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2話 静電気とアルマ

 

 その洞窟には先住者達がいた。

 そいつらは小鬼(ゴブリン)と呼ばれている。

 小鬼は、人間の子供くらいの大きさで肌が緑色をしている。

 大きな頭に小さな手足、でっぷりと突き出た腹、ゲッゲと醜悪な笑いをする餓鬼のような形相の生き物。


 小鬼種は残忍で凶暴。繁殖力は恐ろしく、なんであれ人型の雌であれば、蹂躙し、犯し、孕ませる。


 そこに種族は関係なない。勿論人間も例外ではない。


 昔から、一匹いれば百匹いるとまで言われており、生まれて三週間もすれば立派な成体となる。

 他種族のメスが捕まったら最後、死ぬまで小鬼を生まされ続けるだろう。


 一獲千金を夢見て世界各地を旅する腕っ節の強い荒くれ者たち“冒険者”。

 彼らを管理する各地の“冒険者ギルド”にも、『村の女が小鬼に攫われた』などの捜索依頼が毎日のように来る。


 しかし、その依頼を受けるものは極わずかで、新人冒険者が腕試しに受けるくらいだ。

 貧しい村や個人からの依頼が多く、報酬も少ない。

 冒険者にとっては実入りが少ない。

 実利が少ない分、依頼を受ける冒険者は少ないのだ。


 この洞窟の先住者の特徴は、通常の小鬼とはちょっと違う。

 その特徴とは、肌が緑ではなく崩れた岩肌のような、硬質な皮膚を持っていることだろうか。

 硬い皮膚もあってか物理的な攻撃は効きにくく、魔法がなければ熟練の冒険者でも苦労する手強い相手、小鬼の中でも上位種に位置する魔物、岩小鬼(ロックゴブリン)だった。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 最初に洞窟内の異変に気が付いたのは、群れの中でも生まれて3週間、やっと成体になったばかりの下っ端だった。


 彼は気怠そうに、粗雑なつるはしをガリガリと引き摺りながら、洞窟内の見回りをしていた。

 本当は巡回なんてしたくないが、自分が一番下っ端だから仕方ない。

 我が儘を言うと殴られるし、楽しいことに交ぜてもらえなくなる。

 憂鬱な気分になりながらも、出口に向かって異常がないか確認をしていく。

 だが所詮ゴブリン。その確認も雑で目についたものを気ままに見ていくだけ。

 そんなゴブリンがそれを発見できたのはたまたま運がよかっただけだった。

 居住区から少し離れたところでピカピカと光る奇妙な青白い光に気が付き、不審に思った。


「ギィ……?」


 そろり、そろりと足音をたてないように近づく。

 鍾乳石の陰からこっそり、光が見える方向を覗く。

 青白い光の陰には黒い髪の人間が倒れているのが見えた。


 ゴブリンは運がいいと思った。


 先日、近くの村を襲い人間のメスを攫った時に、洞窟に一人で乗り込んできた剣を持った鎧姿のオスとは違い、首の周りがごわごわしていて奇妙な姿をしていた。

 あの時のオスはすぐにボスにバラバラにされて食べられてしまった。

 襲撃には参加していないため、指の欠片しか貰えなかった。

 メスのほうもいつの間にか事切れていて、おこぼれには在りつけなかった。


 ゴクリ。

 喉が鳴る。


 今回は自分がおいしい思いをする番だ。

 急いで駆け寄り、嬉々として倒れている男に手をかけようとして、ふと考えた。


「ギぃ……」


 小鬼(ゴブリン)の世界は強いものが正しい。

 強いものがすべてを手に入れる。

 弱いものは強いものが零したおこぼれをもらうだけだ。

 きっと先に手を出したことがバレたら殺されてしまう。


「ギギ!」


 だけど、今回は違う、一番最初に発見したのは自分だ。

 きっとボスも褒めてくれる。

 急いで報告すれば脚の一本でも貰えるかもしれない。

 そう思った醜い小鬼は足早に居住区へ戻っていった。


「ギャギャウ!!」


「ギャギャ!?」


 洞窟の入り口付近に倒れた人間がいてピカピカ光っていたことをボスに報告した。

 ボスは顎に手を当て何か考えているようだった。

 きっと褒美に何をあげようか悩んでいるのだろう。

 下っ端の小鬼はそう思っていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「グオォォォオォォォオ‼」


 始めに下っ端から青白く光っていると聞いた頭目岩小鬼(ロックホブゴブリン)は、魔法を思い浮かべた。

 経験上、普通とは違う人間は火の玉や、鋭い風を飛ばしてくる。

 何度か辛酸を舐めながらそういった人間から逃げ延びてきた頭目岩小鬼は、その光が危険だということを知っていた。


 しかし、次いで倒れていたという報告を聞いたボスは、その人間は手負いでここが自分たちの住処だと知らずにこの洞窟に入ってきたのだと判断し、自身と群れを鼓舞するかの如く大きな雄叫びを上げた。


 不自然に盛り上がった重厚な筋肉の上に、体格に合わない小さな鎧をジャラジャラと身にまとった、体長2メートルほどの巨体の頭目岩小鬼(ロックホブゴブリン)は、洞窟に乗り込んできた男から奪った剣を持ってその場所に向かった。

 おいしい獲物が来たと舌なめずりをしながら。


 しかし人間がいた場所に案内をさせると、案内役の岩小鬼(ロックゴブリン)が狼狽え始めた。

 その場に光る人間の姿がなかったからだ。


 そして異変に気が付いた。

 何故かわからないが、そこに立っているだけで息苦しかったのだ。


「ギ……? ギガッ──」


 疑問に思い案内役のゴブリンを問いただそうとしたとき、ヒュッという音と共に赤く光った何かが飛んできたのを咄嗟に手で持った剣で弾いた。

 カランと岩壁に当たり音を立てて落ちる小石を見たとき、頭目岩小鬼(ロックホブゴブリン)はこれが何か悪意がある者の攻撃だと即座に判断した。


 頭目岩小鬼(ロックボブゴブリン)は自分をよく理解していた。

 自分がこの群れのボスになれたのは人一倍臆病だったからだ。

 危険をいち早く察知し、冒険はしない。

 ()()()()()()()()()()()()()()し、確実に殺せる相手としか戦ってこなかった。

 獲物を陥れるためには罠も使った。

 おびきだした獲物を、罠にはめ殺すのは簡単だった。

 そして気持ちよく、それは安全だった。

 だからこそ、ここまで生きてこられた。

 いつの間にか、回りにはお零れをもらおうと画策する同族が集まっていた。

 警戒すると同時に、これはチャンスだと思った。

 上手くいけば、ここから成り上がれる、魔物の王になれる、そう思った。

 人一倍、危険に臆病だからここまで生き残れたのだ。


 だからこそその経験が、静かな洞窟内に濃厚な死の香りが漂っていることを敏感に感じとった。


 頭目岩小鬼(ロックホブゴブリン)は慌てて隣にいた案内役の岩小鬼と部下たちを薙ぎ倒し、奥に逃げようとした。

 みっともないと笑われてもいい。部下に馬鹿にされてもいい。

 死んだらすべてが終わりなのだ。

 混乱している岩小鬼の頭を鷲掴みにすると盾にし、その迫りくる衝撃に備える。

 目の前には赤々と燃ゆる死が迫ってきていた。

 轟音と爆風が辺りを包み込んだ。

 体を焼き尽くす熱量と引き裂かれるような痛みを感じた。

 王になることを夢見た岩小鬼は間に合わなかった。

 押しつぶされるような感覚を最後に、バラバラになった岩小鬼たちはそのまま永遠の眠りについた。


 ガラガラと、崩れた洞窟がそのまま彼らの墓標となった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 岩小鬼(ロックゴブリン)にとっては不運だったが、洋也にとっては幸運だった。

 これは罠でもなんでもなく、たまたま偶然が折り重なった結果だった。

 洋也がもし、今の状態で岩小鬼(ロックゴブリン)と鉢合わせしていたら、間違いなく彼らの空腹を満たしていただろう。


 下っ端岩小鬼が最初に目撃した青白い光、あれは洋也が静電気体質を何とかしてほしいと、抽象的に神様に頼んだことによって起こった現象である。

 その洋也の願いに、神様は彼の体質を改善・強化することで答えた。

 神様はせっかくの面白い体質なので、消すことは始めから考えていなかったのだ。


 まず、彼の腕の筋肉細胞を電気ウナギが発電する仕組みの一つである《発電板》という細胞に置き換えた。


 これが《静電気Lv1》だ。

 腕を発電器官にすることで、電気に耐えられる体に改善したのだ。

 次に、《体質強化》というパッシブスキルにより、その発電器官による発電能力を強化した。


 強化され体内に蓄積された電力が、水溜まりに両手が入ったことで本人の意思とは関係なく放電し、水がその大量の電力によって水素と酸素に電気分解された。

 大量に分解された水素は洞窟内に充満、またその体積比は水素2に対して酸素が1、これにより空気中の水素濃度が上昇する。相対的に酸素濃度が低下したことで、一時的ではあるが、周囲の空気の酸素が欠乏状態になり、洋也や岩小鬼に頭痛や吐き気、息苦しさが感じていたのである。


 その場の水素濃度は実に五十%を上回っており、その水素に約千度にまで温度が上がった鉱石が触れたらどうなるか、結果は岩小鬼の死と洞窟の崩壊という形で現れたのだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「くっそ……」



 爆発した直後、胸を中心に全身が作り変えられているような強烈な痛みを感じ、その場に跪きうずくまった。

 自分とは別の何かが体の中に入り込み、その何かが全身を這うように蠢きそれは徐々に治まっていった。


 初めて洋也がアルマを吸収した瞬間だった。

 この世界では生き物を殺すことでアルマを得る。

 ゲームで言う経験値のようなもので、これを吸収することで肉体的な強度が上がり、成長していくのだ。


「何だったんだ今の……」


 肉体的な痛みが引いたことで、冷静な思考が戻ってきた。


(早くここから出ないと……崩れるかもしれないな)


 そう思い急いで移動しようと立ち上がると、異様な体の軽さに気が付いた。

 まるで体に羽が生えたような、そんな感覚になった。

 急激な肉体の変化に慣れず、ふらふらと覚束ない足取りで新鮮な空気が流れてくる方向へ歩を進める。


 しばらくすると目に染み入るような優しく暖かな光が全身を包み込み、青空から幻想的な光が差し込む雑木林と、さらさらと水の流れる音、魚が力強く水面を叩く光景が眼前に広がった。


 水がある。

 これで水分問題はこれで解決だ。

 でも腹が減って死にそうだ……。

 食料はカ〇リーメイトしかない。

 あの魚、何とかして捕まえられないかな。


 ボリボリとカロリー〇イトを食べながら、リュックを川岸に下ろし川の中に入る準備をする。

 水深は膝下くらいで流れは緩やかだ。

 水面には見たこともない魚が水中を気持ちよさそうに泳いでいる。


(近寄っても逃げないな。手で捕まえられないかな)

 

 靴と靴下を脱ぐ。

 スーツを膝上まで捲り、

 勢いよく水中に足を踏み入れた瞬間――。


 バチバチッ!


 今までの静電気とは一線を画す放電音と衝撃が、鼓膜を震わしながら青白い稲光と共に水面を駆け抜けていく。

 静寂を取り戻した水面には、その雷撃を浴びた大量の魚たちが、口を開けながらぷかぷかと浮いていた。


「ま、まじかよ……」


 あまりの出来事に洋也は水面に浮く魚と同じようにぱくぱくと口を開け、呆然と立ち尽くした。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 名前 別宮洋也  年齢 27

 職業 ―――

 身分 ―――

 能力値 Lv44

【体力】C

【魔力】C

【筋力】C

【敏捷】A

【頑丈】C

【知性】G

【ユニークスキル】 

 静電気Ex(MAX) 魔法創造

【パッシブアビリティ】

 異世界言語 体質強化 魔力操作Lv1 

【アクティブアビリティ】

 -

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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