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257話

 死の沼地ライメムトーの行軍は数日続いた。

 初日の夜の静けさ──宴会によりそれ程静かではなかったが──が嘘のような度重なる魔物の襲撃。

 程度の軽くはない負傷者、死者の増加。

 統率された魔物達によって散発的に行われる夜襲は、討伐軍の体力を削り取り交代での休息と戦闘を繰り返している冒険者と兵士たちの疲労は既に限界に達していた。


 既にその三分の一程は戦線から離脱し、動けるものは後方支援へと回っていた。


 治癒士などは戦線の要になる為、治療に回復魔法は使用されずもっぱら回復ポーションのみの運用のなった。


 残念ながら深い傷を負った冒険者や兵士たちは助からず、持ち物の一部を遺品として回収し遺体はその場に放置された。


 そのような現状で士気を上げることは並大抵の事ではなく、残った討伐軍の中でもいまだ高い士気を保っているのは一部の高ランク冒険者達とティラガードの兵士、そして辺境伯たちの側近くらいのものであった。


 数日の行軍後、目撃者の目印である古びた石碑の近くにそれはあった。



「あ、あれが......」



 目の前に聳えるその城を見て誰かが呟いた。


 城の周りは掘りになっており、人骨の橋が架けられている。

 風に吹かれ橋が揺れるとカラカラと軽い音が鳴り、周囲の朽ちた枯木と相まって、不気味な様相を醸し出していた。


 よく見るとその骨は鎧や剣、矢などが突き刺さっており、骨になった手や肋骨、背骨などを繋ぎ合わせるようにして橋が形成されていた。


 古めかしい兜や甲冑などを見るに、恐らくは遥か昔にこの地で起きた戦争による死者で構成されているようだった。


 そしてその異様な光景はまるで次にこうなるのはお前たちだと言っているようにも見えた。


 不気味なのは橋だけではない。

 堀に囲われている奥に見える城はより一層気味の悪いものだった。


 城は橋と同様に人骨で形成されているが、ちらほらと人のものとは思えないほどの巨大な骨も含まれている。


 その最たるものは、城門の上に見えるのは巨大な爬虫類の頭蓋骨だった。


 捻れた角がいくつも生えているその頭骨の窪んだ眼には紫色の光が灯っており、開いた口からは黒く鋭い牙が覗いている。


 左右に揺らめく紫色のその光源は、まるで相対する冒険者や兵士たちを値踏みするように動く眼球のようにも見えた。


 隊列の先頭にはドリュウズと四大辺境伯たちが陣取り、この戦の決戦の地とも言える場所で相手の動きを伺っているようだった。


 橋の奥にある太く大きな肋骨のような骨で出来た門は固く閉ざされている。


 その両端には太い骨が並び、地面の接地している五本の鋭い骨は手にも見えた。


 座った犬のように見える──そんな可愛らしいものではないが──それは、座っている骨のドラゴンだった。



「兄さん、冗談ですよね? あれはただの死んだドラゴンの骨ですよね? スカルドラゴンなんかじゃないですよね......?」

「妹よ、俺っちに聞くではない。ドラゴンなんて骨の状態ですら見ることはないんだからな。まぁもしスカルドラゴンだったとしても、こっちには数も質も揃ってるから大丈夫だ......。多分な」



 隣ではノーチェとニエヴェが目の前に見える現実から目を背けようとしていた。

 しかし二人とはうって変わって、我らが偉大な魔法使いはいつものような傲慢な態度だった。



「たかがドラゴン一匹、なんとかなるだろうよ」



 あらやだ男前。

 そんな頼もしい事を言うのはライアだった。


 目に見える骨のドラゴンは、城までの距離がまだあるにも関わらずかなりの大きさに見えた。


 推定でビル四階建てくらいだろうか。


 飛竜(ワイバーン)より遥かに大きかった。

 あの骨に俺の魔法は効くのだろうか。

 肉もないから相性は悪そうだ。

 どちらかと言ったら物理攻撃の方が効果的かもしれない。


 ただいかんせんあそこまで巨大だと、兵士たちや冒険者の並の剣では役に立ちそうもない。



「やっぱりあれはスカルドラゴンなんですね......」



 ライアの返事を聞いたニエヴェの耳がしゅんと垂れ下がった。



「あぁ間違いない。あれから大きな魔力を感じるから。ただ、問題なのはなんであんなに大人しく座っているかってところだね」

「番犬だからじゃないの?」

「番犬って......。スカルドラゴンは死んだドラゴンの怨み辛みが集まって生まれるもんだ。そりゃあもう怨みを晴らすために大暴れするのが普通。街なんてあっという間に消えちゃうぐらいの強者だよ。なのに大暴れもせずに大人しく座ってるのはなんでだろうねぇ」

「つまり、あのスカルドラゴンを従えるほどの存在がいるって事ですか?」

「そのとおり。誰だかはわからないがね」



 誰だかはわからないと言うライアは自嘲気味に笑った。

 

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