丈だ。肩当て、胴鎧、手袋、腰巻、長革靴とか色々あるが、全身を包むような防具にしたとしてもそこまでの重量感は感じない筈だ。アンタはどの部位を作って欲しいんだ?」



「基本的に頭部以外の全身鎧がほしいと思っているんですが、手袋の部分だけは手甲にしていただきたいんですよね。俺の魔法はそこがふさがっちゃうと極端に発動しにくくなるので」



「そうか。皮の鞣しは俺が受け持つが、竜鱗の加工はミダス、お前に任せるぞ」



「では、尻尾の部分の皮を頂いても? 尻尾の竜鱗を剥がして一枚ずつ加工させていただきます。手甲の部分や細かいところは任せてください。後は盾が必要だと伺っております。そちらのほうもお任せください」



「翼が一対あるぞ。尻尾の皮も渡すから作業場まで頼む」



「後で伺います。ベックさん、盾に関しては何か要望はありますか?」



「うーん。正直言ってどんな形状があるかとか、どういうものがいいとか、そういうのが全くわからないんですよね。逆に聞きたいくらいですよ」



「そうですね。盾の形は色々ありますが、それぞれ役割が違います。丸盾は受け流すのに有利ですが、小型になりやすい為、足元などの防御は不得意です。逆に長方盾は受け流しも足元も防御出来ますが、大型な為取り回しが非常に不便です。他には――」



 ミダスからその後も、色々な話を聞いて散々迷ったが、最終的には六角形の二辺を長くした長方盾の形に落ち着いた。



 ライラにはサイドポーチの、バルガスには外套についての要望を伝え、《牛頭人王の頭付き黒毛皮》を渡しておいた。



 その後二人は黙々と作業を続け、全ての装備が出来上がるまでには一週間ほどの時間がかかった。



「ちっと時間がかかっちまったが、俺の人生の中で最高の出来の装備が出来たな」



「私もです。丸々一匹分の飛竜がここに凝縮されているように見えます」



 バルガスもミダスも満足げな顔で、出来上がった装備を見ている。



 二人に呼び出され、作業場の中に入った俺の目の前には漆黒の装備達が置かれていた。



「これが、今俺たちに作れる最高の装備達だ。受け取ってくれ」



 岩山の迷宮で倒した、《牛頭人王の頭付き黒毛皮》は四本の角が生えた頭部兜に、腕の部分は肩に掛かるような形状をした外套になり、内側には何やら魔法陣の様なものが描かれた飛竜の革が縫い付けられている。



 黒光りする飛竜の竜鱗と皮膚は、見事に俺の全身を覆うスケイルメイルへと仕上がっていた。関節部分などは可変しやすいようにだろうか、尻尾から剥がした竜鱗同士を細く切った鞣し革で繋ぎ合わせ、チェインメイルの様な作りに、そして要望通り手の部分は手甲になっており、魔法の発動を阻害しない作りになっている。



 六十センチほどの大きさの盾は、その強度もさる事ながら、左の手甲部分に取り付けられるようになっており、携帯性も抜群だ。



 ライラが細工したサイドポーチも要望通りの出来で、鎧と同じく、飛竜の竜鱗と革で出来たサイドポーチは、ベルトを差し込めるようになっている。これならば落として紛失することもないだろう。



 今のテンションなら自分のことを暗黒騎士ベックと、画像付きで某アプリを使い呟いていたかもしれない。



 それ程満足できる装備達だった。



 当初の目的だった装備も手に入り、次は本格的に魔法を学ぶために、いよいよ魔法都市ソーンナサラムに向かうことにする。




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