3話 静電気とスキル ①
「ようやくわかってきたなあ」
パチパチと枯葉や小枝が炎を上げて踊り、暗くなった周囲を明るく照らす。
今俺は、夕食の確保のため、数時間前に確保した魚の下処理をしている。
落ちていた鋭い石で魚の腹を裂く。
この時、魚の肛門らへんから切り込みを入れると、あとは指でも簡単に裂ける。
やり始めこそがなかなか難しかったが、要領がわかり、慣れてくると簡単なものだ。
川の水でよーく内臓を洗い流した後は、持ち手を作るため、拾った細い枝を突き刺す。
魚に火を通す為、若干角度をつけて地面に突き刺し、倒れないように小石で補強する。
しばらくすると、肉汁がジュウっと音を立て滴り落ち、香ばしい食欲をそそる香りが漂ってくる。
魚の皮が香ばしく焼け、眼が白く濁ってきたら食べ頃の焼き加減だ。
川での大放電から数時間、試行錯誤の結果、自身のスキルを使用し火を付ける事が出来るようになった。
胸に意識を集中して、半透明なガラスでできたような板を呼び出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前 別宮洋也 年齢 27
職業 ―――
身分 ―――
能力値 Lv44
【体力】C
【魔力】B
【筋力】C
【敏捷】A
【頑丈】C
【知性】G
【ユニークスキル】
静電気Ex(MAX) 魔法創造
【パッシブアビリティ】
異世界言語 体質強化 魔力操作Lv3
【アクティブアビリティ】
放電Lv2
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんかめちゃくちゃレベルが上がってるんだよなあ」
俺は便宜上、これをステータスボードと呼ぶことにした。
一番最初に見たときはレベルも1だったし、《静電気》のレベルも1だったはず。
思い当たる節というと、洞窟で爆発の直後に苦しくなったこと。
あの爆発で恐らくだが、肉体の変化が起きるような出来事が起きた。
(まさかあの洞窟に生き物がいたのか……?)
恐らくだがゲーム的に考えると生き物を倒し、経験値を得た。
そういったことじゃないかと推論した。
ステータスボードを見ながらいろいろ試していると、意識的に静電気の放電現象をコントロールできることに気が付いた。
《静電気Lv1》の時は意志とは関係なく発生していた静電気が、どうやらレベルが上がった影響か、電気のスイッチを付けたり消したりするように放電するようにできるようになった。
「……放電」
指先に意識を集中すると。
チチチチと細かく鳥が鳴くように指先で放電現象が起こる。
それを体全体へ徐々に広げていき、徐々に出力を高めていく。
電力が全身を包み込むと同時に、スーツの裾に火が付いてしまった。
慌てて消し止める。
(あっつ! くっそーまたやってしまった……)
指先に留めるだけならまだ制御できる。
だが、全身に纏うとなると、体に痺れや痛みなどの影響はないのだが、服に引火してしまうのだ。
すでに四肢の裾は焦げてしまっている。
意識的に静電気を制御しようとすると、小さく不規則に放電されていた静電気に指向性を持たせることが出来る事に気が付いた。
どうやらこれにはパッシブアビリティの《魔力操作》が関係しているようだ。
2時間前には《魔力操作Lv1》だったのだが、静電気を、ある程度動かせるようになった時に確認すると《魔力操作Lv3》に上がっていた。
練習すればするほどレベルがあがり、できることが増えていくかもしれない。
明確なイメージを持って静電気を操作した時、アクティブアビリティとしてスキルが発生した。
初めに指先に意識を集中した際に発生したのは《放電》というスキルだ。
まだ数回しか成功していないためレベルが上がっていないが、使い込むことでいろいろと出来るようになりそうだ。
もしかしたら服を燃やさずに放電することができるようになるかもしれない。
(良い匂いだ……)
焚火のほうから漂う香ばしい匂いに引き寄せられ、無意識にそちらに顔を向ける。
どうやら先ほど捕った魚が焼けたようだ。
ふっくらと焼きあがった魚を口いっぱいに頬張るとじゅわっと濃厚な川魚のうまみが味覚を刺激する。
味付けなんか何もしていなくても、ただただうまい。
命を噛み締めるかのようにゆっくりと咀嚼していく。
(こんなにうまかったんだな……)
改めて食事ができることへの幸せを感じた。
(さて……これからどうするか)
考えがまとまらないまま時間だけが過ぎていく。
昼間とはうって変わって森は静まり返り、どこからか聞きなれない鳥の鳴き声がする。
仄暗い木々に囲まれたこの状況で移動するのは危険だが、かと言ってここで安心して休めるかと言ったらそうではない。
ここは、いつ襲われるかわからない異世界なのだ。
チチチチチと指先で放電する。
こんな状況で寝れるわけもなく、自身のスキルの使い方をいろいろな方法で試していく。
放電した電気に形を持たすことはできないか試してみる。
まず放電した電気を《魔力操作》によって成型できないか確かめる。
《魔力操作》のおかげかどうかはわからないが、手に意識を集中すると暖かい膜のようなものを知覚することができた。恐らく、これが魔力だと思う。
指先で放電した電力を魔力で包み込むように意識する。
四方に散っていた電気が次第に丸みを帯びていく。
気を抜くと電力が弱くなりすぎたり、魔力が弱すぎたりで、なかなかバランスをとるのが大変だったが、何度か失敗して、ようやく青白く放電する丸い球体を作ることに成功した。
(これって飛ばせないかな)
近くにあった大きめの岩にふっと軽く指を振り、雷球を飛ばせないか実験する。
電気で出来た球体はふよふよとゆっくり進み、岩に届く前に拡散して消えてしまった。
(次は込める電力を上げてみるか……)
先ほどはビー玉くらいの大きさの電力で試してみた。
次は野球ボールくらいの大きさにしてみよう。
同じように球体に成型し、同じ的に飛ばしてみる。
(あれ? さっきより飛ばなかったな……)
結果は最初の飛距離の半分以下になってしまった。
その後何度か同じように検証を重ねてわかったことがある。
放電した電気に形を持たせるには、その強さによって消費する魔力に差が出ること、より大きいサイズの電力球体を作るためには、それ相応の魔力が必要になってくる。
より大きい電力を成型するほうが疲れやすく、電力の差によって必要な魔力が変わってくるようだ。
魔力が数値化されているわけではないので具体的な魔力の消費量はわからないが、電力を球体にするときの疲労感でそう判断した。
次に遠くに飛ばすにはどうするか、これにも魔力を消費することが分かった。
飛ばすときに魔力で射出するイメージを作る。
つまり電力の球体をピストルの弾に見立て、魔力という火薬で打ち出すイメージだ。
より遠くへ飛ばすためには多くの魔力を消費するようだ。
サッと人差し指と親指で銃のような形を作り、魔力と電力を込め電力を丸く成型する。
それを維持したまま、球体と指先の間に魔力を込め、爆発させることで射出する。
それからはただひたすら、RPGで言うレベル上げをするかの様に、球体を作っては的に向かって飛ばし続け、20mくらいまでなら当てられるようになった。
(これじゃあまるでレ〇ガンだな……)
昔見た漫画を思い出し、にやりと笑う。
この攻撃方法に名前を付けたくなった。
攻撃するときのイメージは大事だ。
さすがにレ〇ガンは何となく嫌だったので《雷銃》と名付けることにした。
名付けた直後、体に魔力がなじむような感覚がした。
考えを確かめるように腕を前に構え、再度打ち出す。
「……雷銃」
指先に魔法陣が展開され、今までとは比較にならない威力の雷の弾丸がまるで銃声のような破裂音を上げ指先から射出された。
標的だった石は木っ端みじんに吹き飛び、洋也は思わずステータスボードを確認した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前 別宮洋也 年齢 27
職業 ―――
身分 ―――
能力値 Lv44
【体力】C
【魔力】B+
【筋力】C
【敏捷】A
【頑丈】C
【知性】G
【特殊能力】
静電気Ex(MAX) 魔法創造
【パッシブアビリティ】
異世界言語 体質強化 魔力操作Lv4
【アクティブアビリティ】
放電Lv3 魔法:雷銃Lv1
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(おぉ……。アクティブアビリティに《魔法:雷銃》が増えてる……)
もしかすると、これが《魔法創造》の効果かもしれない。
もう一度撃ってみる。
やっぱりそうだ。
今までは意識しないとできなかった電力の圧縮や射出が意識しないでもできる。
この魔法陣がコントロールしてくれているのかな。
もっと他に魔法を作れないか試してみようとしたが、周囲が明るくなってきていることに気が付き、ひとまず移動しようとリュックに手をかけた。
――その時だった。
「ギガアア!」
ガサリと背後の草陰から、子供くらいの大きさの醜い人型のモンスターが木製のこん棒を振りかぶり、大声を上げながら物凄い勢いで走ってくる。
(なんだあれ!? ゴブリンか!?)
突然の出来事に驚愕しつつも、間一髪で持っていたリュックを盾にすることが出来た。
その衝撃でのけぞりながらも、なんとかゴブリンから距離を置くことに成功する。
が、持っていたリュックは破れ、中身が其処かしこに散乱してしまった。
(くそっ!)
破裂しそうな心臓の鼓動を感じながら、洋也はこの異世界に来て初めての恐怖を感じていた。
赤い小石が爆発しそうな時は、焦りの感情のほうが大きくそれは恐怖ではなかった。
しかし、目の前にいる灰色の肌をしたゴブリンのような生き物は明らかに殺意を持ってこちらに向かってきている。
明確な殺意を全身に感じた時、全身に力が入らなくなり膝の力が抜け、尻もちをついた。
俺は恐怖で腰を抜かしたのだ。
やばい。
やばい。やばい。
やばい。やばい。やばい。
まじでやばい!
このままじゃ死ぬ‼
咄嗟に腕をゴブリンに向け、唯一持っている攻撃手段である《雷銃》を唱えようとする。
「ボルトバr…ッ!」
突如、目の前に影が現れ、ガッという音と共に頭部に衝撃を感じる。
額からの出血を感じると共に意識が朦朧とする。
自分の体が重力に引っ張られ、前のめりに倒れるのがわかった。
洋也は思わず死を覚悟した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
岩小鬼はずっと観察していた。
洞窟で爆発が起きた時、この岩小鬼は洞窟の入り口で見張りをしていた。
急な爆発に驚き、森に逃げ込んでいたのだ。
その後しばらくして洞窟の近くに戻ってくると、焚火をしながら大きめの岩に向かって光を飛ばしている人間を見つけしばらく様子を見ていたが、確信した。
こいつがあの爆発を起こしたやつだ。
それからはずっと人間が何をしているかずっと観察していた。
人間が寝るまでじっと待ち、寝込みを襲おうと考えた。
しかし洋也は結局朝まで寝なかった。
仕方なく、岩小鬼はその場を一旦離れようとした時、人間が荷物に注意が行き、こちらに背中を向けた。
ゴブリンは狡賢い。
だからその一瞬を見逃さなかった。
今だ、と思った。
しかし人間はこちらに気が付き、大きな袋で防がれてしまった。
だが、人間はもう何も持っていない。
すると人間が腕をこちらに向けてきた。
何時間もずっと人間のことを見ていたから、すぐに何をするか分かった。
あの光が飛んでくる!
咄嗟に、手に持ったこん棒を投げつけた。
見事人間の頭に当たり、崩れ落ちる様を見た時、岩小鬼は醜悪な顔面に恍惚な表情を浮かべ勝利を確信した。
欲望のままにとどめを刺そうと倒れた人間の首に、黄ばんだ鋭い牙と突き立てようとしたその時――。
今迄に感じたことのない激しい衝撃が体を貫き、自分が焦げる嫌な臭いを嗅いだ。
意味が分からなかった。
いったいなぜ。
コイツに仲間はいなかった。
肉にありつけるはずだった。
自分こそが勝者のはずだった。
岩小鬼は力なくどさりと崩れ落ち、二度と起き上がることはなかった。
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