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36話 静電気と新魔法


 

 山岳地帯に飛竜がまた住み着かないよう、飛竜の巣穴を《雷銃》で崩し、俺たちは馬の足跡と荷車の車輪の後を追って、もう間も無くシフロム村まで着く、という所まで戻ってきていた。



「やっぱりシフロムの村まで続いてましたね」



 足元に見える車輪の後を見ながらバルガスに話しかける。



「あぁ、恐らくすべての飛竜をこの村に押し付けるつもりだったんだろうな。アンタが倒したのは三匹だけってことは巣穴の数から考えると、まだ三匹はいたはずだ。飛竜は基本的に番で巣作りするからな。それがいねぇってことは今頃密猟者は、三匹の飛竜達に追っかけまわされてるってことだ」



「だとしたら、もし仮にですよ? 進行方向に村があったら危険じゃないですか?」



「いや、この先には五氏族の村はない。知っての通りヌウォルは東側だし、ラフクイは北側、セイヌス南側、ポトプスはこの馬の足跡の先だが、村より先にギベニューの宿場町にぶち当たるからな」



 でも五氏族には影響がないとしても、ギベニューって言う町には被害が出る可能性があるって事だよな。



「まぁあそこには《業風》のフラウが居るから飛竜くらいどうってことないんじゃねえかな」



「業風のフラウ? 誰ですか? それ」



「アンタ冒険者なのに《業風》を知らねえのか? フラウっつうのはな、ギベニューの冒険者ギルドのギルドマスターだよ。元A等級冒険者で、耳長族のえらいべっぴんな女だ」



 鼻の下を伸ばしながら、「男だったら一度は抱いてみてえ女だな」と下衆な発言をしている。後でライラにチクってやろう。



 それにしても、耳長族ってもしかしてエルフの事か?

 俺としてはそれだけでも会いにいく価値はあるな。



 町のピンチに颯爽と現れるヒーロー。

 ばったばったと飛竜を倒して!

 素敵!抱いて!ジュンジュワー。

 良し。これで行こう。

 ぐへへ。



「バルガスさん、俺ちょっとギベニュー行ってきます!」



「まさかお前、フラウに興味があんのか?」



 じろりと横目でこちらを睨む。その目にどのような意味が込められているかはわからないが気にしたら負けだ。



「まぁちょこっとそれもありますけど、知ってて見捨てるのは正直言って良い気分ではないですからね」



 これは本心だ。



「もし行って無事だったらそれで良いじゃないですか。無事じゃなかったら、手伝ってきますよ」



 それに飛竜の素材も欲しいしね。



 あの鱗でスケイルメイルとか作ってもらえないかな。黒い竜鱗のスケイルメイル。何とも厨二心を擽られる響きじゃないですか。



 それにヌウォルの村でも、シフロムの村でも食料を提供してしまったから、花ちゃんのご飯がないんだよな。つまり花ちゃんと同じ釜の飯を共にする俺の食料もないって事だ。宿場町なら、食材の調達もできるだろうしな。



「アンタにはまだ報酬を払ってねぇからな。無事に帰って来いよ? 俺はミダスに事の次第を伝えたら、村の連中達と、ライラと一緒にヌウォル村に戻る。全部終わったら村まで来な」



 こうしてバルガスとはシフロムの村の下で別れた。



『パパ、怒ってるの? 悪い人捕まえに行くの?』



 バルガスとの会話を聞いてたのか、珍しく花ちゃんから声をかけてくる。



『そうだよ。シフロムの村を飛竜に襲わせた奴を懲らしめに行くんだ。だから花ちゃん、蔓作りの馬(クリーパーホース)お願いして良いかな?』



『良いよー!』



 花ちゃんの蔓が複雑に絡み合い、あっという間に馬の姿になった。

 さっと飛び乗る。尻にフィットするこの感覚、今日も素晴らしい乗り心地だ。



『じゃあ花ちゃん。この車輪の跡を追いかけてもらっても良いかな? パパちょっとやらないといけないことがあるんだ。何かあったら直ぐに声をかけるんだよ』



『はぁーい!じゃあいくよー!』



 花ちゃんは瞬く間に最高速度に達し、樹々の間を縫うように疾駆する。



(さぁて……。問題の解決方法を探るとしますか)






 ◇






 シフロムの村を出て三時間、木間から漏れる陽の光は巨木によって遮られ、森の中は蒼然とした風景がひたすら続いていた。



『パパ〜! 町が見えて来たよ〜!』



 花ちゃんの一言で、その意識を指先から前方の町へと向けると、そこに見えたのは、町の一角が吹き飛ぶ瞬間だった。



「うおっ!」



 なんだ今の。

 結構まずい状態なのか?


 

 バルガスの話だと飛竜は三匹いるはずだけど、町の上空には、飛竜が二匹しかいない。

 一匹は倒したのかな? それともさっきの爆発と何か関係あるのかな。



 上空の二匹はくるくると旋回しながら、町に向けて火球を落としているようだが、その火球は何かにぶつかったように変形し、空中で爆散していく。



『花ちゃん、今、なんで火球が空中で爆発したかわかる?』



『聞いてみるね! ……うーんとねー、風魔術の《ウィンドシールド》だってー!』



 やっぱりあれは魔法か。

 火球が見えない壁にあたったように見えたのは気のせいじゃなかったか。

 《業風》のフラウって人の魔法かな?



 しっかし、花ちゃんの《賢者》スキルすごいな。

 知らないおじさんの声が聞いたことに答えてくれるらしい。

 今度からわからないことあったら全部花ちゃんに聞こう。



『花ちゃんありがとう! このまま町に向かってくれ!』



『えへへ~。どういたしまして!』



 それじゃあ、新魔法で蜥蜴退治といきますかねえ。



 《雷銃》では飛竜の鱗を貫けないことは昨日の戦闘でわかった。



 なので花ちゃんの背に乗って移動している間、俺は新魔法の開発に時間を費やした。

 魔力操作のレベルもかなり上がっている。

 電力を理想の形に近づけ、そこに威力や精度が上がる要素を継ぎ足していった。



 《雷銃》の弾は完全に球体だった。

 俺はこの球体の形から、先の尖った銃弾の形に電力を成型することにした。



 こうすることで貫通力は飛躍的に向上。

 今までの《雷銃》では吹き飛んでしまっていた森林狼(フォレストウルフ)の頭部は、弾の形を変えることで、頭部の原型を残したまま絶命させることに成功した。



 更に精度を上げるため、銃弾に回転を加えることにした。

 にわか知識であれなんだが、確か本物の銃は砲身にライフリングという溝が掘られていて、その砲身を銃弾が通過することで回転力が加えられ、それにより発生するジャイロ効果で安定した弾道を得られる、という話をFPSゲーをやっているときクランメンバーから聞いた記憶がある。



 凡その形と飛ばし方が決まれば、あとは試行錯誤していくだけだった。

 電力で砲身を作ってみたり、弾の形状はそのままに銃弾の大きさを変更してみたり、記憶にある色々な銃弾の形を試してみたりと様々なことを試した結果、納得のいく出来の魔法に仕上がった。



 もう間もなく射程距離に入る。



 右腕を前に出し飛竜に照準を合わせて魔法を唱える



「《局部破壊放電(エクレール・ナイツ)》」


 

 轟音と共に右腕の雷砲から射出された直径12mmの雷の銃弾は、まるで流星のように空をかけ飛竜の頭部を貫いた。

 


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